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ライトSFP #11:地下専用ドローン。どうせ掘るなら、未来も一緒に埋めようと思った。

  地下物流が当たり前になって、もう二十年が経つ。
 その路線の保守点検は、私の担当だった。

 地下二メートル。
 道路の下に走る、直径一メートルの物流パイプ。
 空を飛ぶドローンの時代は、結局、来なかった。

 何十、何百というドローンが住宅街の上空を飛ぶ未来に、誰もが耐えられなかった。
 騒音。落下。墜落事故。プライバシー。
 空を見上げれば常に何かが飛んでいる街を、人は望まなかった。

 そこへ、老朽化したインフラの更新時期が重なった。

 全国の水道管。
 
下水道。

 ガス管。

 その更新工事は、これから何十年も続いていく。

 どうせ何十年も道路を掘り返すなら、そこへ物流の幹線も一緒に埋めよう。

 誰かがそう言った。

 こうして、古いインフラを新しくする工事に合わせて、地下専用ドローンのパイプが、全国へ埋められていった。

 地上には出ない。

 空も飛ばない。

 天候に左右されず、騒音もなく、二十四時間、荷物だけが地下を流れ続ける。
 都市部は太い幹線。住宅街は細い支線。

 AIが優先順位を判断し、最短経路で運ぶ。

 便利な世界になった、と思う。

 私の仕事は、そのパイプの中を点検することだった。

 点検専用のドローンが、夜のうちにパイプ内を巡回し、継ぎ目や内壁を撮影してくる。

 その映像を、AIが解析する。

 同じ映像を、私がもう一度、目で確認する。

 たいていは、AIの判断が正しい。

 人間が見つけるより先に、AIが異常を見つけている。

 その日も、AIの画面には何も出ていなかった。

 「異常なし」

 緑のランプが点灯していた。

 だが、その夜の映像を見ていて、私は手を止めた。

 パイプの継ぎ目に、白い跡があった。

 AIは、その同じ映像を「異常なし」と解析していた。

 接合部が、わずかに緩んでいる。

 パイプの外の地下水が、継ぎ目から内側へ、わずかに染み込んでいる。

 染みては乾き、染みては乾きを繰り返し、白い跡が残っていた。

 いや、白い跡だけではなかった。

 その継ぎ目のまわりだけ、いつもと何かが違う気がした。

 何が、とは言えない。

 だが、二十年見てきた目が、ここで止まれと言っていた。

 私はAIに報告した。

 「B-7区間、継ぎ目に浸水の兆候」

 AIは答えた。

 「該当区間、異常検知なし。点検優先度、低」

 数値上は、まだ問題ない。

 搬送スピードも、内部の気圧も、正常の範囲だ。

 AIは、はっきりした異常が出てからでなければ動かない。

 だが私には分かった。

 うまく言葉にできない、この引っかかり。

 これは、二十年見てきた目にしか映らない。

 私は手書きで報告書に残した。

 「B-7、近く浸水・継ぎ目破損の可能性。要監視」

 誰も読まないかもしれない。

 それでも書いた。

 半年後、B-7区間の継ぎ目が抜けた。

 地下水がパイプ内へ一気に流れ込み、その区間は二日間止まった。

 荷物は別の支線へ迂回された。物流網全体は、止まらなかった。

 その区間の先には、人工透析の医薬品を地下物流で受け取っていた診療所があった。

 二日間、別ルートでの搬送に切り替えられた。

 原因究明の会議で、私の手書き報告書が見つかった。

 「半年前に、兆候を報告していた職員がいた」

 会議室が静かになった。

 本部の担当者が言った。

 「なぜ、AIは検知できなかったのか」
 別の担当者が答えた。

 「AIは、明確な異常値を検知する設計です。その"前兆"は、検知対象外でした」

 私は発言を求められた。

 何と言えばいいか、迷った。

 そして、こう言った。

 「AIは、異常と、異常になりそうなところを見つけます。

 でも私は、それに加えて、まだ理由の分からない違和感も見ています。

 たぶん、両方いるんです」

 会議のあと、制度が変わった。

 点検員の「経験による所見」を、AIの判断と並べて記録する。

 数値で異常が出なくても、人間が「おかしい」と言えば、優先度を上げる。

 AIの解析と、人間の予感を、二つ並べて運用する。

 新しい点検端末には、項目が一つ増えた。
 「点検員所見(自由記述)」

 私は、その欄に手書きの感覚を打ち込むようになった。

 継ぎ目の白い跡。内壁の、わずかな変色。前の月の映像との、かすかな違い。

 そして、うまく説明できない引っかかり。

 数値にならないものを、言葉にして残す。

 ある日、新しく入った若い点検員が聞いてきた。

 「この跡、AIは異常なしって出してます。報告、要りますか」

 私は、彼の肩越しに映像を見た。

 二十年見てきた目には、それが分かった。

 「書いておけ」
 私は言った。
 「AIが見落とすものを見るのが、お前の仕事だ」

 地下を、荷物が流れ続けている。

 空は、静かなままだ。

 誰も見上げない地下で、人間とAIが、同じ映像から、別々のものを見ている。

 たぶん、それでいい。

 異常を見つけるAIと、違和感に気づく人間。

 その二つが揃って、ようやく、何も起きない一日が続く。

あとがき
老朽化した水道管の更新工事のニュースを見て、思った。
これから日本は、何十年も道路を掘り返し続ける。
どうせ掘るなら、未来の物流も一緒に埋められないだろうか。

空を何百ものドローンが飛ぶ未来より、私はそんな地下のほうを想像したい。
どんなに賢い仕組みを埋めても、壊れる前に気づく目だけは、埋められない。



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私の変わった作品の原点はこちらです。

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