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<ショートショート> 別の地球:偶然設計部

私の勤めている部署は、少し変わっている。

名前は「偶然設計部」。

ここでは、世の中の「偶然」を設計している。

落とし物。

電車の遅れ。

席の空き。

突然の雨。

そういった小さな出来事を、ほんの少しだけ調整する。

たとえば、駅のホームで、女性が本を落とした。

男がそれを拾い、声をかける。

「落としましたよ」

それがきっかけで二人は会話をする。

やがて二人は結婚する。

こういう偶然を、私たちは作る。

もちろん、すべてではない。

ほんの少し。

世界がうまく回るように、ほんの少しだけ調整する。

私の担当は「出会いの偶然」だ。

カフェの満席。

エレベーターの混雑。

雨宿り。

ほんの小さなズレを作るだけで、人は出会う。

入社して三年。

私はそれなりに仕事に慣れていた。

ある日、部長に呼ばれた。

「大きな案件だ」

机の上に一つのファイルが置かれる。

表紙には二人の名前。

男性、32歳、研究職。

女性、29歳、出版社勤務。

まだ出会っていない。

だが、この二人が出会うと、将来、子供が生まれる。

そしてその子供は、画期的なエネルギー技術を発明する。

世界を変える発明だという。

「この出会いを設計してくれ」

部長はそれだけ言って、席に戻った。

私は計画を立てた。

電車を少し遅らせる。

カフェを満席にする。

相席を作る。

ごく自然な偶然。

設計は整った。

あとは実行するだけだった。

だが、ファイルを閉じようとしたとき、最後のページが目に入った。

未来予測。

その科学者の発明。

確かに世界は変わる。

だがその技術は、兵器にも転用される。

未来の戦争。

死者数の推定。

私はファイルを持ったまま、しばらく椅子から立てなかった。

翌日、部長のところへ行った。

「この偶然を止めたいんです」

部長は手を止めて、こちらを見た。

「理由は」

私は資料を見せた。

部長は一通り読んだ。

読み終えても、すぐには何も言わなかった。

窓の外を見ていた。

やがて、静かに言った。

「止めよう」

私は驚いた。

「いいんですか」

部長はこちらを向いた。

「偶然は一つじゃない」

私は設計を破棄した。

電車は遅れない。

カフェは空いている。

二人は出会わない。

そのはずだった。

数日後。

私はニュースを見ていた。

インタビューを受ける若い男女。

どこかで見た顔。

レポーターが聞く。

「お二人はどうやって出会ったんですか?」

男が笑った。

「エレベーターです」

「閉まりかけたドアに、彼女が走ってきて」

「それが最初でした」

私は息を止めた。

その偶然は、私の設計ではない。

背後で部長の声がした。

「言っただろう」

「偶然は一つじゃない」

私は振り向いた。

「じゃあ、私たちの仕事は何なんですか」

部長は少し間を置いて言った。

「偶然を作ることだ」

「それだけですか」

「それだけだ」

部長は机の上のファイルを閉じた。

そして私を見た。

「たとえば」

「君がここに入社した偶然」

私は黙った。

部長は続けた。

「試験の日の電車の遅れ」

「面接官の急な欠勤」

「偶然空いた席」

「全部、設計だ」

私は何も言えなかった。

部長は窓の方を向いた。

「この案件を担当する人間が必要だった」

私は机の上のファイルを見た。

未来の戦争の予測。

まだそこにある。

部長が言った。

「さて」

「次の偶然を設計しよう」

そして静かに続けた。

「世界が、予定通り進むように」


【あとがき】
あなたの今日は、誰かの設計ですか。
わたしはこの地球が好きだ。


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