歩いては止まり 止まっては見上げ
強い陽射しから逃れるように、森に入りました。
背の低い樹も高い樹も森の空間を埋めるように枝葉を伸ばしています。
天井の枝葉の間に割り込んだ白く小さな太陽が、風で動く葉たちに隠れたり、現れたりしました。
緑の天井が高くなった気がします。
地表の落ち葉はすっかり乾いていました。
笹や小さな緑をよけて、シュメッ、シュメッと力を抜いて安全靴を下ろします。二歩、三歩と進んでは立ち止まり、視線を上げます。
緑の中に淡いピンクと紅色を見つけました。見回すと、そこにもあそこにも淡いピンクと紅色があります。
カス、カスとやや早足になって近づきます。淡いピンクと紅色はタニウツギの花と蕾でした。葉の裏に指を這わすと、一面に生えた白く短い毛が指の腹を柔らかく撫で返してきます。

天井の隙間から射す陽光が当たると、5枚の花びらは白くぼやけ、紅色の蕾は中が透けそうに光ります。
枝葉の陰にある花は、白地にピンクが走る花びらをラッパの形に広げ、どれも整った落ち着きを感じさせます。その花びらを中に包み持つ蕾は深く紅色でした。
数えれば十を超えそうな数の花と蕾が若い枝の先に固まってついています。どのタニウツギを見ても、小さな花束をたくさん持っているように見えました。
タニウツギと別れて森の奥へ進みます。
少し歩いては立ち止まり、天井を見上げます。どこで立ち止まっても、隙間から見える空は水色でした。
ホオノキの大樹が見えました。ホオノキの横に並んで樹冠を見上げると、いくつもの大きなプロペラの形をした葉が、重なり合って天井をつくっています。
と、枝の先の方に白いものが見えます。
ホオノキの花でした。
生まれて初めて見ます。目を細めて白い花びらを数えました。8枚か9枚の白い花びらは、緑の葉よりも小さな風車の形に見えました。

見上げるぼくからは、花の裏側しか見えません。
鳥たちが羨ましくなりました。
ホオノキの大樹と別れ歩き始めます。
遠くからカッコウ、カッコウと郭公の声が、反対側の遠くからはコン、コ、コ、コ、コと啄木鳥が樹を突く音が届いてきます。
三歩、四歩歩いては立ち止まり、地表から視線を上げます。
ザワザワと枝葉が騒ぐ音に天井を見上げました。
青空の下にある樹冠だけが音を立てて揺れています。
樹冠の枝たちは風に押されてギリギリまでしなり、なんとか元に戻ろうと風に抗っています。
風に任せて大きく小さく揺れる樹冠の枝葉たちは、風が走ってできる湖面のうねりのように見えました。
樹冠を揺らす風は何色だろうか
たくさんの緑の葉の中をすり抜けていく風は、透き通ったうすい緑色をしているかもしれません。
森を通る風の色だな
視線を下ろして焦げ茶色の落ち葉を見ながら、ぼくはまた歩き始めました。
