しっぽ文庫 | 雨のにおいは、冒険の合図
外は雨。
空はねずみ色で、世界がぼんやりしている。
ぼくは、散歩に行けないかもと、すこしだけがっかりする。
でも、ぼくは知っている。
雨が降ると、世界はもっとおしゃべりになるんだ。
ご主人さまがクローゼットの奥から、黄色い長靴を出してきた。
それを見ると、ご主人さまの足が、いつもより強そうに見える。
ぼくは思う。
ご主人さまは、あの黄色い靴を履くと、水たまりを歩ける魔法使いになるんだって。
ぼくにはそんな靴はないけれど。
そのかわり、ぼくには毛皮があるし、ご主人さま
より、ずっと鼻がいい。
外に出ると、アスファルトから雨のにおいがする。
外はあんなに濡れているのに、ぼくたちの頭の上だけは、雨が降っていない。
ご主人さまがさす傘の下は、ぼくたちだけの小さなお家みたいだ。
ご主人さまが水たまりを避けて歩くのを見て、
ぼくは、わざとバシャッと飛び込んでみる。
「あ」
と、すこし困った顔をするご主人さま。
でも、その顔は、すこしだけ前よりやわらかい気がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。雨の日は、世界がすこしだけ狭くて、近くなる気がします。
普段は見えにくい温かさに、ふと気づける日。
そんな一日も、悪くないなと思っています。

