CO2バッテリーは成立するか――巨大インフラ化における物理制約と統治の空白



巨大なCO2貯蔵ドームを見上げる著者イメージ

止められないデータセンター

データセンターは、1秒たりとも止められません。

停電すれば、サービスは断絶し、信頼性は崩れます。だからこそ、ハイパースケーラーたちは常に電力供給を最優先課題としています。

しかし、この数年で状況は悪化しています。

AIの普及により、DCの消費電力は急激に増大しました。同時に、再生可能エネルギーへのシフトが求められ、不安定な電力網への対応が必須になりました。

太陽光や風力は天候に左右されます。曇れば、風が止まれば、発電量は激減します。

その「穴」を埋めるバックアップ電源として、Googleをはじめとするハイパースケーラーが注目しているのが、CO2バッテリーです。


CO2バッテリーとは何か

まず、名前に騙されてはいけません。これは従来の「バッテリー」ではありません。

CO2を気体から液体へ物理的に圧縮・膨張させることで、エネルギーを蓄える熱力学的システムであり、圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)の派生系だと言えます。巨大なドーム状の施設の中で、CO2を冷却・圧縮して液化させ、必要なときに膨張させてタービンを回して発電します。

開発企業Energy Dome社の実証実験では、サッカーコート1面分の施設で、最大20MWを8〜10時間供給できたという。合計200MWh。

一見、魅力的に見えます。

Googleはすでに、世界各地のDCにこのシステムを組み込む計画を進めてます。再生可能エネルギーが不安定になったとき、CO2バッテリーでバックアップする――


しかし、スケールすると見えてくる問題

ここで、冷静に計算してみましょう。

大型データセンターの消費電力は、数百MWに達する。Googleの大規模DC一つで、300〜500MWを消費することも珍しくありません。

仮に、500MWのDCを10時間バックアップするとします。必要なエネルギーは5,000MWh。

Energy Dome社の実証実験が示す200MWhで割ると、約25基のドームが必要になります。

サッカーコート25面分。

これは、もはや「施設」ではなく「巨大インフラ」です。 同時に系統接続したときにどうなるか、同時充放電をしたときの制御はどうなるのか。 これもまだ解っていません。

そして、Googleは世界中に数十のDCを持っている。Amazon、Microsoft、Metaも同様です。

もし、すべてのDCにCO2バッテリーを導入するなら――

数千のドームが、世界中に建設されることになるのです。


「成立条件」と「防御設計」

CO2バッテリーの報道は、おおむね好意的です。

「再エネと組み合わせれば持続可能」「CO2を有効活用」「クリーンな蓄電技術」――

しかし、ほとんど語られていない問題があります。

CO2は、どこから調達するのか。

このシステムには、大量のCO2が必要です。一つのドームに何トンのCO2が必要なのか、公開されているデータは少ない。

もし、火力発電所や工場から回収したCO2を使うなら、それは「新たなCO2排出源への依存」を意味します。

もし、大気中から直接回収する(DAC技術)なら、そのコストとエネルギー消費は膨大なものとなります。

電力接続

どのように電力を系統に接続するのか。あくまでDCのバックアップとして使うのか。

運用

一基あたりの発電量では足りず、スケールさせなければDCの長時間バックアップはできません。もしくは複数の設備が必要となります。その制御と保守はどうするのか。

土地は、どこに確保するのか。

数千のドームを建設するには、広大な土地が必要だ。DC近隣に確保できるのか。できなければ、送電ロスが発生します。

そして、その土地は何に使われていた場所なのか。農地か、森林か、それとも都市近郊の空き地か。

環境への影響は、本当にゼロなのか。

CO2を圧縮・膨張させるプロセスで、どんな副次的な影響があるのか。冷却に水は使わないのか。騒音は。振動は。

コストは、本当に成立するのか。

リチウムイオン電池と比べて、建設コスト、運用コスト、寿命はどうなのか。

制度

このシステムは大量のCO2を必要とします。それは現在の法で対応できるのか。

防御設計

大量のCO2が確保されていると言うことは、なにかあったときのために防御が必要となります。そのときの対応や、事故発生後の影響。 単一ドーム停止時の影響。 同時に系統接続した際の挙動や、同時充放電時の制御はどうなるのか。 連鎖停止の可能性。 冗長構成の必要数。 つまり、このシステムは「壊れない」ではなく「壊れても系全体が崩壊しない設計」が必要になります。


前回、宇宙DCと地上DCの競争について書きました。どちらも電力問題を抱えています。

CO2バッテリーは、その問題を解決する「救世主」のように語られています。

しかし、シリーズを通じて見てきたように、「技術的に可能」であることと「持続可能」であることは別問題です。

どの条件が満たされれば成立するのか、そしてそれは現実的に満たしうるのか――


有料エリアから先では:

第1章:CO2バッテリーの構造――成立条件に対する技術的特性

  • 熱力学的システムと金属-CO2電池の技術的詳細

  • リチウムイオン電池との比較(容量、コスト、寿命)

  • なぜ今、ハイパースケーラーはCO2に注目するのか

  • 再エネバックアップとしての適性と限界

第2章:スケールの現実――必要な土地、CO2、コスト

  • 大型DC(500MW)のバックアップに必要なドーム数の試算

  • 世界のハイパースケーラーDC全体で必要な規模

  • CO2の調達方法と調達量(火力発電所依存 vs DAC技術)

  • 建設コストと運用コストの現実的な試算


第3章:成立条件としての設計――配置・運用・防御

  • 立地と分散配置

  • CO2供給の設計

  • 運用設計

  • 制度設計

  • 防御設計

第4章:制度とコスト――成立条件は社会に受け入れられるか

  • コスト構造の再定義

  • 制度設計の現実

  • 投資回収の問題

  • 社会受容性

  • 誰が負担するのか

ここから先は

12,625字 / 3画像
この記事のみ ¥ 500
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

概要 ここは、筆者が日々感じた疑問や違和感を出発点に、 それらを構造として捉え直し、分析し、共有する…

構造ノート・月額プラン

¥500 / 月

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?