みんな、俺じゃない。 第ニ話

「梓真、ご飯だ。起きなさい」
父さんの声が聞こえてきた。
絶対に夢だ。
父さんが俺を起こしにくるなんて、あり得ない。
どうせ夢なら、ずっと言ってみたかったことを言ってみよう。
「うーん。あと五分ー」
漫画などで定番のこのセリフ。ずっと言うのが夢だった。
アラームで起きないと母さんに怒られるし、ごくたまにかけ忘れて、起こしに来てくれるときも鬼のように怒っているから、あと五分なんて言ったら殺されかねない。
「食事が冷める。早く起きなさい」

夢のくせに
「うるさいな!!」
そう叫んで、起き上がると、父さんがいた。
父さんの姿を目にすると、本能的に夢じゃないと分かる。
寝起きで回っていない頭が、一気に覚醒する。
父さんの表情はいつも通り、無表情だった。
それが逆に怖い。
「ご、ごめん!!」
咄嗟に謝ると
五秒ほど、黙ったあとで
「いや、大丈夫だ。先に下へ行っている」
と言って、出て行った。

好感度が0から、マイナスに落ちた。
興味は持ってもらえなくても、せめて嫌われないように頑張ってきたのに。
最悪だ。

下に行くと、美味しそうなパンケーキが4つあった。
「……美味しそう」
思わず、声に出た。
「そうか。よかった」
そう言った父さんの口角が、上がって見えた。
いやいや、そんな訳ない。
錯覚だ。そうに決まってる。
席に着くと、母さんとあいつがパンケーキを食べ始めた。
「……いただきます」
別に誰も言っていないし、言わなくてもいいんだろうけど、なんとなく口にしていた。
一口食べると、めちゃくちゃ美味しかった。
今まで食べたパンケーキで、一番美味しい。
父さんがこんなに、料理上手だったなんて。
他の人の反応を見ると、父さんはいつもと変わらず、母さんとあいつは平静を装っていたけど、昨日の3倍、食べるスピードが早かった。
わかる。俺もがっつきたい。
でもそんなことしたら、両親に嫌われる。
母さんは自分が、がっついてるのは棚に上げて俺のことを責めるだろうし。父さんも食事にがっつく息子は嫌だろう。
こんな人たちから、好かれようとするのはやめようと決めたはずなのに、
両親のことが嫌いな俺と、大好きで愛してもらいたい俺。
正反対な自分が心に住んでいて、どれが本当の自分か分からなくなる。
結局、いつも通りのスピードで食べた。
母さんとあいつは、さっさと食べて二階に上がった。
父さんと2人になることなんて、滅多にないから気まずい。
なんの会話もないまま、食べ終わる。
「ごちそうさまでした」
皿洗いするために立ち上がると
「不味くなかったか」
と父さんに聞かれた。

「え……」
話しかけられると思っていなかったから、なにも答えられなかった。
「料理は久々だったから、自信がない」
「す、すごくおいしかったよ!!今まで食べたパンケーキで一番!!」
「……そうか。世辞でも嬉しいものだな。ありがとう」
お世辞じゃないよ。本心だよ。
そう言いたかったけれど、父さんの顔を見たら、何故だかなにも言えなくなってしまった。
父さんが皿を下げ始めた。
「あ、お皿は俺が洗うよ!」

母さんは『家事を手伝う時間があるなら、勉強しなさい!!』と一度も手伝わせてくれなかった。
勉強が得意じゃないから、せめて他のことで役に立ちたかったのに、勉強以外で俺を見てくれなかった。

「いや、俺が洗おう」
「お願い!洗いたいんだ!」
言ったあとで、変なお願いだなと思った。
普通の人なら嫌がる家事も、させてもらえないとしたくなる。
絶対に開けるなと言われたら、開けたくなるような感じだ。

「なら、一緒に洗おう」
「え……」
予想していなかった言葉に、また返事が出来なかった。

どうしてこうなった!!
父さんが洗った食器を、俺がゆすぐ。
別に嫌な訳じゃない。
むしろ嬉しい。
だけど気まずい。
食器とスポンジが擦れる音と、水が流れる音しかしない。

普通の家族ならこういうとき、学校のこととか話すんだろう。
普通の家族なんてフィクションでしか知らないから、偏見かもしれないけど。
会話がないまま、洗い終わった。
「仕事、行ってらっしゃい」
「ああ」
そう言って、父さんは出て行った。

今日はたくさん父さんと話せた。
もしかしたら、一生分話したかもしれない。
どうしてこんなに話せたんだろう。
顔には出ていなかったけど、機嫌がよかったんだろうか。
だとしたらなんで。



あー、あいつがいるからか。

俺は父さんにも、母さんにも似ていない。
血が繋がっていないんだから、当然といえば当然だけど。
美形な両親と、いかにも普通な俺。
母さんが不倫してできた子じゃないかと、噂されていたのを子どもながらに知っていた。
父さんも疑っていたのかもしれない。
だから、俺にも母さんにも興味がないのかも。
そんな中、自分にそっくりな本当の息子が現れたんだ。
そら、嬉しいよな。

こんなこと考えたって仕方ない。
自分の部屋に戻って、漫画を読みまくろう。
テスト終わり3日間以外、読むのを禁止されてるけど怒られても関係ない。
読みまくろう。

そう思って、部屋に戻ると。
「もう。梓真。遅いよー。待ちくたびれちゃった」
あいつが俺のベッドに寝転んで、漫画を読んでいた。
「今すぐ、降りろ!!」
「うーん。一緒に公園、行ってくれるならいいよ」
「こんなクソ暑い中?」
「だからいいんじゃない」
「はぁ。わかった。行ってやるから降りろ」
溜息まじりに言うと
「今日はやけに素直だね。梓真も僕のこと好きに」
「行くって言うまで、しつこいだろうが!」
昨日みたいにしつこくされるくらいなら、大人しくついていった方がましだ。
「さすが梓真。よくわかってるね」
「母さんに泣きつかれても困る」
「それはしないよ。あの人と話したくないし。それより早く行こう。時間がもったいないよ」
そう言って、部屋から出て行った。
本当にマイペースだ。
これからもこいつに振り回されるのだろうか。
早く、1か月経ってくれ。


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