雲の住む音楽家〜夕焼け雲のコンサート〜
片桐みかんさんのこちらの画像とお題を
お借りして作らせて頂きました。
みかんさん
いつもお題をありがとうございます😊

雲の住む音楽家〜夕焼け雲のコンサート〜
えみたん作
夕方になると、
空はゆっくり
オレンジ色に染まります。
町の屋根も、
川の水も、
人々の顔も、
やさしい光につつまれます。

その町には、
少し不思議なうわさがありました。
「夕焼け雲の中には、
音楽家が住んでいるんだって」
けれど、
その音楽を聞いた人は
ほんの少ししかいません。

町のはずれに、
こはるという女の子が住んでいました。
こはるは、
夕方の空を見るのが大好きです。
なぜなら夕焼けは、
一日が終わる前に
空がくれるプレゼントみたいだったからです。

その日、
こはるのお母さんは
朝からずっと忙しそうでした。
洗濯。
買い物。
ごはんの支度。
お仕事の電話。
お母さんのため息は、
小さな風船みたいに
部屋の中へ浮かびました。

「お母さん、だいじょうぶ?」
こはるが聞くと、
お母さんは笑いました。
「だいじょうぶよ。
ちょっとだけ、
心がくたくたなだけ」
その笑顔は、
少しだけ夕焼けににじんで見えました。

そのときです。
ぽろん。
どこからか、
小さな音が聞こえました。
ぽろん。
ぽろん。
まるで、
空の上で誰かが
ピアノを弾いているみたいでした。

「お母さん、
今の音、
聞こえた?」
こはるが聞くと、
お母さんは首をかしげました。
「音?」
でも次の瞬間、
お母さんの目が
ふっとやわらかくなりました。
「……あれ?
なんだか、
胸があたたかい」

こはるは窓を開けました。
夕焼け雲の上に、
小さなステージが見えました。
ふわふわの雲でできたステージ。
光のカーテン。
風のスポットライト。
そこに、
ひとりの音楽家が立っていました。

音楽家は、
銀色の髪に、
夕焼け色のマント。
手には、
三日月の形をした
不思議な楽器を持っていました。
こはるは思わず言いました。
「雲の住む音楽家さん……?」

音楽家は、
こはるに気づくと
にっこり笑いました。
「こんばんは、こはる」
「どうして私の名前を知っているの?」
「空はね、
がんばっている人の名前を
ちゃんと知っているんだよ」

「これから、
夕焼け雲のコンサートを始めます」
音楽家はそう言うと、
そっと楽器をかまえました。
風が静かになりました。
鳥たちも羽を休めました。
町の時計も、
少しだけゆっくり進みました。

最初の音は、
やわらかい毛布のようでした。
ぽろん。
ぽろん。
ぽろん。
その音は、
町のパン屋さんへ届きました。
朝からパンを焼き続けたおじさんが、
ふうっと肩の力を抜きました。

次の音は、
あたたかいスープのようでした。
ことん。
ことん。
ことん。
その音は、
バスの運転手さんへ届きました。
何度も何度も人を運んだ手が、
ハンドルの上で
少しだけ休みました。

三つ目の音は、
小さな花びらのようでした。
ひらり。
ひらり。
ひらり。
その音は、
保育園の先生へ届きました。
一日中子どもたちを抱っこした腕が、
「今日もよくやったね」と
言われた気がしました。

音楽は、
町じゅうへ広がりました。
お店の人へ。
お掃除をする人へ。
荷物を運ぶ人へ。
宿題をがんばる子へ。
みんなの心に、
そっと音が届きました。

こはるは、
空の音楽を聞きながら
お母さんを見ました。
お母さんは、
エプロンの端をぎゅっと握っています。
そして、
小さな声で言いました。
「なんだか……
泣きそう」

こはるは心配になりました。
「お母さん、悲しいの?」
お母さんは首を振りました。
「ううん。
悲しいんじゃないの。
がんばっていた心が、
やっと休んでいる感じ」

雲の音楽家は、
静かにうなずきました。
「涙はね、
心のお風呂なんだよ」
こはるは目を丸くしました。
「心もお風呂に入るの?」
「もちろん。
たくさんがんばった日は、
心だって汗をかくからね」

こはるは、
思わずくすっと笑いました。
「じゃあ、お母さんの心、
今日は大浴場だね」
お母さんも笑いました。
「それは、
なかなか広そうね」
久しぶりに聞くお母さんの笑い声でした。

音楽家は、
次の曲を弾き始めました。
今度の曲は、
夕焼け色のリボンみたいに
空をくるくる舞いました。
音符たちは、
疲れた人の肩に
そっと止まりました。

ひとり暮らしのおばあさんは、
窓辺でお茶を飲んでいました。
音楽が届くと、
昔いっしょに歌った
おじいさんの声を思い出しました。
「今日も、いい夕焼けだね」
おばあさんは、
空に向かって笑いました。

病院で働く看護師さんにも、
音楽は届きました。
忙しい一日を終えて、
廊下の窓から空を見たとき、
胸の奥に小さな音が響きました。
「あなたのやさしさは、
ちゃんと誰かを支えているよ」

学校で泣きそうだった男の子にも、
音楽は届きました。
うまくできなかったこと。
言えなかった言葉。
悔しかった気持ち。
その全部を、
音楽は責めませんでした。
ただ、
そばに座ってくれました。

こはるは、
雲の音楽家に聞きました。
「どうして、
がんばった人に音楽を届けるの?」
音楽家は、
少しだけ空を見渡しました。
「みんな、
自分ががんばったことを
忘れてしまうからだよ」

「がんばったことって、
誰かにほめてもらわないと
小さくなってしまうんだ」
音楽家は言いました。
「だから僕は、
夕焼けの時間に演奏する。
一日を終えるみんなへ、
空から拍手を送るために」

こはるは胸に手を当てました。
「じゃあ、私にも届く?」
音楽家は笑いました。
「もちろん」
そのとき、
こはるの胸の中で
小さな音が鳴りました。

こはるは今日、
お母さんを心配しました。
お手伝いもしました。
苦手な漢字も書きました。
転んだけれど、
泣かずに帰りました。
小さなことばかりだけれど、
どれもちゃんと、
がんばったことでした。

「私も、
がんばってたんだ」
こはるがつぶやくと、
音楽家はうなずきました。
「そうだよ。
大きながんばりも、
小さながんばりも、
空から見ると
どちらも光っている」

やがて、
夕焼け雲のステージに
たくさんの雲たちが集まりました。
ふわふわ雲は太鼓。
すじ雲はハープ。
入道雲は大きなコントラバス。
小さな雲は、
ちょっと音を外して
「ぽへっ」と鳴りました。
こはるはまた笑いました。

「さあ、最後の曲です」
音楽家が言いました。
町じゅうの窓が、
ひとつ、
またひとつ、
夕焼け色に光ります。
みんなが空を見上げました。

最後の曲は、
言葉のない子守歌でした。
でも、
誰の心にも
同じ言葉が届きました。
今日も、
よく頑張ったね。
無理して笑った日も。
泣くのをこらえた日も。
ちゃんと生きた一日だったね。

お母さんは、
ぽろりと涙をこぼしました。
こはるは、
お母さんの手を握りました。
「お母さん、
今日もよく頑張ったね」
お母さんは、
こはるをぎゅっと抱きしめました。
「こはるもね」

雲の音楽家は、
そっと楽器を下ろしました。
夕焼けは、
少しずつ夜へ変わっていきます。
「また会える?」
こはるが聞くと、
音楽家はにっこり笑いました。

「夕焼けの空を見上げてごらん」
音楽家は言いました。
「今日の自分に
やさしい言葉をかけたとき、
僕の音楽は
きっと聞こえるよ」
こはるは、
大きくうなずきました。

その日から、
こはるは夕方になると
空を見るようになりました。
うれしい日も。
かなしい日も。
ちょっと疲れた日も。
夕焼け雲は、
いつもやさしく
そこにありました。

今日もどこかで、
夕焼け雲のコンサートが始まります。
がんばったあなたへ。
疲れたあなたへ。
泣きたいあなたへ。
空の上から、
やさしい音が届きます。
「今日も、
よく頑張ったね」

🌼おしまい🌼
🎹あとがき🌻
みかんさんいつも素敵なお題
ありがとうございます。
今回も楽しく書かせて頂きました😊
最後まで読んでくださり
ありがとうございました😊
絵本作りと日々の記録も
つぶやいていこうかなと思います。
看護と絵本。
形は違っても
『誰かの心を温めたい』
という想いは一つです。
あなたの応援が、
新しい物語の種になります。
コメント、好き❤️励みになります。
