しっとりむっちりプリンをどうぞ|連作小説⑤
1433字
手袋とハサミを渡され、花歩はハーブ農園にいた。植物が整然と植わっている畑とガーデンエリアがある。初夏にはブルーベリーの収穫体験もできるとか。
「ハイ、集合~。今日は、月桂樹とローズマリーでスワッグをつくります」
オーナーの美絵は手慣れた感じで作業手順を説明する。ふだんからワークショップを開いているらしく、屋根付きの作業スペースも整備されていた。
「美絵さん、すみません。スワッグって?」
花歩の疑問を代弁する一青。
「……去年もつくったんだけど?」
横目で大げさににらむ彼女に、一同大笑い。
「あ。思い出した。こう、花束みたいなやつ。壁に飾ったり天井からつるしたりするんです」
得意げに身振り手振りでつたえてくれる。
「魔よけとか幸運を招く意味もあったはず」
ローズマリーは淡い紫の小花をつけ、すこしふれるだけで清涼な芳香を放つ。生命力を宿した月桂樹の深緑、背中を温める小春日。好みの枝をえらび、思い思いに束ねてアレンジ。麻紐できつくしばりサテンリボンを巻けば、完成。
無心に手を動かしていると、はればれとした心持ちになってきた。
「じつはこれ、ローリエなんです。ポトフとかに使う」
「あ……はい。それは知ってました」
「なんだー、ちょっとはいい格好したかったのにな」
初対面のときから不思議と緊張しない。
花歩と一青のテーブルに少女が割り込んできた。
「この女だれ」
赤いほっぺに不釣り合いなセリフに花歩がぽかんとしていると、美絵の孫・樹里だと一青が紹介する。
「イッセイくんは、ジュリの推しだから」
察しなさい、とばかりに厳しい視線を花歩に寄こす年長さん。あわてて彼の隣を譲ると、にこにことご機嫌が戻った。
ヒナタボコに移動し、詩や絵本を交代で読む朗読会がはじまった。
照明や音声など凝った演出はない。読み手それぞれが工夫し、気持ちのこもったことばを届ける。聞き手の想像が立体的にひろがり、胸にまっすぐ響くのだった。
お客さんのつもりだった花歩だが、飛び入り参加することに。
『だってだってのおばあさん』
「だってわたしは98歳だもの」としょんぼり顔の樹里。お気に入りすぎて全セリフを暗唱している。同居猫がお誕生日ケーキのろうそくを落としたことで、5歳のおばあちゃんになる。
「だってわたしは5歳だもの」と見違えるようにアクティブに。飛び跳ねながら読むので、花歩もつられて声が大きくなった。
朗読を終えると、あたたかな拍手と歓声、笑い声に包まれる。
「悪くなかったよ、おねーさん」
おばさんと呼ばずに気をつかってくれた。
特大サイズのプリンアラモードは、この日だけの特別メニュー。
スプーンを入れると押し返すような弾力があるのに、しっとりとしあわせ食感。何度も温度調節をしてじっくり仕上げるそうだ。カラメルの苦味も絶妙。
スライスりんご、さくらんぼに、いちごのコンフィチュールのかかったバニラアイス。
こんなごほうびをいただけるなら、もっと参加したいくらいだ。
「花歩さんて、いただきますをしますよね。ひとりで外食するときでも」
手を合わせて口パク「いただきます」
一青に無意識の行動を見られていたとは。
「なんかいいなと思って」
指先まで神経の行き届いた立ち居振る舞いが、接客業ではないかと感じた理由だと、持ち上げてくれる。内装に興味津々で、ツリーのオーナメントをガン見していたのも気づかれていた。
デパート勤めを見破るとは、ぼーっとしているようで鋭い人なんだ。
(つづく)



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