<ショートショート> 夢の著作権
夢にも著作権がある。
正式名称は夢像著作権保護法。
人が眠っている間に見る夢は、脳が作り出す映像作品であり、創作物として扱われる。
そのため、夢を無断で記録・公開することは禁止されている。
この法律ができたのは、夢記録装置が普及してからだった。
装置は睡眠中の脳活動を読み取り、夢の映像をそのまま保存できる。
最初は医療用だった。
しかし、人々はすぐに別の使い方を見つけた。
夢の配信だ。
他人の夢は面白い。
現実ではありえない景色や、奇妙な物語が次々と現れる。
夢配信サイトは急速に広まり、人気の夢は映画よりも再生された。
当然、問題も起きた。
他人の夢を勝手に録画し、公開する者が現れたのだ。
政府は急いで法律を作った。
夢の著作者はその夢を最初に見た人間。
登録された夢は著作権で保護される。
私はその取り締まりを担当している。
職業名は夢監査官。
今日も一件の通報が届いた。
人気夢配信者の動画だ。
再生数は四百万。
タイトルは「空の街」。
空に浮かぶ都市を歩く夢だった。
街は雲の上にあり、建物は静かに漂っている。
私はログを確認する。
夢の著作権登録はない。
つまり、無断公開の可能性が高い。
私は配信者に連絡した。
「この夢はあなたの作品ですか?」
男は軽い口調で答えた。
「ええ。昨日見た夢ですよ」
「証明できますか?」
「夢なんて証明できないでしょう」
私は端末を操作する。
夢には個人特有の特徴がある。
脳波パターン。
夢構造。
発生時刻。
解析すれば、最初に見た人物を特定できる。
数分後、結果が出た。
私は画面を見る。
そして、少し考えた。
予想と違う。
私は男に言った。
「この夢の著作者が分かりました」
「誰です?」
「あなたではありません」
男は黙った。
「じゃあ誰です?」
私は解析結果を確認する。
夢の初回記録は三年前。
だが、奇妙なことがある。
夢を見た人物の脳波データが存在しない。
登録された人間のどれとも一致しないのだ。
つまり、この夢は人間が最初に見た夢ではない。
私はさらに解析を進める。
夢の内部構造を調べる。
そこには多くの人物がいた。
空の街を歩く人々。
窓から外を見ている男。
私はその人物の視点を追跡する。
解析結果が更新された。
私は少し驚いた。
この夢は夢の中の人物が見ていた夢である可能性が高い。
男は笑った。
「そんな話、あるわけないでしょう」
私は端末を閉じる。
「そうですね」
私はそう言った。
だが、そのとき、解析装置が新しい結果を表示した。
夢解析:完了
この夢の観測者
2名
私はゆっくり顔を上げた。
ここには私しかいない。
では。
もう一人は誰なのだろう。
