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誰もサボっていないのに1年遅れる理由、300人の防衛本能と『クリティカルチェーン』

10人3ヶ月のプロジェクトの成功

B2Cサービスの開発プロジェクト立ち上げ時、プロダクトマネージャーの私は、各部門のマネージャーを集めた10名で3ヶ月間の準備プロジェクトを走らせていました。投資計画書を作るにあたり、各部門のスケジュールからリスク以外のバッファを剥ぎ取り、すべてPMOの手元に集約する手法を試みました。経営会議で投資承認と2年後のリリース目安を取り付けたとき、計画は完璧に見えました。

300人2年に広げた途端にプロジェクトが迷走

しかし、実行フェーズへ移り、開発パートナーを含む300人規模の巨大プロジェクトに拡大した瞬間、状況が一変します。誰もが「期日に遅れて評価を下げられたくない」という思いから、2つの行動心理の罠に支配されていきました。

  • パーキンソンの法則(サバ読みの連鎖)
    一人ひとりが保身のためにスケジュールにサバを読み始め、工期は二重三重に膨れ上がりました。そのバッファを「現場の持ち分」と「PMOの持ち分」に分解し、集約し直す調整だけで、立ち上げの3ヶ月を丸々消費してしまいました。与えられた時間を最後まで使い切る人間の習性が、計画を根底から歪ませたのです。

  • 学生症候群(実行タスクの劣後)
    既存サービスの機能別組織から集められたメンバーたちは、日々の運用や目の前のトラブル対応をどうしても優先します。新サービスの仕様を腰を据えて検討し、設計するための時間が完全に見落とされ、実行タスクは「期限が迫るまで」後回しにされ続けました。

これが、プロジェクトが巨大化した瞬間に発生していた、誰もサボっていないのに進捗が止まる連鎖の正体でした。

既存サービスをお手本にした、過剰品質という障壁

さらに、既存サービスの高い安定性を守ってきた業務部門が、隠れたボトルネックとして立ちはだかります。ARR3桁億円のサービス品質に責任を持つ彼らは、未だ影も形もないサービスに対しても、既存と同じ品質を求めて譲りません。新規サービスの業務設計がいつまでも定義されず、システム開発の着手が遅れていく。品質スコープの妥協点を判断できるのは、業務部門長ただ一人でした。その承認待ちのために、プロジェクト全体の歩みが確実に鈍っていきます。

このままだと、リリースが1年遅れるという試算

バッファの消化率を計算したとき、愕然としました。積み上がった遅延をガントチャートに反映すると、経営と握ったリリース目安から「1年遅れる」という結果が弾き出されたのです。
300人の巨大なプロジェクトが、誰もサボっていないのに、全員の防衛本能によって機能不全に陥っていく。その破綻の未来を突きつけられたときの心臓が締め付けられるような感覚を、私は今でも忘れることができません。

『クリティカルチェーン』著者: エリヤフ・ゴールドラット 出版社: ダイヤモンド社 発売日: 2003年10月 カテゴリ: ビジネス・プロジェクトマネジメント
評価スコア: Amazon ★4.4 / 5.0 概要: プロジェクトが遅れる根本原因を「人間の行動心理」と「リソースの競合」から解き明かすビジネス小説。各タスクに安全余裕を持たせるのではなく、プロジェクト全体でバッファを一元管理する手法を提示する。

個人の防衛策の過積載で、プロジェクトは事故る

本書には、リリースが1年遅れるという状況を前に立ち尽くした私の苦悩が、そのまま言語化されていました。

ゴールドラットは、個々のタスクに埋め込まれたバッファは、兼務による着手遅れ(学生症候群)や、与えられた時間を最後まで使い切る人間の習性(パーキンソンの法則)によって、現場で勝手に消費されてしまうと指摘します。300人のプロジェクトで起きていたのは、個人の怠慢ではなく、組織の評価制度が生み出したサバ読みの連鎖でした。
この切迫した状況に私はどのように立ち向かっていったのか、ここからは、完璧な計画が崩壊していく足音に怯える、プロジェクトマネージャーに届いてほしいと考えます。


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