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物質の進化 生命は定義できていない、だが区別できる


初めに

誰もが納得する生命の定義はできていません。
どのように定義しても反証されるからです。
しかし「進化する・しない」で生命・非生命を区別できます。
「生命とは何かを理解したい」から「生命・非生命を区別したい」のです。

生命の定義は確立していない

市橋先生によれば「生命と非生命を区別することは難しく、生命の定義は確立していない」とのことです。

生命と非生命
生命、あるいは生物とはどんなものなのかを知るために、まず生命と非生命を区別する条 件を探ってみたいと思います。別の言い方をすると、まず「生命を定義」してみたいと思い ます。
そんなものは簡単だと思われるかもしれません。確かに日常生活で私たちが生きているも のと生きていないものを見間違えることは、ほとんどありません。周りを見渡してみても、 生きているか生きていないかを判断できないものは、ほとんどないでしょう。私が時々間違 えるとすれば、最近、商業施設やオフィスなどでよく目にする偽物の観葉植物くらいでしょ うか。これらの人工観葉植物はぱっと見ると本物の植物と見分けがつきませんが、近づいて よく見たり触ったりすればたいてい簡単に区別できます。
ところが生命と非生命を完全に区別することは、よくよく考えると実は難しい問題なのです。ふだん目にするような大型の生物(ヒトとか植物とか犬とか)であれば、難しいことは 何もありません。
けれども目には見えないようなもっと小さい生物(ヒトの細胞とか細菌とか)になると、 だんだん難しくなってきます。見た目はどれもごく小さな水滴と区別がつきません。もちろ ん彼らも間違いなく生きているので、こういう小さな生き物にもあてはめられる生命の定義 が必要になるのですが、これが難しいのです。実は研究者の間でもいまだに生命の定義は確立していません
これまで多くの科学者が生命を定義しようとしてきましたが、いまだに皆が納得するもの はできていません。栄養からエネルギーを作る行為が生命現象の本質で、それを定義に入れ るべきだという人もいれば、遺伝子が複製して進化することが生命の本質だという人もいま す。どちらも大事だという人もいれば、そもそも生命を定義しようとしても無駄だという人 もいてどうにもまとまりそうにありません。
彼らの議論はそれぞれ興味深いのですが、彼らに付き合っているといつまでたっても先へ 進めないので、ここでは私たちの実感に近いところから生命と非生命の違いに迫ってみたいと思います。

協力と裏切りの生命進化史P16 市橋伯一 

どんな定義をしても反証される

戸谷先生によれば「どんな定義をしても反証されるから」とのことです。

生命の定義
生命の起源について考えるということは、必然的に、 生命と非生命との間の境界について考え ることになる。だが、そもそも「生命とは何か?」「生命の定義は?」という問題自体がなかな か難しいのである。 ある生物学者がいったそうだが、多くの辞書において、「生命」とは生きて いるもの、あるいは無生物ではないもの、死んでいないものと説明する一方で、「死」のほうは 生きている状態の終わりあるいは生きていないこと、といった感じで説明される。もちろんこれでは、いわゆる循環論法であり、何の説明にもなっていない。ある専門的な文献では、それまで に提案された実に123個もの生命の定義が集められたという。そのなかには「生命とは音楽の ようなものである。それについて述べることはできても、定義することなどできはしない」という洒落たものまである。
何が難しいかというと、どんな定義をしてみても必ず、その定義に当てはまらない反例が出て きてしまうのである。「その定義によればこれは生命ということになるが、どう考えても生命と は言い難い」、あるいは逆に「これは生命でありながら、その定義では生命とみなされない」と いった具合である。 現在のところ、誰もが納得する定義は存在しないといわざるを得ない。だ が、「生命の定義」について深く考察することは意義のあることである。 それを通じて、生命と いう現象の本質とは何か、が明確になってくるからだ。というわけで、本書でもまずはこの問題 から考え始めることにしよう。
米国の著名な惑星科学者にしてSF作家でもあるカール・セーガンは1970年、生命を定義する際に、生命現象のどの部分について注目するかという観点として以下のものを挙げている。 「生理学的」「代謝的」「遺伝的」「熱力学的」の4つである。
最初の「生理学」とは、生物を構成する各要素(組織や器官、細胞など)がどのような活動を 行っているかを解き明かす学問とされる。この観点からなされる生命の定義は、「食べる、排泄 する、代謝する、呼吸する、行動する、成長する、などのさまざまな生物的機能を発揮すること ができるシステム」ということになる。
だがこの定義の問題は、「生物的な機能」の多くが、別に生物でなくても備わっていることで ある。例えば自動車を考えよう。ガソリンという燃料を食べ、排気ガスを排泄し、ガソリンを燃 焼してエネルギーを得て(代謝)、ガソリンを燃焼する際には酸素を消費するから呼吸している ともいえる。そしてもちろん、「行動する」。一方で、すべての生命に共通する機能は限られる。例えば植物は行動しない。また、酸素を消費しない、つまり呼吸しない細菌もいる。
次の「代謝」とは、生命体が自らを維持するために、外界から取り入れた有機物・無機物など さまざまな物質を用いて行う化学反応や新たな物質合成の総称である。取り入れた物質の化学反 応からエネルギーを取り出す 「異化」と、取り入れた物質を使って自らの身体を合成する「同 化」の二つに大きく分けられる。 代謝は生理学で考察した生物の機能の一つであり、地球に生き るすべての生命 (以下では「地球生命」と呼ぶ)に共通の、欠くべからざる機能といえるだろ 。
そこでこの「代謝」の観点から生命を定義するなら、「膜などの境界によって外界から区別さ れ、外界から取り入れた種々の物質を代謝しているシステム」ということになる。実に一般的な定義で、すべての生命が当てはまるだろう。一方で広すぎて、生命でないものも当てはまるのが 難点である。例えば炎を考えよう。ロウソクの炎は明確な形を持っていて、それが外界との境界 ともいえる。そしてその炎は、酸素やロウソクの蠟を取り入れて燃やし、エネルギーを得てい る。そして我々がよく知るように、時として燃え広がって「成長する」という生物的な特徴も持 つ。だが、炎を生命と認める人はいないだろう。 

宇宙になぜ、生命があるのか p26 戸谷友則

生命と非生命を区別するには

生命の定義は困難でも「進化する・しない」で区別することができます。

進化が生命と非生命を分かつ
さて、生命と非生命を区別する条件に戻りましょう。 「進化する」という条件は火と生物を区別することができるでしょうか。
火はどれだけ時間がたっても進化しません。昔の火の性質と、今の火の性質が変わってい るということはありません。 広島県の宮島にある弥山の霊火堂には、1200年前に弘法大師が修行に使ったという火が一度も絶えることなく燃え続けていますが、1200年前より もよく燃えるようになったということはないはずです。 燃え方は燃やしているものや酸素の 状態によって決まっているだけで、今も昔も全く同じはずです。
それは火が燃えるということは物理現象だからです。 物理現象は時代や場所が変わっても 全く変化しないものです。だからこそ約400年前にニュートンが発見した万有引力の法則 が、現代でも変わらずに成り立っているわけです。これは物理現象が普遍的だといわれるゆ えんです。
一方で、生物については、1200年前と今で全く同じということはむしろありえません。 ヒトの場合、1世代で平均30から60個程度の変異 (突然変異)が起こります。ヒトの1世代 約20年とすると、20年ごとにヒトの持つ遺伝情報 (ゲノム)の配列は30から60個変わって しまうことになります。単純計算で、今のヒトのゲノムには、1200年前の人間と比べて 1800から3600個の変異が入っていることになります。
この中には修復された変異もあるでしょうし、ヒトの性質にほとんどなんの影響も及ぼさ ない変異がほとんどでしょうが、1200年前のヒトと現代のヒトでは生物としてわずかに 変わっていることは間違いありません。

協力と裏切りの生命進化史P26 市橋伯一

様々な観点から生命の定義を考える

次のような観点があります。

生理学の観点
生物を構成する要素(組織や器官、細胞など)が、食べる、排泄する、代謝する、呼吸する、行動する、成長するなどのさまざまな生物的機能を発揮することができるシステムである。
地球の生命の共通点
膜で外部が区切られていること、自分で自分の体を維持すること、自分の分身や子孫を残すこと、進化することなど。
物理学の観点
遺伝子の情報にもとづいて子孫を残すこと(自己複製)と、栄養をとって活動すること(代謝)の2つの仕組みがある。

地球外生命にも当てはまる定義

もし、地球外で生物のようなものを見つけた時のことを考慮して、NASAの定義があります。
地球外生命を考えてみると、
・DNAではない可能性があります。
・細胞を持っていないかもしれません。

NASAの定義

self-sustaining chemical system capable of Darwinian evolution
ダーウィン進化することができる、自立した化学的システムである。

NASA Astrobiology

研究者の間では、NASAの定義が最もよく受け入れられています。
この定義にはDNAもなく、細胞もなく、進化だけが残っています。
しかし、物質も進化します。
進化には「生命らしい進化」というものがありそうです。

進化する物質

生物ではないが、生物に近いものを考えてみます。
これまでにいくつかの進化する物質が知られています。
生物でないものが、生物らしい振る舞いをしたことを見つければ、それが生命の起源ではないでしょうか?

生命らしい進化を実験で成功させた下記論文があります。

まとめ

NASAの定義によれば生命とはダーウィン進化できる自立した化学的システムです。
市橋先生は物質の生命らしい進化の実験を成功させました。
すなわち、生命の始りの実験を成功させたことになります。
ただし、細胞の世代交代を手動で行っており、「自立」はできていません。
「自立」が実現できた時、先生は生命の起源の発見者になるのでしょうか?


【マガジン】生命の起源
生命の起源 4つの仮説
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生命の起源 生命は宇宙から来た?
生命の起源 地球で生命が誕生した確率は1である(本記事)
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進化 生命らしい進化とは何か
進化 生命は定義できていない、だが区別できる(本記事)

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