あすみ小学校ビレッジ ⑱オヤジの青春花火大会 連載恋愛小説
完成した模型は「あすみのミライ」と名づけられた。
瑠美が特別に仕入れたラムネドリンクを飲みながら、歴史の香る1/80サイズジオラマをゆるりと楽しむ人々。
夕暮れ風の照明を灯す時間帯には泣きたくなるような趣になり、多目的室はスマホカメラマンだらけに。龍次は音楽にもこだわった。カラスの鳴き声入り「遠き山に日は落ちて」がかすかな音量で流れ、子どものころの記憶を呼び覚ます。
「液晶スクリーンなんてないだろ」
「EV車がしれっといる~」
龍次の仕掛けたまちがいさがしで、親子で盛り上がる来場者たち。見知らぬ者同士でも自然に会話が生まれている。
人と人とがつながり、地域の可能性がひろがる。この仕事に関わることができた幸運を、泉はかみしめていた。
ジオラマとスミくんのツーショットは、のどかな街並みを襲う黒柴ゴジラのように見え、SNSでバズった。そんなわけで、スミくんをカメラにおさめようと人だかりができていたのもうなずける。
ビレッジになじんだ龍次は、とっておきの恩返しを仕込んでいた。
歩道や店先、お祭り広場。村民に似せたフィギュアを人数分制作していたのだ。
「こまかいんで、似顔絵並みにはいきませんけど」と彼は謙遜していたが、服装や体格でしっかり雰囲気が出せている。
「ここで店やっててよかった~」とまで言う店主も。
あったかな空気感にどっぷり浸ったあとは、いよいよメインイベント。
本日の主役は、オヤジ花火師たち。
タオル鉢巻きにメガネ、ヘルメットに手袋、長袖。近寄るだけで、すでにムンムンと暑いくらいだ。
「いづみやさんに頼らなくてもやれる! って、原動力になったよ」
それまでは、練習や打ち合わせに毎回立ち会っていた。
「龍次くんに喝入れられて以来、自立しようと思ってさ。あんなんに説教されるのもしゃくだしな」
円陣を組んでいたら、龍次がひょっこり現れた。
「なにしてるんすか?」
みんなでずっこけそうになり、泉は彼を引き入れた。
「オヤジの~?」
「青春~!」
「ぶち上げるぜえ~!」
野太い声でほえた彼らに、スミくんが隅で震えていたのはご愛嬌。
会場には市民が集まり、準備万端。万が一に備えて「スニーカー、懐中電灯、動きやすい服装」が言い渡されている。
「泉さんの浴衣、期待してたのに……」としょんぼりする龍次。
カウントダウンがはじまった。善や子どもたちはジャンプしている。
「いづみや~!」
花火が上がってもいないのに「たまや」「かぎや」ばりの掛け声が響き、泉は声の主をさがす。うちわをあおぎながらVサインをしているのは、千種だった。
「年度途中で投げ出して悪かったな」
ショック療法効きました、と泉は笑う。
「考えるひまもないくらいで、逆によかったかもです」
時間がとれなくて祭りに来れないというメールは、ウソだったようだ。
「はかりましたね?」
「だまされおったの」
くっくっと笑う顔が父親のオサムに激似だったが、それは言わないでおこう。
泉の性格上、しょい込みすぎる心配はあったが、まわりがサポートするだろうと千種は読んでいたらしい。
「今までまじめに仕事してきた、いづみやの成果だ」
明るい破裂音で、一夜限りの花火ショーは幕を上げた。
(つづく)

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