見出し画像

詩集|創られたもの

はしがき

閲覧ありがとうございます。
この詩集は、創作大賞への応募にあたって今までに投稿した詩を「朝」、「昼」、「夕」、「夜」の四部構成に編集したものです。あくまでこの分類は私の主観によるものであり、投稿時間に由来するものではありません。

こうして私の言葉が誰かの目に留まり、身元に置かれることを大変嬉しく思います。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
拙文失礼いたしました。



第一部:朝




宣誓


消えていくはずだった言葉を
一度だけあなたの血管に通す
少しの痛みを請け負って
少しの酸素をあげるため

あなたが諦めてしまった
嘘のない喜びを探している
いつまでも目を凝らして
四つ葉に座り込む子供のように


遠望 涙は沈丁花の香り
玉径2ミリのクラック水晶
奪われる前にしまったこと
夢から覚めて無くなったこと

宣誓 似ているならここへ
憂の混じった風に乗り
おんなじ心臓を結び付ける
銀色の目をした詩を書こう






白みはじめる街に見た
屋根上に浮かぶ夢 夢
それらはウサギの脚を持ち
ウスバカゲロウの羽を持つ

コンピュータの仮想現実は
整合性のみを出力する馬鹿
海馬の深層から聞こえる
スズメの声を排斥するらしい

迷子になった私たち
許された自由さえ苦しみに変えて
ツツジの花が落ちる姿を
幽霊のひらめきと悲観する


脳を癒す懐疑の余韻
現を隔てる暗闇の中で
押し殺された夜泣きのよう

ここは私たちに残された
最後の遊場地帯だ





誕生


朝が私を立ち返らせる
大地や草木や昨日の雨が
喜ばしい産声と共に また生まれた
聖母の風が葉をあやしながら
地球を抱き抱えているのが視える

ペールブルーの柔らかなカーテンは
そのあまりの美しさに驚いて
私の背中を何度も叩く
飛行機がそれを一瞥し
誇らしげに大空へサインを残した
檜の香りが消えていく方向に似ていた

この小さな部屋に
少しずつ私の原始が満ちていく
私はあらゆる境目が溶けるまで
安直な死を拒まなくてはならない

そして私はその大いなる解釈の中で
たまに恋をしたりする




第二部:昼




金魚と青空


湿ったアスファルトの上で
二匹の金魚が青空を受けていた

時刻は未明
しかし召集はいつも雨粒に乗ってやってくる
彼らは水面を叩く音に
波打つ法華経を聞いたようだ

物を言うことも所詮は嘘で
全ての生き物は終に亡骸を通して
問うことしかできないのだろう

残酷な青空へ
艶々とした鱗だけが
赤い光を返していた





短剣


子供が声も出さぬまま
ふと何かを諦める
ブラック珈琲が飲めないの
ならばあなたの論理もここまで

モビールでは癒されない傷に
片手で貼り付ける絆創膏
都合があるのよ 都合が
だからあなたの論理はここまで


聡い人 その美しさたるや
軋む言葉はとっておきのダガーにして
それが何かを誰にも教えるな
胸に抱えたその切っ先が
気高く瞳に宿るのを待て

聡い人 その恐ろしさたるや
哲学にも似た鈍色の鋼に
堪えた涙を叩き込むだけ
背筋に感じる刀身をなぞって
その熱を頼りにキラリと立て




第三部:夕





創られたもの


実験室の終末模型
クリーム色の光の中で
妥協と無責任な期待を積んだ
針の上 灰色の理想郷
疲れたステレオフォニックが遠く
壊れるのを待っている
ずっと待っている

メビウスが触れた神様に
裏も表もなかった
それなのに未だわたしたちは
裏返すことをやめないか

弾かれるように目を覚ます
母体から離れて落ちていく一枚の葉が
わたしを追い越した
目が合った刹那
何も言い残さずに

全ての悟りを埋め立てた上に
わたしは立っていた
太陽がますます諌めても
天使の息吹はどこまでも正しく
拡張された美しさの優しい香りとなって
過ちを隠していく
そっと隠していく

空を見上げた瞬間に
あなたは気付いてしまった
「あっ」と声を上げる間もなく
わたしを置き去りに眠ってしまった

実験室の終末模型
クリーム色の光の中で
妥協と無責任な期待を積んだ
針の上 灰色の理想郷
疲れたステレオフォニックが遠く
壊れるのを待っている
ずっと待っている





追い立てられる


追い立てられる
時間
「あと2分」

追い立てられる
日々
「あと3日」

追い立てられる
季節
「次は夏」

追い立てられる
成長
「次は大人」

追い立てられる
性別
「次は母親」

逃げている


落としたもの だらけ
見捨てたもの だらけ
恐ろしいもの だらけ






私は今
偉人の肖像画に寄りかかりながら
知識と眠気が混ざり合う流体のなかにいる
一組の亡霊が 微笑みながら
透明なチュールの軌道を残していく
それを羨んでいる

私は今
この小さな講義室に理由を求めない
偉大なる観測者も妄想に過ぎない
これは一握の砂 その砂粒の中の号哭
これは大樹の葉 その細胞質の中の一閃

私は今
明日に安心するために
あまりにも恐ろしい無限の思惑を
ごく小さな器に落とし込む
この微かな手の震えが
今の正体を勘付いているうちに




第四部:夜




46億年のクローゼット


しまい込む
言葉
取り出す
言葉
46億年のクローゼット
これはあなたによく似合う

あたしが
ひとつだけ
ボタンを取り替えた
カーディガン

46億年と

この瞬間の
オーダーメイド

笑うあなた
そう
そのために





宇宙で一番最初の


花が枯れたら一つ歳をとる
私は私の存在の
あまりの矮小さに身震いする

先の見えないスライダーに転がされ
終わってくれと願うように生まれてきた
もとより執行猶予の身ゆえ
下手を打てない私たちの小ささ 小ささよ

争わずして得られる繋がりは神話か
私たちには許されないのか
解放を丸呑みした全に睨まれて
剣を取るしかないのか 剣を?

…………

いやだ!
今 ここで燃えているのは愛だ
私たちのために燃えている愛だ
誰にも吸い取らせるものか

手拍子をするのも笑うのも
きっと宇宙で一番最初
幸せになれ
幸せになれ
一番の私たち




閲覧ありがとうございました。
コート

いいなと思ったら応援しよう!