風のなかに溶けていく
最近、なぜだか涙もろくなった。
年齢を重ねるごとに涙腺が緩むことを、私たちは「衰え」や「弱さ」と呼んでしまいがちです。けれど、それは決して否定的なことではありません。
英語の "Maybe we are just kind of melting away." という言葉が心に残っています。
「私たちは、少しずつ溶けるように、この世界へ還っていくのかもしれない」という意味の言葉です。
若い頃は自分を守るために張っていた、心のバリアや頑なな殻。それが人生のさまざまな経験を経て、少しずつ柔らかくなり、境界線が溶け出している。だからこそ、他者の痛みや世界の美しさが、ダイレクトに心に触れて涙が溢れるのです。
それは「弱さ」ではなく、むしろ自己への執着が和らいでいく、精神的な成熟のプロセスなのかもしれません。肉体という殻を脱ぎ捨てて、本来あるべき「大いなる存在」へと還っていくような、とてもスピリチュアルで神聖な感覚です。
親子であっても、人との関係においても、いろんなことに執着せず、追わない。
そう決めてすべてのコントロールを手放したとき、私たちはただ、自然の中に身を置くことを心地よく感じるようになります。
なかでも、風。
風を感じたとき、人はよく「風になりたい」と口にします。
風には形がありません。
どこから来てどこへ去るのかも見えないけれど、すべてを優しく包み込んで通り過ぎていきます。風になりたいと願うのは、自分を縛るあらゆる役割や執着から解き放たれて、世界そのものに溶け込みたいという、魂の深い欲求なのかもしれません。
足元では風を感じなくても、向こうの大きな木の梢(こずえ)の先端が、静かに揺れていることがあります。
天に最も近い場所で揺れるその葉のささやきを見つめるとき、私は風に、優しく労(ねぎら)われたように思うのです。
「これまでよく頑張って生きてきたね」
「もう何も、追いかけなくていいんだよ」
過去の記憶も、未来への不安も、風がすべてを優しく吹きさらってくれます。
「私」という境界線が消え、風の一部、自然の一部になっていく。
ただ大いなる川の流れに身を委ねるように、調和の世界と一つになる。
今日も目を閉じて、静かに通り抜ける風のなかに、私は優しく溶けていくのです。
それでは、どうぞ良い一日をお過ごしください🤗
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