あすみ小学校ビレッジ ⑧水族館取材と海あそび 連載恋愛小説
オサムは条件を出した。おうちのひとの許可を自分でとること。
えええ~? と抗議の声があがる。
「望むものを手に入れるためには、交渉する力も大切」
小学生にどこまで伝わるのだろうか。彼らは神妙な面持ちでうなずいている。
目的がはっきりしていると、ここまで学ぶ姿勢って変わるんだ。知識をグングン吸収していく、そのようすを今、目の当たりにしている。
タイムスリップして寺子屋に入りなおしたい、と泉は思った。
イルカやアザラシには目もくれず、子ども記者団は「あすみの生き物」展示コーナーへまっしぐら。
遠足の浮かれた感じも、社会見学の退屈モードも存在しない。強制されていないからだ。撮影係にメモ係と、分担もバッチリ。
一言一句のがさぬよう、全集中。バンバン質問も飛び交う。
担当スタッフは、その迫力に押されぎみ。
「ええと……みんなは壁新聞でもつくるのかな?」
「いえ。ビオトープのための下調べ取材です」と善。
「ですので、海ではなく川や池の生物をメインにお願いします」
メダカやカニ、水生昆虫の情報を仕入れた彼らは、オーラが輝いている。
泉はあらためてオサムの手腕に恐れ入る。手とり足とり教えることだけが指導ではないのだ。
「学問と学問。生活と学問って、つながってるんですねえ」
「おお。いいこと言うなあ」
子どもたちにの熱にふれ、展示パネルを読み込んだ感想だ。
海に面したオープンカフェで、名物・塩ソフトに舌鼓。カラフルな金平糖と、イルカを模したクッキーがトッピングされている。
「今日はピンポイント訪問だったので、また来ませんか」
体を通り抜ける風が心地よく、言われたことがすぐには理解できなかった。向かいに座る龍次の目は、まだまだここにいたいと語っている。
「え……わたしとですか?」
ペアチケットのほうが割引率が高いのだと、彼はまじめ顔。
それってデート? ふと頭によぎり、泉はどきりとした。
「ヨシ。キョヒられなかったので、約束成立」
応える間もなく結論づけられる。
泉は約束にいいイメージがない。
家族旅行もピアノ発表会も、直前にキャンセルされた。妹の調子が悪くなったからだ。瑞希は体が弱く、生まれたときから入退院をくり返していた。
どうしようもないことだと頭ではわかっていた。
自分でできることは自分でやり、疲弊する親のじゃまにならないよう気を配って生きてきた。
でも、それが重なると心がよどんでしまう。いやな自分が出てきそうになる。――わたしは後回しでいい存在なのかと。
「どしたの?」
帰り道、入り江にある海水浴場に寄った。澄み渡る海に入り、はしゃぎまわるみんなを見ていたら、子ども時代を思い出したのだ。
一緒になって遊んでいたのか、デニムの裾が濡れている。
「ま、乾くっしょ」と龍次は意に介さない。
悩みごとがなさそうで泉はまぶしく感じた。
遠浅の海は海水浴だけでなくマリンスポーツも盛んだが、海開きは来週だ。
「まだつめたいんじゃ……」
「うん。ひんやり。でもきもちいいよ~。って、ジモティにすすめてどーする」
「あんまりここに遊びにきたことなくて」
「じゃ、今遊べば?」
龍次の号令で鬼ごっこがはじまり、砂浜ですっころぶ子が続出。泉もタッチされて巻き込まれ、ひさしぶりに全力で走る羽目に。
「泉ちゃん、足はええ~」
善がころころと笑うから、つられておなかの底から笑い声が出て、それは波に吸い込まれていった。
(つづく)

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