王者を脅かした挑戦者の勇姿
WBAスーパーフライ級タイトルマッチで、王者のフェルナンド・マルティネスに挑んだ井岡一翔はリベンジと王座の獲得を目指した。
延期を挟んだ後に行われたこの再戦は、王者・挑戦者ともにガッツを見せる素晴らしい激闘となった。
ただ大きな流れは第一戦の時と変わらず、マルティネスの回転力と手数が井岡を防戦に回らせ、序盤からポイントでリードしていく展開となった。
ハンドスピードやパワーで勝るマルティネスは見栄えのいいパンチを次から次へとヒットさせていくの対して、井岡はマルティネスの休憩タイムに控えめな攻撃をいくつか打ち込んでいくくらいの反撃に留まり、形成を変えるほどのアクションを起こすことは出来ていなかった。
連打やコンビネーションで強打を返す場面もあまり見られず、王者と比べると明らかにオフェンスのアッタク回数が少なかった井岡は、冷静にマルティネスの攻撃に対処しつつもディフェンシブな立ち上がりを見せることになる。
そんな中でも井岡は前回同様に要所でカウンターの左ボディを合わせてマルティネスにダメージを蓄積させ、所々でマルティネスを苦しめていったが、印象を損なわないように派手な攻撃を返していくマルティネスは井岡にポイントを渡さなかった。
このように、スタートから中盤までは凡そ前回と同じような流れだったが、被弾しても退かずに前へと出る井岡のタフさと、前回よりも打ち分けがなされた反撃によってボディへの被弾が増えたマルティネスは後半に少しずつ元気を失っていくことになる。
これは前回との大きな違いであり、リベンジの可能性でもあった。
流れが変わり始めた後半戦

ボディのダメージもあって消耗した様子を見せるマルティネスは、ポイントを失わないように頑張って手を出していくが、勢いと正確性が欠け始めていた上に、オフェンスタイムを長く維持することが出来なくなり、少しずつ井岡が自分のペースで試合を進め始めるようになる。
そして10Rになって試合は大きく動いた。
歩きながら雑に手を出すマルティネスに対して、下がりながら返しの攻撃を合わせる井岡は少しずつ良いパンチをヒットさせるようになる。
リズムの乱れを感じるマルティネスは流れを失うまいとやや強引なアクションを見せ始めていた。
そこで生まれた打ち合いの中、下がりながらも冷静だった井岡はマルティネスの顔面に2発のパンチをクリーンヒットさせる。
1発を耐えたマルティネスは、この殴り合いを制するために退かずに攻撃を返すことを選択したが、その攻撃に再び合わせられた井岡の左フックに顎を打ち抜かれたマルティネスは、今度は耐えることが出来ず力無く崩れてマットに倒れた。

大逆転を思わせるダウン奪取に会場はこの日一番の盛り上がりを見せていた。
無敗の王者マルティネスは何とか立ち上がって見せたが、相当なダメージを負っていることは明らかであり、ボディに爆弾を植え付けられていることも含めても、井岡のラッシュで勝負が決まる可能性は十分に考えられる状態だったと言える。
しかし、身体を預けて何とか倒れまいとするマルティネスを仕留めることは出来ず、打ち疲れてしまった井岡はマルティネスのサバイブを許してしまう。
失われなかった勝利の方程式

ただマルティネスがインターバルですぐに回復するわけもなく、次のラウンドも一杯一杯な様子は明らかだったが、それでもマルティネスはラウンドの中に山場を作り、ラウンドを取るためのアクションをしっかりと見せ続けた。
ここに井岡とマルティネスの勝負を分けるポイントがあったのではないかと思う
井岡は終盤になっても慎重な姿勢に変わりはなく、手数は少ないままで、チャンスの場面でもマルティネスに攻撃をまとめていくことが出来なかった。
一方のマルティネスは苦しい中でも山場を作り、ダウン後も明確に井岡に流れを渡すようなことはなかった。
絶対に必要なことを最後までやり通したマルティネスは、最後まで井岡に主導権を渡さず、「応戦する」という粘り強い姿勢を見せていた。
偉大さを物語る好勝負

そのマルティネスを崩す為には終盤でもうひと押し攻撃の強度を上げていく必要があったよう見えたが、あれだけの攻撃を被弾しながらも倒れず、そして冷静にマルティネスを追い詰めていく井岡の姿からは「絶対に勝つ」という強い執念が感じられた。
残念ながら結果は3-0の判定負けとなってしまったが、リベンジマッチで王者を追い込み、王座へと肉薄する戦いを見せた36歳の井岡は、そのキャリアに違わぬ実力と難敵に退かず挑み続ける勇姿を多くの観客と家族に届けている。
結果として敗戦することになってしまったが、「挑戦者」として今回のような名勝負を生み出し、勝敗以上のモノを多くの人々に届けた井岡は、ボクサーとして如何に偉大な存在であるのかということを、その歴史に刻み込むことになったのではないかと思う。
