第2回:FEMは「何を解く」手法なのか ー 自然現象を方程式で表すということ
前回は、地球科学の FEM 学習リソースが乏しい現状と、このシリーズを Python で展開する理由をお話ししました。今回からいよいよ本論に入ります。FEM を学ぶうえで最初に問うべきことは「FEM は何を解く手法なのか」 — つまり、FEM が出発点として受け取る方程式はどんな形をしていて、なぜ解析的に解けないのかを理解することです。具体例として地温分布の問題を取り上げ、支配方程式・境界条件・FEM の役割を一続きで整理します。
1. 支配方程式と FEM の関係
地球科学で扱う現象の多くは、エネルギー・運動量・質量の保存則を出発点として導かれる偏微分方程式によって記述されます。熱伝導方程式、弾性波動方程式、ストークス方程式 ー いずれも、物理量の空間的・時間的な変化のしかたを「ルール」として表したものです。
問題は、こうした方程式を実際の地球に適用しようとしたとき、解析的に解けるケースが非常に限られるという点です。解析解が存在するのは、形状が単純(球・半無限体など)で、材料が均質、かつ境界条件が整った、いわば「教科書的な問題」に限られます。
現実の地球はそのような理想を満たしません。不均質な岩石、複雑な地形、断層や不連続面 ー これらが組み合わさった途端に、支配方程式を手で解くことは不可能になります。
FEM が担うのは、まさにここです。FEM は、解析解が存在しない問題に対して、支配方程式の近似解を系統的に求めるための枠組みです。領域を有限個の小さな要素(Element)に分割し、各要素内では方程式を単純な関数で近似することで、大規模な連立方程式に帰着させて解きます。「有限要素」という名前はこの「分割された要素」に由来しています。
では、その「解くべき方程式」とはどのようなものか。次節から、地温分布という具体例で見ていきます。
2. 地温分布を方程式で書く
地殻内の定常的な熱伝導は、フーリエの法則から次の方程式で記述されます。
$$
\displaystyle\frac{d^2T}{dz^2}=0
$$
「温度 T の深さ z 方向への二階微分がゼロ」、つまり $${T}$$ が $${z}$$ に対して線形に変化することを意味します。
なお、ここでは地殻内部の放射性同位体による内部発熱を無視した最も単純なケースを扱っています。内部発熱を含む場合、右辺は $${−A/k}$$ (このとき $${A}$$ は熱生成率 $${[W/m^3]}$$ 、 $${k}$$ は熱伝導率 $${[W/(m⋅K)] }$$)となり、温度分布は線形から曲線へと変わります。この、より現実的なケースは応用編で扱えればと考えています。
また、地温勾配についても一点補足します。日本では地表付近で 25〜30 °C/km が観測されることが多いですが、これは上部地殻における値です。放射性同位体が上部地殻に集中しているため、深部ほど勾配は緩やかになります。リソスフェア全体(〜100 km)で平均するとおよそ 6 °C/km 程度になり、本記事の例題はこのスケールを想定しています。
3. 境界条件を与えると解が定まる
しかしながら、方程式だけでは深さ $${z}$$ に対する温度 $${T}$$ の分布、すなわち関数 $${T(z)}$$ は一意に定まりません。そこで、次の境界条件を与えます。
$${T(0)=15°C, T(100km)=615°C}$$
これで平均温度勾配が一意に定まり、
$${T(z)=15+6z}$$
という線形の温度分布が得られます( $${z}$$ の単位は km)。支配方程式と境界条件はつねにセットで問題を構成する ー これは FEM に限らず、数値解法全般に共通する重要な考え方です。
4. 現実の複雑さ ー FEM の出番
上の例は1次元・均質・線形という最も単純な設定でした。しかし実際の地殻はそうではありません。
熱伝導率 $${k}$$ が岩種によって空間的に変化する(花崗岩・玄武岩・堆積岩の混在)
地形・断層・火山体によって境界形状が複雑
水平方向の温度不均質が無視できない(例:海嶺・沈み込み帯近傍)
こうした条件が加わると、前節で示した単純な1次式では正確な解析解を求めることは難しくなります。そこで登場するのが数値解法であり、FEM はその代表的な手法です。FEM は領域を有限個の要素に分割し、各要素内で方程式を近似することで、複雑な形状・不均質媒質を持つ問題を系統的に解きます。
5. まとめ
地球科学の現象は支配方程式(偏微分方程式)で記述される
解析解が存在するのは形状・材料・境界条件が単純な場合に限られる
支配方程式と境界条件はセットで問題を構成する
FEM は、解析解が得られない現実的な問題に対して、支配方程式の近似解を系統的に求める枠組み
次回は、FEM の核心にある弱形式の考え方を取り上げます。「なぜわざわざ方程式を変形する必要があるのか」という動機から丁寧に説明します。引き続きお付き合いください。
GeoFEM Lab
参考文献
Turcotte, D. L. & Schubert, G., Geodynamics, 3rd ed., Cambridge University Press, 2014.
https://doi.org/10.1017/CBO9780511843877Fourier, J.-B. J., Théorie analytique de la chaleur, 1822.
(熱の解析的理論 ー フーリエによる熱伝導方程式の原著)
