見出し画像

小説、修理を通じて繋いでいくもの「第三章」

寄り添う心


 私がここに来てから一週間で知ったことがある。それは修理屋は毎週月曜日が休みだということ。一哉さん曰く、月曜の平日から修理に来る人がいないらしい。しかし、私たちは月曜日も関係なく店にいた。そのため最近、曜日が曖昧になり始めた。

 私は仕事が一段落つき、一哉さんの方を見ると、彼はクマのぬいぐるみに糸を通していた。私はコーヒーを飲もうと静かに立ち上がる。すると、ドアベルが控え目に鳴った。

「すみません。今日やってます?」

「はい、やってますよ。いらっしゃいませ」

「よかった。月曜は休みと書いていたので不安で」

 ほっとしながら入ってきたのは、三十代ぐらいの男性。大きな鞄を抱えていた。

「修理ですか?」

「はい。レコードプレーヤーを直してほしくて」

 修理の依頼ということで一哉さんを呼び、私は横にずれて彼の隣から見守る。

「実は、父から譲ってもらった物でして。息子もレコードに興味を持ってくれたので、音楽を聞こうとしたんですけど」

 そこまで説明すると、トランクケースのような物をカウンターの上に置いて開けた。

「これ……」

 ネジや配線等がバラバラと出てきて、私は思わず声を出す。一哉さんは固まってしまった。いくら父親から譲ってもらったとはいえ、新しく買おうとは思わなかったのかと、修理屋としてあるまじき考えが浮かんでしまった。

「本当にすみません。まさか息子がこんなことをするとは……。分解癖はないので、開けたままでも大丈夫だろうとそのままにしていたら」

「えっ!これ、息子さんが?」

「はい……。あの、どうでしょうか。直りますか?」

 何も言わずネジを手に取って見ている一哉さんに、その男性は恐る恐る尋ねた。

「……出来る限りのことはします」

「すみません。どれだけ時間がかかっても構いませんので。よろしくお願いします」

 男性は頭を何度も下げて帰っていった。私は部品を見続ける一哉さんを見ていると、彼は無言でレコードプレーヤーを抱えて作業部屋へ運んでいった。

「あの、私に出来ることがあれば呼んでくださいね」

「……ありがとう」

 一哉さんの言葉に私は笑顔を返して頷いた。

 彼は修理途中のぬいぐるみを物凄い集中力で一気に仕上げた。私はそれを商品棚に並べるように頼まれる。子供の目線の高さにおもちゃが並んでいて、私はその横にぬいぐるみを置く。つぶらな瞳と目が合い、つい微笑んでしまう。私はぬいぐるみをそっと撫でたあと、掃除に取り掛かった。

 店の外をほうきで掃き、窓を拭く。今度は店の中ではたきをかける。すると靴に何かが当たった。しゃがんで手に取るとネジだった。立ち上がると、ちょうど休憩に入った一哉さんがグラスにコーヒーを入れていた。私は彼の隣に立ち、ネジを差し出す。

「あの、ネジ見つけました。もしかしてレコードプレーヤーの一部なんじゃないかなって」

「ああ、ありがとう」

 一哉さんがネジを取ろうとしたその時、手が滑り、彼の手からネジが落ちる。そのままカウンターの下に転がり、今度は一哉さんがしゃがんでネジを取った。しっかりしている一哉さんなのに今日は変だ。もしかして疲れが溜まっているのだろうか。

「一哉さん、今日はもう閉めましょう。そして休んでください」

「は?」

 一哉さんは私の発言にポカンとした顔をする。そんな彼を強引に階段まで押していく。もともと今日は休みだ。早く閉めても誰も文句言わないだろう。

「いや、俺は大丈」

「大丈夫じゃない!私は一哉さんが心配なんです!」

 私はそのまま彼の腕を引っ張って二階に上がった。一哉さんは私の圧に負け、エプロンをソファの背にかけた。だがソファに座らず私をじっと見た。

「あのさ、俺、疲れてないけど」

「いいえ。一哉さんの目は若干充血してますし、無意識でしょうけど今、肩に手、置いてますよ」

 私の指摘に、一哉さんは肩に置いていた手を外した。

「私は修理が出来ないからサポート出来ることは限られているんです。今から疲労回復の料理作りますので、一哉さんはゆっくりしていてください」

「……分かった。ありがとう」

 目を見て言ったことがよかったようで、一哉さんはソファに座り、目を瞑った。

 その後無事に夕食を食べてもらい、つけたテレビでミステリードラマを一哉さんと見る。

「先、風呂行ってくる」

「はーい。いってらっしゃい」

 一哉さんは、途中で席を立って風呂場へ向かい、集中し始めた私はテレビを見つめたまま返した。なんとなくだったのにドラマを楽しんだ私は、終わると大きく伸びをした。

 ミステリーといえば、今日のお客さんの息子さんがレコードプレーヤーをバラバラにしたと言ってたけど、何でそんな手間なことしたのだろう。腕を組んで考えるが、推理力がないため何も答えが出てこない。もやもやしたままその日は終わった。

 次の日。目を覚ますと、時計は午前五時を指していた。起きるには早いため、もう一度寝ようと布団に潜ったその時、リビングから物音がした。私は気になりベッドから出てドアを開けると、彼がコーヒーメーカーの前に立っていた。

「……おはようございます。早いですね。いつもこの時間に起きてるんですか?」 

「……おはよう。俺は静かなこの時間が好きだから」

 一哉さんはまだ眠たそうな顔をこちらに向け、そう答えた。

「こういう空気好きな気持ち、なんか分かります。……あ、そうだ。この辺り散歩してきていいですか?まだ何があるのか、あまり知らないので」

「じゃあ俺も」

「いえ、ただの散歩なので」

 私は急いで着替えて階段を降りた。散歩にわざわざ付き合わせるのは申し訳ない。私は外に出て深呼吸すると、笑い声が聞こえた。

「あ、純平さん。おはようございます」

「おはよう、桜花ちゃん。気持ちよさそうに空気吸ってたね」

「朝の空気はいいなって。純平さんも早いですね」

「花屋の朝は仕入れがあるからね」

 純平さんの手にはたくさんの花が抱えられている。すると彼は私の後ろを見て手を振った。

「あ、拓海たくみくんだ。おはよう!」

 振り返ると、ゴールデンレトリバーを連れた四、五歳ぐらいの男の子が歩いていた。拓海くんは私のことを不思議そうに見つめる。

「はじめまして。私は修理屋でアルバイトをしている愛野桜花です。よろしくね」

「修理屋……」

 拓海くんはそう呟くと、何故か目を伏せた。

「えっと、ワンちゃんの散歩してるんだね。一人?」

「……パパもママも仕事で忙しいから」

 ますます下を向いてしまった。私はどうしたらいいか分からず、純平さんに助けを求める。すると純平さんはワンちゃんを撫で始めた。

「このワンちゃんの名前ココって言うんだ。人懐っこいから桜花ちゃんも撫でであげて」

 私はしゃがんでココちゃんを撫でると、気持ちよさそうに目を細めてくれた。その表情が可愛らしく、しばらくわしゃわしゃと撫ででいると、服の裾を拓海くんが引っ張ってきた。

「……ねぇ、パパの直る?」

「ん?パパの?」

「僕が壊しちゃった。パパの大事な物」

「もしかして、見た目は大きな鞄だけど、音楽が聞ける物?」

 拓海くんは頷く。この子が分解したんだ。拓海くんの目が潤んできて今にも泣きそうだ。私は微笑みながら拓海くんの頭に手を置く。

「今、修理屋のお兄さんが、また音楽が聞けるように直してるから、もう少しだけ待ってね」

 拓海くんが頷くと、急にココちゃんがリードを引っ張った。

「うわぁ!どうしたのココ!」

 そしてそのまま拓海くん達は行ってしまった。

「純平さん、ありがとうございます。私、ああいう空気が苦手で、どう接したらいいか分からなくなっちゃって」

「拓海くんの前で両親の話はしないほうがいいかもね。……僕、あの子の親、見たことないんだ」

「えっ」

「でも拓海くんはここを散歩ルートにしてるから知ってるんだ。普段は明るい子だから仲良く接してあげてね」

「はい」

 すると純平さんは急にくすっと笑った。

「何ですか?」

「ううん。何でも出来る桜花ちゃんの苦手なことをを知れて嬉しくなって」

 まだ笑い続ける純平さんを無視して私は道を尋ねる。

「ところで中野さんのパン屋さんってどこにあります?そこに行きたいんですけど」

「それなら、この左の道を真っ直ぐ行くと看板が見えてくるよ」

「分かりました。ありがとうございます」

 頭を下げてパン屋に向かおうとすると、純平さんが私の腕を掴んだ。

「……あのさ、もしかして怒った?」

「え?」

「苦手なことを知れて嬉しいなんて言葉、嫌だったかなって」

「いえ!怒ってないです!本当のことなので言い返せないなって思っただけです」

 苦笑いしてそう言うと、純平さんはほっとした表情を見せて微笑んだ。

「よかった。桜花ちゃんに嫌われたら、もう、ねぇ、一哉?」

 驚いて振り返ると、一哉さんが修理屋のドアに凭れてこちらを見ていた。

「いつから居たんですか?」

「中野さんの店はどこだと桜花さんが聞いてたところから。行くぞ」

 一哉さんは近付いてきて、純平さんを睨んだあと、私の腕を掴んで歩き出した。引っ張られたまま振り返ると、純平さんは困ったように笑って手を振るだけだった。

「あ、あの一哉さん!」

 未だに私の腕を掴んで早足で歩く一哉さんに、私は息を切らせながら声をかけた。すると彼が急に足を止めたため、私は倒れそうになる。だが一哉さんに支えられ、転ぶことはなかった。

「あ、ありがとうございます」

 体勢を整えると、一哉さんはすぐに手を離した。

「……ごめん」

「え、何かしましたっけ」

「その、色々」

 珍しく一哉さんが項垂れてる。何と声をかけようか迷っていると、私達の真横の店の扉が開く。

「あれ?カズと桜花ちゃん!おはよう!何でここに?」

 店から出てきたのは中野さんだった。いつの間にかパン屋に到着していたらしい。私はたくさんの美味しそうなパンを買い、そして朝から元気な中野さんに見送られて家まで戻る。すると帰り道で拓海くん達とまた会った。どうやら帰りもここを通るらしい。私は視線を花屋の方へ向けるが、純平さんはもう店先に立っていない。

「レコードのお客さんの子供です」

「ふーん」

 私は早口でそう伝えたが、彼からは一言だけ返ってきた。一哉さんは怒鳴らないと思って伝えたんだが、不安になってきた。一哉さんから緊迫した空気を感じたのか拓海くんが足を止めた。すると一哉さんは拓海くんへ近付いていく。あ、まずいかも。私は慌てて追いかける。

「ちょっと一哉さん」

 私が止める前に、一哉さんは拓海くんの前にしゃがみ込み視線を合わせた。

「君がレコードプレーヤーをバラバラにしたとき、父親に怒られたか?」

 それが当たり前なんじゃないの?という一哉さんの質問に私の足は止まった。とりあえず怒鳴ることはないようなので、そばに来てくれたココちゃんを撫でながら私はまた見守ることにした。

「うん……」

 拓海くんは頷くと俯いてしまった。

「ふーん」

 一哉さんは、またそれだけ言うと考え込む。しばらく静かな時間が流れる。誰も動かない時間が続いたが、一哉さんが口を開いた。

「今、君が父親に対して思っていることを伝えてみろ。ちゃんと聞いてくれるはずだ。我慢もしなくていい。わがままもどんどん言え」

 真っ直ぐ拓海くんを見つめて、一哉さんが頷くと拓海くんも頷いた。

「分かった。パパに伝えてみる」

「修理が終わったら一緒に来るといい」

 大きく頷いた拓海くんを見て一哉さんは立ち上がる。拓海くんの様子が変わったことが分かったのか、ココちゃんは拓海くんの近くに行くと、元気に走って帰っていった。

 お店に戻ると、開店時間が迫っていた。私は掃除をしながら声をかける。

「私、一哉さんが拓海くんに近付いた時、怒鳴るんじゃないかってヒヤヒヤしました」

「俺のことはそんな風に見えてるのか」

「いえ!そういう訳では……。そ、それで、何で一哉さんはあんなこと聞いたんですか?お父さんに怒られたかって」

 一哉さんにキッと睨みつけられたため、慌てて話の内容を変えた。すると彼は私を見て話す。

「例えば、桜花さんがあの子と同じぐらいの年齢の時、イタズラして親に怒られたよな?」

「そうですね。昔、お母さんの口紅使って壁に落書きしたら怒られました」

「そう。それが普通だ。でももし怒られず放っておかれたらどう思う?」

「うーん。こういうことやっていいんだって思いますね。でも、ちょっと寂しいです」

「そうだ。そして子供というのはイタズラする理由はニパターンある」

 そう言うと一哉さんは指を二本立てた。

「一つ目は目についた物への興味や探究心から。さっきの桜花さんのイタズラはこっちだ。で、二つ目は親に気付いてほしいから。怒られたらこっちを見てくれるからイタズラする」

「つまり拓海くんは二つ目の理由であれをバラバラにしたということですか?でも、一つ目の可能性もあるんじゃないですか?中はどんな仕組みなのかなって興味持ったのかも」

「ただの興味だったら他の物でもいいはずだ。わざわざ父親の思い出の物をバラバラしたんだ。怒られることを分かってやったんだよ」

 一哉さんは椅子に座り、バラバラになったレコードプレーヤーに触れる。

「俺、朝も夜も拓海くんが一人で犬の散歩をしていることを知ってる。でも親は見たことがない」

 純平さんも同じことを言っていた。拓海くんとココちゃんは知ってるのに、親は見たことがないなんて。

「寂しさが溜まったんだろうな。このレコードプレーヤーを見たとき『バラバラにしたら僕のことを見てくれるかな』って思ったのかもしれない」

 今日、こんなことがあったとか話をしたくても忙しくて親はいない。一人で寂しく家にいる拓海くんを想像してしまい、涙が出た。目の前にハンカチが現れる。いつの間にか一哉さんが隣に来ていた。

「今、拓海くんは自分の思いを伝えているはずだ。だから絶対、一緒に来てくれる」

 一哉さんの言葉に私は何度も頷く。顔を上げると、一哉さんは作業部屋に戻っていった。

 そろそろ修理を始めるのだろう。だとしたら私が出来ることは、修理に集中できるようサポートすることだ。私は丸椅子に座り、自分の仕事をしながら一哉さんの様子を伺う。そしてお昼はおにぎりを作り、彼の集中が解けるとコーヒーを用意した。ずっと座っていると体が固まるため、散歩にも誘った。

 閉店時間が近づく。声をかけようか迷っていると、一哉さんが工具を置いて、大きく伸びをした。

「一哉さん、お疲れ様です」

「お疲れ。何とか直りそうだ」

「本当ですか!あの、入ってもいいですか?」

 一哉さんが頷いたため、作業部屋に入る。レコードプレーヤーは、私が知っている形に戻っていた。

 次の日、レコードプレーヤーの修理が完全に完了した。

「終わりましたね!これで音楽が聞けるんですね」

「そうだな。あとは、拓海くんと父親が一緒に来てくれたらいいんだが」

 そこは拓海くんが思いを伝えていることを願うしかない。ちなみに、修理品によって様々だが、今回は一週間程待っていてほしいと伝えてある。だから彼らが来るのは一週間後。その時、二人が一緒に来てくれたらいいなと思う。

 コーヒーを用意し始めた一哉さんにひと声かけ、私は二階に上がった。そして今日の朝に買ったものを持って下に降りる。

「いちご大福、買ってきてたんです。和菓子屋さんから一哉さんが好きなものを聞いて。でも、一番好きなのはクッキーって聞きました。和菓子屋の前で堂々とそう言……、って、大丈夫ですか!」

 そんな話をしていると、コーヒーを口に含んだ一哉さんが急にむせて咳き込んだ。大福じゃなくてよかったと思いながら、一哉さんの背中を擦る。

「もしかして触れられたくない話題でしたか?」

「そ、そのクッキーの話、他に何か言ってたか?」

「えっと、思い出の食べ物って言ってました。手作りで不格好だったけど優しさが詰まっていた、と」

 私の話に一哉さんは和菓子屋さんがある方面を睨みつけた。

「素敵な思い出じゃないですか。睨んじゃ駄目ですよ。クッキーもいいですけど、今はいちご大福食べません?」

 一哉さんはむすっとした顔のままいちご大福を齧る。すると眉間のシワはなくなった。このとき、甘い食べ物の偉大さを改めて実感した。

 一週間後、ついにレコードプレーヤーを取りに来る日がやってきた。この日は朝からそわそわして商品棚を入れ替えてみたり、ほうきで店の中を隅々まで掃除したりと常に動き回っていた。一方、一哉さんは丸椅子に座って、私を呆れるように見ていた。

「じっと出来ないのか」

「だって、二人で来るか気になりませんか?じっと出来る一哉さんの方が変ですよ!」

「動こうが動かまいが、結果はもう決まってるんだ。俺らは待つだけ」

「そうですけど!」

 言い返そうと私が口を開いたその時、チリンと音がした。鳴った方向を見ると、拓海くんとお父さんが手を繋いで入って来た。

「いらっしゃいませ!」

 二人で来てくれて感動する私とは反対に、一哉さんは冷静にレコードプレーヤーをカウンターの上に置いた。

「直ったんですか!」

「はい。部品は何一つ欠けておらず、新しくネジ等を買う手間も省けたので、数日で直せました」

 レコードプレーヤーを見る拓海くんのお父さんの目の前に、一哉さんが一つのネジを差し出す。

「ですが、これはレコードプレーヤーの部品ではない。他にバラバラにされた物はないですか」

「えっ、ないと思います」

 今度は拓海くんの方に視線を向けた。

「どうだ?他にも壊してしまったものあるよな?」

 この問いかけに拓海くんは泣き出してしまった。

「……ごめんなさい」

「何故こんなことするのか分かりますか。物を壊すのは親に構ってほしいからなんです。そしてあなたは、レコードプレーヤーが拓海くんが初めて壊したものだと言った。違います。他にもあります」

 一哉さんが話し終えると静かな空気が流れ、拓海くんが鼻をすする音だけがしていた。しばらくの間があったあと、一哉さんが口を開く。

「探して見つけてください。そして、拓海くんの心の声に寄り添ってあげてください。今だけですよ。ずっと親にべったりしているわけではないので」

「今だけか。……忙しいを言い訳にしてあまり構ってやれなかったな。ごめんな」

 お父さんは拓海くんの頭を撫でて謝った。

「他の物、探してみます。もし見つけたら」

「持ってきてください。直しますので」

 一哉さんの手で元通りになったレコードプレーヤー。だが彼が修復したのは、家族の絆もなのだろう。私は一哉さんの横顔を尊敬の念で見つめた。

 他の壊していた物も見つけ、一哉さんの手で元に戻り全てが解決した数日後。私は洗い物をしながら、丸椅子に座ってぼんやりしている一哉さんに話しかける。

「それにしても、よく拓海くんの気持ちに気付きましたね」

「……俺も同じだったから」

 洗い物の水の音に掻き消されそうなぐらい小さな声で一哉さんはそう答えた。そういえば、一哉さんに両親のことを聞いたら空気が悪くなったことを思い出す。自分から話題を振ったくせに、私は何も言えなくなった。

「俺は分解癖があったんだが、その度にばあちゃんに怒られた。でもじいちゃんは豪快に笑って『綺麗に分解したなぁ。そしたら一緒に直そうか』って」

 その時を思い出しているのか、カウンターに頬杖をついて遠くを見ながら話していた。そして、私が洗い物を終えて水を止めたことも気付かないようで、そのまま話し続けた。

「分解しても何も言われないものだと思ってた。でもそれは違うんだな。怒られて当然なんだよ。もしくは明るく笑い飛ばされるか」

 そこまで言うと、一哉さんは立ち上がった。だが顔は俯いたままだった。

「構ってもらえるのは、幸せなことなんだよ」

「一哉さん……」

 表情を変えず淡々と話す一哉さんを見ているのが苦しくなり、私は彼の服を軽く引っ張った。すると、私の存在を思い出したかのようにはっとしてこちらを見る。

「ごめん。暗い話して」

「謝るのは私の方です。もとはと言えばこの話題を出したのは私なので」

 空気が重い。お互い視線を彷徨わせて話題を探す。

「俺が初めて修理したのはカメラだった。拓海くんと同じで俺の父さんが大事にしてた物だったんだ。俺がそれを壊しても父さんと母さんは気付かない。多分今も、俺がそんなことしたなんて知らない」

 静かに語り始めた話に私は耳を傾ける。

「でも、じいちゃんとばあちゃんは違った。俺のことを見てくれてる人もいるんだなって小学生の頃の俺は知った」

 そこで言葉を止めると、私の方を見た。

「その後はカメラ修理のプロのじいちゃんに教えてもらって一つ一つ直していった。俺は店を持った今でも時々様子を見に来る二人に感謝してる。でもまあ、二人が来ても適当にあしらってくれ」

 最後の言葉はどう見ても照れ隠しだ。私は、一哉さんを想う二人が来たら、丁寧にもてなそうと心に決めた。

第四章に続く

いいなと思ったら応援しよう!