ずっと入門してる(バレエの話)
「ずっと入門しているな」と思っている。バレエの話である。
29歳からバレエを習い始めて、まる3年が経った。だいたいの習い事は3年もやれば「入門編」は終わり「初級編」くらいになるイメージがあるけれど、私はバレエに関してはずっと入門している気分である。というか、「バレエという門」があるとして、門に入れてもらえているのかすら怪しいと思っている。もしかしたら3年間ずっと入門未満、門前の小僧的な立ち位置なのかもしれない。
「バレエを習っているんです」と言うと、大体の人は「白鳥の湖」的な、白いチュチュを着てなんか優雅に動いている感じの画を想像すると思う。
しかし、みんなが想像する「バレエ」というのは、バレエの門を入門したあとの遥か長く険しい道のりを耐え抜いた人たちによる職人芸であって、とても難しくてしんどい動きをあくまで平然と簡単そうにやって見せてくれている奇跡の産物なのだ。門前の小僧による入門未満バレエレッスンを見たら、「白鳥の湖」を想像していた人は非常にがっかりすると思う。白鳥はおろか、およそ「バレエ」にもなっていないわけなので。
重力があるこの地球で、人体を軽やかに魅せて白鳥やら妖精やら姫やらを表現するのは、はっきりいって無理がある。その無理を無理っぽく見せず、代わりに夢を見させてくれるのがバレエダンサーなのだ。
たとえば「白鳥の湖」の全幕バレエが料理のフルコースだとしたら、日々のレッスンというのは野菜の美しい切り方から始まり、バターで香りよく炒めるやり方や、出汁の取り方を練習し、最後に切った野菜を組み合わせてちょっとした一品を作ってみよう、みたいな感じである。
バレエには「パ」という動きの種類があって、まあ「みじん切り」とか「くし切り」みたいな感じでいろんな「パ」があるのだが、その「パ」と「パ」を組み合わせて一皿の料理=踊りができあがる。いろんな踊りが合わさって一つの作品になる。「パ」を美しく正しくできるようになるのが何よりも大事なので、そのための訓練を日夜行うのはプロでも素人でも変わらない。「バーレッスン」ってやつが例えるなら野菜の切り方の訓練に当たり、プロも毎日のようにバーレッスンをしている。
さて、入門未満の私が3年で何をどこまでできるようになったかというと、
まず正しく美しく野菜を切ることすらできていない。衝撃である。
さすがになんの成果も得られていないわけではないので、ぶつ切りしかできなかったのが乱切りくらいはできるようになっている(と信じたい)が、お手本のみじん切りとかいちょう切りとかからは程遠いのである。
そもそもほとんどの日本の成人女性の骨格だと完璧にみじん切りするのは不可能、みたいな部分もあるのだが、それにしたって遥かな道のりだ。気が遠くなるとか以前に、恵まれた骨格を持っている人が幼少期から訓練してはじめて完璧なみじん切りができる、みたいな世界なので、私が完璧なみじん切りをできるようになる日は未来永劫訪れないのだ。生きているうちにどれくらいマシになるかな、くらいな感じである。
だから私は友達に「ツキちゃんはバレエやってるんだよね〜」と言われると、内心(バレエをやっているというか、バレエができるようになるための訓練を一生やっている、という感じだな)と思いながら「まあ、全然下手だけど、頑張ってるよ〜」と返す。
ここまで読んだ人は「じゃあ一体何が楽しくてやっているんだよ」と思われるだろうが、私はそんなバレエ(ができるようになるための訓練)が楽しくてしょうがない。最初は週に1回から始めたレッスンは、気づけば週4になっているし、多い時は週6〜7回行っていた。発表会も出た。コンクールまで出た。なんと海外にレッスンも受けに行った。大人の趣味としては確実に常軌を逸してきている気がする。まだ入門できているかも怪しいのに、一体何が楽しいのだろう。
そんな「一体バレエの何がそんなに楽しいのか」について、これから少しずつ書いていきたいと思う。なにしろ自分でも「どうしてこんなにのめり込んでいるのか」を上手く説明できなかったので、いろんな要因があるのだろう。
私はずっと入門しているだけの門前小僧なので、いろいろ間違っている点もあるかもしれないが、いち門前小僧のバレエ(ずっと)入門記として読んでもらえたら嬉しい。乞うご期待。
