【エッセイ】 58歳無職、ハーモニカの音色はたった一人に届いた件
発表会に臨む朝。
空気が冷え冷えとしていた。
事務的に予定をこなして心を整える。
大阪の中心部はほぼ30年ぶり。
心斎橋は初めてだ。
心斎橋までは新大阪から地下鉄の
御堂筋線で1本。
これは田舎者にはありがたかった。
地下鉄の駅で、妻が貸してくれた
SUICAを使う。
便利だなあ。どこでも使えるのか…
東京だけだと思っていた。
改札通って思い出す。
そう言えば、エアトレインの動画を
見たことがある。大阪の地下鉄のが
おもしろかったな。
ああいう人も練習するはずだが
仲間いるんだろうか?孤独だろな、と
とりとめのないことが頭をよぎる。
会場につき、受付をしてもらう。
これも生徒さんのボランティア。
場内では先生がPAのセッティング中。
音量のバランスが気になるのか…
PAできるひとすごいよね。
空間の音の感覚って難しい。
会がはじまる。私は5番目だ。
説明で、他の人の演奏に
いいところだけ書くカードの
説明があった。
いいところだけ。
生徒同士で批判しても
しょうがないからね。
理屈では正しいとわかる。
でも初めての人の演奏を初見で
いいところを見るって非常に難しい。
これ、私の性格の一番嫌なところ。
まず人の粗探ししてしまう。
気分的に上に立ちたいのか、
劣等感なのかわからないけど。
何書こう?
全員のじゃなくていいといわれると
余計に難しい。
順番に演奏するけど、あくまで
その人の演奏のいいところ。
…悪いところは目立つのだ。
上手なところは、聞いていて気持ちいい。
スムーズに流れていってしまうのを、
意識で捉えて、言葉にしないといけない。
誰のを書こうとか思ってると
書けずに終わる自分が見える。
めんどくさいから全員書く。
自分の演奏よりこっちが大変だった。
だけれど、これこそ発表会ならでは。
…耳を育てるというわけだ。
自分の演奏は、まずまず。
多少の緊張はあったものの
リズムの狂いはなく、伴奏と
うまく溶け込めた。
扉絵は私だ。
あとで先生が動画のリンク
送って貰った。自分の演奏を
冷静に見返す。
もちょっと強弱とかテクニック
強めに出してもよかったかな。
でも音色は結構いい。
これは、新幹線でリズムのおさらいを
しておいたことが効いたかもしれない。
伴奏を聴きながら
呼吸のタイミング合わせをしたのと
メトロノームで、曲のBPMで拍の感覚を
身体に入れた。
自分の番が終われば、あとは聞くだけだ。
いろんな人がいろんな曲をやる。
ポップス。懐メロ。
なぜか太田裕美が2人。
ジャズやロックもある。
メタルもいた。
ソロだけでなくデュオも数組。
こんなにたくさん、
同じ楽器を演奏する仲間がいたのは
本当に驚きだった。
昼は近場の中華に連れて行っていただいた。
いつもひとりで行動する癖で
コンビニか、来る時見つけておいた
店にしようと思っていたが
ついて行って正解だった。
少し話ができたしめっちゃ美味しかった。
最後の数組は本当に凄かった。
アドリブを入れている。その場で。
難易度もめちゃ高い。
静かに火をつけられた。
先生の演奏も生で聴けた。
やっぱりかっこいい。

移動して、懇親会になった。
酒が飲めないので懇親会は苦手だ。
だけど、すごい嬉しい事があった。
ある高齢の女性の方が、私の演奏を
めっちゃ褒めてくださった。
初めてお会いした方だ。
あんたの演奏が一番心に響いたよ。
もしかしたら、これが
私が一番聴きたかった言葉かもしれない。
音色が綺麗とかテクニックが素晴らしい
とか私もいっぱい褒め言葉に書いた。
でも、本当は思っていた。
そんな部分的な演奏技術、
ステージに立ったらどうでもいい。
聴いた人の心を震わせたい。
聴いた人の心に染み込ませたいんだ。
たった一人でいいから。
それが届いていた。
もうこれだけでめっちゃ勇気貰えた。
カプセルホテルのスペースに潜り込んで
明日、吉本見て帰ろうと思った。
続く
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