便利屋修行1年生 ⑧獣と会食 連載恋愛小説
いったい前世でどれだけ徳を積んだのかと、秋葉にたずねられた。
「オレが腹こわしたって、あっそ、てなもんですよ」
「一緒にすんな。高級和菓子をセレクトするようになってから、出直せ?」
まどかは和菓子マニアらしく、小躍りして喜んでくれた。
「ツボ押さえてくるわー、このコは」
今日は沢口が見当たらない。
「あいつ甘いもの受けつけないから、私がもらっとくー。だれが強欲だ、秋葉」
なにかの調査活動にかかりきりだったらしく、3日後にようやく姿を現した。ソファに寝そべり、口をきくのも億劫そうだ。簡潔に済まさねば。
「お疲れさまです。この前のお礼をしたいので、食べ物なにが好きか教えてくださいっ」
早口で一気につたえると、返事がない。寝てしまったのかと、綾は膝をつき顔を近づけてみる。
目を閉じたまま、肉と酒、と口が動いた。
うーん……お酒はハードルが高いよな。銘柄とかもあるし。
「あの、何肉とかあります?」
「人肉」
ふざける気力はあるらしい。
とりあえず焼き肉で落ち着いたが、1対1で食事するのかと、綾はあとになっておののいた。
話題に困るかと思いきや、この道に入ったきっかけについて語っていた。
「せまいところにいたので世の中を見てみたいっていうか。勉強したいと思って」
疲労やお酒のせいか、今夜の沢口から毒は感じない。はぐらかすことなく、彼の話もしてくれた。
人はなぜ浮気するのか知りたかったという。
「浮気? ですか」
「そう。不倫。なんですんの?」
なぜ哲学めいた質問をしてくるのだろう。
「……ま、答えられるわけないよな」
なんとなく弱っているように感じたので、綾は勇気づけたくなった。
「いろいろあっても、好きなものいっぱい食べて、忘れる。オススメです」
ビシッときめたつもりが、とんでもない見当ちがいだったようだ。脱力したように、沢口はテーブルに突っ伏した。
「え、大丈夫ですか。水飲みます?」
次の瞬間、耳に鋭い痛みが走り、なにが起こったのかと混乱する。
「なんで……」
「好きなもの食えって、言わなかった?」
ジンジンするくらいきつく噛むとか、ありえない。まどかの野獣発言も的を射ていたのかもしれない。
「欲しいからって盗ったら、窃盗です」
「ん? 食欲のまま食ったら、犯罪?」
涙目のまま注意しても、いまいち迫力に欠ける気がする。
「なんか歯形見てると、妙な満足感が……」
耳にふれようとするので、綾は裸足のまま廊下に飛び出た。
腹が立ったので、伝票を突きつける。おごるつもりがおごらせていた。
お酒の入った沢口慶には、近寄らない。それが、その日学んだ教訓だった。
(つづく)

いいなと思ったら応援しよう!
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
いただいたチップはインプットのための書籍購入費にあてます。
また来ていただけるよう、更新がんばります。