ライン随想録 中世都市バーゼルの路面電車
ライン随想録 1996年 井浦幸雄 スイス・バーゼル
ドイツ、スイスのかなり多くの中小都市では、現在も路面電車が使われている。
バーゼル市も例外ではない。
路面電車を撤去して、バス、タクシー、乗用車に置き換えることは考えられたことがないらしい。
人口18万という中小都市であること、自動車のもたらす排気ガス、古い街並みには自動車よりも路面電車がよく似合うことなどがその要因らしい。
町の一一路面電車に満足しているようだ。
乗用車が古い街並みの中心部に入ってくることがないよう、町の周辺部には、パーク・アンドライド、すなわち、 大きな駐車場と路面電車の乗り場を組み合わせて、 中心部に車を乗り入れることのないような工夫が随所になされている。
それでも間違って中心部に乗り入れた車は、狭い路地、 鉄製の杭に車をぶつけるなどいろいろな障害が待ちうけている。
南ドイツのフライブルグなどでは、町に入りこむ車に対して、若いボランティアなどがプラカードを示して警告する情景によくぶつかることがある。
町の中心部に行くときは、車を使うことなく、ほとんど路面電車を利用している。この路面電車には運転手が一人乗っているだけで、 車掌はいない。 利用者は自分で乗車前に切符を買い、乗車中はこれを携行していることになっている。 ときおり、 抜き打ち的に検札が現れ、もしこの時指定の切符をもっていないと、たとえば60フランの罰金をとられることになっている。
無賃乗車をすると検札にひっかかるので、みな指定の切符を買うということになるわけだ。
スイスの若い人に無賃乗車をしたことがあるかと聞いてみると、「ノー ノー」とおどろくほど強く否定する。
日本だと、一、二度キセルをしたことがあると、茶目っ気をまじえて言う人がいるが、ここではそういうことはほとんどないらしい。
無賃乗車でつかまりそうになり、あわてて電車から逃げた人を見たことがあるが、外国人労働者のような風采の人だった。
どうやら少ない人口の自分たちで路面電車を支えているという帰属意識のようなものが、無賃乗車をしないという意識をささえているということがうすうす分かってきた。
これと同じようなことが、 高速道路ステッカーにもあてはまる。
スイスでは国内高速道路使用料として40フランのステッカーを購入し、車のフロントガラスに貼っておくことになっている。
スイスに再入国するときに、高速道路に通じるパスポートコントロールでこれをチェックされるのだが、スイス国内ではこの検査をされたことはない。
このステッカーは、ガソリンスタンドや郵便局の窓口で売っており、毎年一二月末に自分で買って貼ることになっている。
有料道路の料金徴収所で多くの人手を使って毎回お金を集めるのとくらべると、コストが著しく安いに違いない。
スイスの運転免許の有効期間は一生で一度取得すれば、更新せずに一生使用できる。
用紙は水色の上質紙ではあるが、大切に使わないと長期間使用することはむつかしい。
路面電車、高速道路ステッカーなどその料金徴収のしかたは実に合理的でうらやましいかぎりであるが、この話を日本の役所の人にしたところ、「要するに遵法精神があるかどうかということですな」とのことだった。
これには一面の真理がなくはないが、法ないしルールは自分たち国民が自分たちでつくったもので、これを大事にしていこうという考え方と、何か不透明のまま無理に押しつけられたという鬱積した不満が渦巻いているのとでは、ずいぶん違いがあるように感じられた。
小規模の都市で市民の直接投票で時間をかけて決定したことは、市民の納得も得やすく、遵法意識も高まるのであろうか。
終わりに
この記事は2017年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さった。
この記事は住職の息子によって今も公開されている。
しかし、井浦さんの「ライン随想録」は今やどこにも見当たらない。
それで、当時お世話になったことを思い出し、復刻することにした。
インターネット上にあるライン随想録へのリンクも追加しました。
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