ごおり、ごーらー、ごーれすと|掌編小説 シロクマ文芸部
1219字
熱帯夜をしのぐには、氷枕。と思って試してみたら、血流が滞って肩が凝った。
猛暑日を受け流すには、流しそうめん。と思ってトライしたら、元気すぎる日射と、ぬるい麺に興ざめする。
酷暑日を打ち消すには……
「いちご、抹茶、レモン、メロン、ブルーハワイ……王道も捨てがたいのう。ピーチかな、マンゴーかな、コーラかな?」
目移りするとは、このことである。
いーにーみーにーまいにもう(どれにしようかな)をしているうちに、横から亜美がきらきら氷を受け取った。
「え!! なにそれなにそれ」
髪を結い上げ、おだんごにかんざしを挿したオシャレ女子の手にあるのは、七色のシロップがまぶしいレインボーかき氷。
「いいでしょー。えらぶのめんどいから、全部のせてもらった」
なん……だと……!? そんな高等テクがあったとは。松下久美、一生の不覚である。
ふと見ると、真実はきゃわわな氷を撮影している。
「え!! なにそれなにそれ」
みかんの耳、ブルーベリーのお目め、マズルはバニラアイスであざとすぎる。
「氷といえば、しろくまでしょ。フルーツもいろいろのっかって、お得気分」
くっ……なんたる油断。しろくまも鉄板、ご当地かき氷が全国区に成りあがった代表ではないか。
サッカー練習を終えた足で合流した芝野俊は、鼻の頭に薄緑の泡をくっつけ、どんぶりのごとくかき込んでいる。
「あ、これっすか? なんか、クリームを泡にしたエスプーマ? ってのが、のってます。しゅわとろんっす。抹茶シロップが甘すぎなくてうまいし、あずきの風味が立ってるあんこもサイコー!」
ぐぬぬぬ…… 知らないあいだに、しばのんの食レポ能力が爆上がりしておるではないか。
こうしてはおれん。わらわもなにか、そんじょそこらのごーらー(かき氷愛好家)が口にできぬような絶品かき氷を……
「これだーーー!!」
「って、いちごみるく。定番だね」
サクッと真実に刺される。
「いやいやいやいや! この真紅を見たまえ、マミー。贅沢な果実味に満ちた、生フルーツ推しのトレンドど真ん中。急速冷凍した完熟果汁、練乳ベースのミルク、極薄に削った舌ざわりは夢見心地。見てたらさ、氷を削ったあとに蜜をくるりと回しかけて、さらにガリガリ。またまた蜜とろーり。何回やんの!? って感じで層をつくってくれてるわけ。溶けても味が薄まらないようにって、愛でしょ、愛!」
消費者金融のコマーシャル風になってしまったが、もとい。
濃厚な甘酸っぱさと凝縮された生乳の旨味が、過酷な夏にくじけそうな心と体に染み渡る。
スプーンがなにかにあたり、鼻水が出そうになった。
「アイス入ってた! わあーい」
「子どもですか」と真実。
「幼児ですな」と亜美。
「それ、アイスじゃなくて水まんじゅうっす。僕のも、ごろごろ入ってました」としばのん。
……うん。みなまで言うまい。
みんなでいっせいに、頭キーンを堪能しようではないか。
今年の夏は、いちどしか来ないからね(キメッ)。
(おわり)

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