コンビニバイト中の人間観察が超楽しかった話
コンビニ、それはどこにでもある店。
朝も昼も夜もビビッドな看板を街頭に掲げ、食べ物飲み物から日用品まで、小さな空間でありとあらゆるものを販売している。そしてあらゆる人が買い物に来る。
学生時代、僕はコンビニでバイトをしていた。誰かがやってきては何かを買って帰っていく、その繰り返しに手を添えることがコンビニバイトの仕事。一人のお客さんと向き合う時間は1分にも満たない。名前も職業も出身地も知らないまま僕たちの縁は切れていく。
でもその数十秒のうちに、その人の好きな食べ物、生活リズム、生き方の価値観、本人も意識していない人柄、今日の気分、これまでの人生の気配、これからの人生の予感が垣間見える。
それに気づいた僕は、印象に残ったお客さんをレシートの裏にこっそりとスケッチするようになった。それが2年近く続き、描き留めたお客さんの数は300人を超えた。
コンビニのレジはまるで人生の展望台。
地上100mから真下の交差点を眺めるように、レジから見渡す白い店内では人と人と人がすれ違い続ける一瞬の永遠が繰り返されている。そこにある無数の物語を全て結末まで追うことはできないけれど、偶然目に止まったほんの数行を読むのが楽しくて、愛おしくてたまらないのだ。
アイス咥えたままネットショッピング支払いお姉さん

ある日、片手にアイスを持ったお姉さんが「これお願いしまーす」と通販のコンビニ支払い用バーコードを見せながらレジにやってきた。
バーコードをスキャンして支払いに移ったとき、お姉さんはアイスを口に咥えたまま両手でスマホをレジに置いて操作し始めた。おそらく決済アプリを起動したかったのだろう。
いや片手でよくね?と思っているうちにお姉さんは口が塞がれ、両手をぱたぱたしながら「んー!」と鼻から情けなく叫んでいる。
アホかわいいなこの人。
と思った。この可愛さを描き残したくなった。
手近にあった紙はお客さんが置いていったレシートの束。そこから1枚取り、真っ白な裏面にお姉さんを描いた。
こうして、コンビニにやってきたお客さんを描く習慣が始まった。
店内でピッチング練習するお兄さん

連れはいない。一人で店内でボールを投げるモーションを繰り返している。
野球好きなんだろうな。
これから買う水ボトルでバッティング練習するお兄さん

別の日、まさかの相方が現れた。こちらも連れはおらず一人。ペットボトルで素振りしながらレジに向かってくるお兄さん。
もしもタイミングが少し違えば、二人はコンビニの中で初対面なのに心で通じ合ってエア野球をやっていたかもしれない。
SNSで「ゴミ人間」をフォローしてるお姉さん

バーコード決済でお客さんのスマホ画面をこちらに向けてもらうとき、ちょうどそのタイミングで何かの通知が飛び込んでくることがある。
黒髪一つ括りに長袖シャツ、マスク姿の大人しげなお姉さん。彼女が決済バーコードをこちらに見せたその瞬間、
「ゴミ人間さんがツイートしました」
というツイッターの通知がすっと入り込んできた。
「この感じで『ゴミ人間』フォローしてるんだ…」
と思った。いや人って見た目以上に奥深いなと。
お姉さんはサムギョプサルを買っていった。
帰ったらキスしてそうなカップル

支払いと袋詰めをやっているとき、ふと前を見ると会計中のカップルの会話が途切れて、無言で微笑みを浮かべながら見つめ合っていた。二人とも目がとろっとしている。実際には1秒ぐらいだったが、体感5秒ぐらい見つめ合っている気がした。
たぶん俺がいなかったらキスしてたなアレ。
バズーカみたいなカメラをぶら下げて爆買いする常連さん

謎の常連さんがいた。
時間帯は日によって違うが、いつもバズーカみたいな巨大な一眼レフを肩にかけている。片手には買い物カゴを持ち、もはや何も見ずに取ってるんじゃないかという怒涛の勢いでおにぎり、サンドイッチ、コーヒー、お菓子などをカゴにぶち込んでいく。同じ商品を3個ぐらい入れていたりもする。
その後商品満載のカゴと共にレジにやってきて、「特大の袋2枚でお願いします」と毎回必ず言う。実際特大の袋2枚がぼってり膨らむ程度には量がある。そして両手に大きな袋を持って帰っていく。
驚くことに、この人に数日に1回ペースで遭遇していた。一体何者なのか、何用のご飯なのか、特大の袋2枚は何に使うのか。
直接聞くわけにもいかないし、ヒントだけ沢山あるのに一切の疑問が解決しない謎のおじさんだった。
ちいかわ別に好きじゃないお姉さん

なんでも流行るこの世の中で、別に好きじゃないと言い切れるその軸のブレなさがかっこいい。感銘受けちゃった。
いつも大量に食べ物を買う常連お兄さん

見た目から想像できる通りに大食いの常連さんがいた。
いつもけっこう重めの弁当2個、ジュース、お菓子などを買って、その場で弁当を温めて持って帰るお兄さん。帰ったら全部一度に食べるんだろう。胃の容量すごいな。
と思ってたら、ある日突然状況が一変した。

カゴの中身は、レタスサンド、サラダチキン、わかめサラダ……などヘルシーなものばかり。ついにダイエットか!?応援するぞ!!
後日。

メロンパン、コーヒー、バナナアイス、ジャンボモナカ。
いや挫折してんじゃん!!!!!
まあ彼が幸せならそれが一番なのだ……僕はまだ応援しているけど。
突然来て一瞬で帰ったお兄さん

本当に何?
さっき病院から抜け出してきたみたいな服装でタバコ買うおじいさん

夜11時頃。明らかに入院服を着た白髪のおじいさんが入店してきて、レジの前に来るなりタバコを注文した。しかも5箱。
いや吸っちゃダメなんじゃないの……?吸っちゃダメだからこの時間に来てんじゃないの……?
と思いつつも拒否することができず、注文された通りにタバコを売った。
今考えてもどうすればよかったのかわからない。余計なお世話だとしても「お体を大事にしてください」と言えばよかったのか。言ったとしてもおじいさんは買うのをやめただろうか。今吸いたいから吸おうとしているのに、今行きたいからって新卒でチリワーホリやってる僕が言えることだろうか。考えすぎだろうか。
急に来て募金だけしてすぐ帰ったお姉さん

それはあまりにも一瞬だった。
自動ドアが開く。お姉さんが一人入ってきた。
「いらっしゃいませー」を言い終わる頃にはもうレジ前に到達していて、これは通販支払いか公共料金のパターンか?と思ったら、
一切の迷いなくレジ横の募金箱に小銭を投入。
そして帰っていった。
何が起こったのか理解できなかった。コンビニで募金だけして帰る人初めて見た。募金するためだけにコンビニに来たということはそれだけ募金したい事情があったということだろう。
しかし我々にそれを知る術はない。
たまに来るけど毎回必ず誰かと電話しているおばさん

この人いつも電話してるな、と気づくまでそう日数はかからなかった。一度気づくと異常に気になり出す。一体誰と電話しているのだろう。
先輩によると何年も前からずっとこんな感じらしい。先輩はもしやイマジナリー電話なのでは?と疑っていたが、スマホは通話画面だったので確かに誰かと電話しているようだった。
この人が電話していないことが一度だけあった。バイト全員で「今日は電話してない!!!!!」とびっくりした。

結局電話していなかったのはその一度だけで、それ以降はやっぱりいつも電話していた。人と人の関わり方にもいろいろな形があるものだ。
アフリカ・モザンビークから来たマイブラザー

最初は僕から声をかけた。夜10時頃によく来ては、いつも缶ビール6本セットを買っていくので印象に残っていたからだ。英語で「よくうちに来てるよね」と話しかけた。
彼はアフリカ南部の国モザンビークからの留学生で、大学で環境の勉強をしているらしい。アフリカ由来のフレンドリーな性格の彼とは、初めて話した日からすぐに打ち解けた。

それ以降、僕のシフト中に彼がやってくると「Hi!」と挨拶し合う仲になった。時にはバイト終わりにビールを分けてもらったり、彼のアフリカ仲間と深夜に店の前でおしゃべりしたりもした。そしていつからかお互いにブラザーと呼び合うようになった。

そんな彼とも、大学卒業後はすっかり疎遠になってしまった。
彼は今どうしているだろうか。そもそもまだ日本にいるのだろうか。いつになるかはわからないけど、いつかモザンビークへ、彼の生まれた地へ会いに行きたい。
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今回ご紹介したお客さんの物語は、これでもほんの一部。
まだまだたくさん、雨の日も風の日も雪の日も、コンビニのレジからじっくり眺め続けたお客さんの物語がある。
それを一冊にまとめた本がこちらです。

コンビニバイトをしながら1年半に渡って描き溜めたお客さんのスケッチを、どっさり300人分収録しています。


64ページで季節を駆け抜けながら、移り変わる人々の暮らしと、ときに笑える、ときに愛おしい、誰かの人生の一コマに想いを馳せる。
「コンビニのレジは人生の展望台」。
その言葉の意味をぜひ体験してみてください。
現在BOOTHにてダウンロード販売中。お楽しみいただけましたら、SNS等で感想を呟いていただけると嬉しいです。
みなさんの何気ない日常も、振り返ってクスッと笑える物語でありますように。
