#4 30代になったら家族、仕事以外の「ナナメの関係」をつくれ
コロナ禍で、ますます新しい働き方が求められるようになった昨今。中でもシビアな立場なのが、もはや若手でもなく、かといって「逃げ切れる世代」でもない30代だろう。リクルートフェロー、杉並区立和田中学校校長などを歴任した藤原和博さんの『35歳の教科書』は、そんな悩める中堅ビジネスパーソンのための「戦略的な人生計画の書」だ。どう働き、どう生きるか? お金と時間をどう使うべきか? 心が奮い立つメッセージをお届けします。
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私が立ち上げた「ドテラ」とは
和田中に赴任して初めて直面した問題は、月曜日の学校に覇気がないことでした。1週間の始まりなのに、空気が淀んでいて、子供たちの反応が鈍いのです。

原因は週休2日制によって子供たちの生活習慣が乱れがちになっていることでした。金曜日の夜はゲーム三昧で、土曜日の朝は寝ているかテレビ漬け。土曜の夜も日曜も、これと同じパターンで生活のリズムを崩してしまうのです。
実際、土曜日にクラブ活動がある子は月曜日も活き活きと登校してくる。そこで私は「むしろ土曜日にも学校を開くほうがいいかもしれない」と考えるようになりました。
「土曜日の午前中、生徒たちを集めて宿題や漢字の練習などをする自主的な学習の場を設けてはどうだろうか。ただ、それを教師に押しつけるのは気の毒だ……」
思いついたのが、教師志望の大学生にボランティアとして来てもらうことです。
2004年1月に試験的に開始し、「土曜寺子屋(略称・ドテラ)」として本格的にスタートしたのが同年の4月。4年後に退任する頃には、学生ボランティア(略称・学ボラ)が30~40人、生徒は100人を超えるほどに盛り上がりました。
教職員に負担を掛けず、地元の有志や大学生など「地域の教育資源」を生徒たちと結びつけることで、生活習慣の問題も改善され、和田中は「学びのコミュニティ」としての姿を取り戻すことができたのです。
「自分を鍛える場」に飛び込む
私は学ボラのような存在を「ナナメの関係」と呼んでいます。

親子や教師と生徒はタテの関係、友だちはヨコの関係、そして利害関係のない第三者と子供との関係がナナメの関係です。
地域のコミュニティが自然に運営されていた頃は、質問ができるお兄さん、悩みの相談できるお姉さんが、いつも近くにいました。おじさんたちは父親と違う雰囲気を持っていたし、だからこそいろんな話ができた。学校や家庭よりも適度な距離感が保てて、いい意味でいい加減で寛容性のある存在。そんなナナメの関係が、今の子供たちには圧倒的に不足しています。
実は、大人にとってもナナメの関係は大切です。たとえば橋下大阪府知事(当時)から特別顧問の依頼があった際、私は「半年で必ず結果を出します。お金は一切いりません」と宣言しました。これには周りにいた人たち全員が驚いていました。
もし報酬をもらったら、どうしてもタテの関係が発生してしまいます。改革は痛みを伴いますから、反発も大きい。そんな時に「報酬なしで動いています」と言うと説得力が増すのです。これも一種のナナメの関係です。
逆説的ですが、利害関係のない第三者の関係が、個人に大きな利益をもたらすことは珍しくありません。
たとえば「学校でボランティアとして活動しても1円の得にもならない」と思うかもしれませんが、10年後に大きな資産となって返ってくる可能性は高い。次の時代の武器を手に入れたいのなら、お金を払ってでも自分を鍛える場所に飛び込んでいくことが大切なんだと思います。
和田中で図書室の改造を企画した時のことです。死蔵されている図書を廃棄し、子供たちが読みたい本に入れ替えるとともに、施設自体をもっと利用しやすいように変えていく。これは想像以上に大掛かりなプロジェクトでした。
私は計画の段階から赤木かん子さんに頼んで、監修者として関わってもらいました。全国の公立図書館を飛び回り、魅力ある図書館作りについて豊かなノウハウも持つカリスマです。
プロジェクトが始まると、生徒、保護者、地元の本好きの人、赤木さんを師と仰ぐプロの図書館司書が手伝ってくれました。
とくに手弁当で参加してくれた司書たちには頭が下がる思いでした。全員に「赤木さんとの作業に参加することが、司書という仕事を充実させるためのまたとない研修の場になる」という高い意識がありました。
広島から来た司書は三日三晩、赤木さんとの作業に没頭しました。もちろん報酬はゼロ。それどころか交通費も食事代もすべて個人負担です。ただし、これは自己犠牲ではなく、自分へ投資する行為なのです。ナナメの関係だからこそ生まれる、清々しい仕事でした。
ドテラも同じで、学ボラには1回につき1000~2000円の交通費を払うだけ。横浜から通ってくれた学生などは、往復するだけで赤字です。
それでも生の中学生の疑問に答えられる機会は滅多にないので、自分を高めるという意識で参加してくれました。教員を目指している彼らにとっては絶好のチャンスだし、十分にリターンがあったと信じています。
このような有償、無償のボランティアを単なる自己犠牲だと思わないでください。自分を鍛える場として、ナナメの関係を積極的に構築していってほしいと思います。
