見出し画像

便利屋修行1年生 ⑳謁見命令 連載恋愛小説

 血は争えないかー、が伯母の第一声だった。
「探偵事務所でしょ? キケンな男ってことじゃない? あんたのお父さんもモトクロスのレーサーだったわけだし」
 しばらく考えてからやっとふに落ちた綾の隣で、一拍早く息がもれた気配がした。顔には出さないが、天然家系だと断定されたにちがいない。

 これだけは言っておきたいと真剣な眼差しの崎子に、空気がピリリと引き締まる。
「ウチのあや、想像を絶するモテっぷりだから。そらエゲツないよー? 顔も中身もとびきりかわいいうえに、無邪気かつアンニュイ。男はたまらんらしい」
 頭を抱えたくなった。
 沢口がちらりとこちらを見たので、綾は目だけで必死に否定する。実像とは似ても似つかぬ人物について、伯母は嬉々として演説をぶつ。
「手が届きそうで届かない、謎めいたオンナなわけ。なんか掻き立てられるんじゃない? 知らんけど」
 おにーさんもそのクチか、あはは、とずいぶんゴキゲンだ。

「崎ちゃん、あのう……」
「なによ。姪っ子の自慢しちゃ悪い?」
「そういうことじゃなく……」
「大学の時なんか、百人斬り――」
 たまらず崎子の口を両手で押さえにかかるが俊敏によけられ、独演会は中断できずじまい。
「変なワード出さないでくれる?」
「どこが変なわけ? それくらい断りまくってたじゃん」
 カウンセリングに通っていた心療内科医にアプローチされ、二重のトラウマになったこと。綾の黒歴史を、崎子はいとも簡単に暴露してしまう。
「そういうわけで臆病になってるから、一筋縄じゃあいかないよー?」
 フフンと胸を張っている彼女は、マウントをとっているつもりらしい。

 笑いをこらえるのに必死だろうなあと隣に目をやると、なぜか沢口は神妙な面持ちで。浮かない表情にもとれた。
 なにを考えているのか、うかがい知れない。ドン引きしてやっぱりやめますと言ったって、おかしくはない。
 綾と崎子が¥は固唾かたずをのむ。たっぷりと時間をとってから、彼は言葉を発した。
「覚悟はできてます」
 たった一言で、場の空気を支配した。

 手のひら返しでおとなしくなった崎子が、手料理でもてなしてくれる。
「なんかなじみのある味ですね」
「あ、わかった? 私のレバートリー、9割崎ちゃん直伝なんだ」「はくハハですから」
「ありがたや」
 綾がふざけて崎子を拝んでいると、彼女の人生に崎子さんがいてくれてよかったです、と思いもよらないセリフが沢口から飛び出す。
 おばさん、と呼ばなかったのも高ポイントだったのだろうか。
 全部たいらげろ、とけっこうな量を強要する崎子が、興に乗って日本酒まで持ち出したのには、さすがに驚いた。
 あれは崎子専用で、今まで他人とシェアするのを一度たりとも見たことはなかった。

(つづく)

#恋愛小説が好き #私の作品紹介 #賑やかし帯







いいなと思ったら応援しよう!

藤家 秋 最後までお読みくださり、ありがとうございました。 いただいたチップはインプットのための書籍購入費にあてます。 また来ていただけるよう、更新がんばります。