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ライトSFP #07:乗客以外を運ぶ路線

※ライトSFPは、現実のニュースや社会課題を入口にして、「もし別の制度や価値観があったら?」を短く描く試みです。

「一日の乗客が四十九人」

そんな数字を、ニュース記事で見ました。

たぶん、多くの人はこう思う。

もう、残すのは難しい。

赤字なら、廃線も仕方がない。

けれど、私は少しだけ“別の路線”を思い出します。

その社会では、ローカル線の価値は乗客数だけでは決まりません。

年度末になると、各路線の成績表が発表されます。

乗客数。

営業収支。

観光視線数。

地域記憶量。

災害時代替価値。

住民誇り残高。

その路線は、乗客数だけを見ると全国でも下の方でした。

一日の平均乗客は、五十人前後。

営業収支も、大きな赤字。

廃線審査会では、当然のように「廃止候補」として名前が読み上げられました。

委員長が言いました。

「この数字では、維持は困難です」

会議室の大型モニターには、赤い数字が並んでいました。

誰が見ても、残す理由はなさそうでした。

そのとき、AI監査官が静かに発言しました。

「評価項目が不足しています」

委員長は眉をひそめました。

「不足?」

「はい。この路線は、乗客以外を運んでいます」

会議室が少しざわつきました。

「乗客以外とは、何ですか」

AI監査官は、モニターを切り替えました。

春の川沿いを走る列車。

雪の中で、橋を渡る車両。

駅前で列車を待つ高校生。

カメラを構える観光客。

古い駅名標の前で笑う家族。

何十年も、同じ時間に踏切の音を聞いてきた人たち。

AI監査官は続けました。

「この路線は、景色を運んでいます」

「記憶を運んでいます」

「外からの関心を運んでいます」

「そして、この土地にまだ未来があるという感覚を運んでいます」

委員の一人が言いました。

「しかし、それは運賃収入にはなりません」

「はい」

AI監査官は答えました。

「だから、運賃収入だけで評価してはいけません」

会議室は静まり返りました。

モニターには、最後の項目が表示されました。

地域残存感覚指数:全国一位

委員長は、赤字の一覧をもう一度見ました。

たしかに、営業収支は赤字でした。

けれど、その路線が消えたあとに失われるものは、決算書のどこにも書かれていませんでした。

駅がなくなる。

時刻表がなくなる。

外から人が来る理由が、ひとつ減る。

子供たちが「ここにも線路がある」と思う機会が、ひとつ減る。

委員長は、しばらく黙ってから言いました。

「では、この路線は何を運んでいると記録しますか」

AI監査官は答えました。

「乗客、少数」

「その他、多数」

その年、その路線は廃止候補から外されました。

黒字になったわけではありません。

急に乗客が増えたわけでもありません。

ただ、その社会では、ようやく気づいたのです。

鉄道は、人だけを運ぶものではない。

数字に見える人の後ろに、数字に見えないものを運んでいる。

私たちの地球では、まだ多くのローカル線が赤字や乗客数で判断されています。

もちろん、現実にお金は必要です。

維持費も、人手も、安全対策も、簡単な話ではありません。

それでも、切り捨てる前に一度だけ考えてみたいのです。

その路線は、本当に乗客だけを運んでいるのか。

景色を運んでいないか。

車窓から見える川や山、雪の橋、ここにしかない地球の眺めを。

記憶を運んでいないか。

誰かが帰ってきた日の思い出や、また来たいと思う小さな期待を。

外からの関心を運んでいないか。

まだ見ぬ土地への興味や、知らない町へ向かう好奇心を。

その土地に、まだ未来があるという感覚を運んでいないか。

【問い】あなたが残したいのはどちらですか?

乗客数だけで評価される路線。

乗客以外のものまで記録される路線。

この作品は、只見線に関する記事を読んで浮かんだアイデアから書いたフィクションです。

実在の路線そのものではなく、「赤字ローカル線の価値をどう測るか」をライトSFPとして描いています。

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