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AI生成物と著作権 / 米最高裁上告不受理が示すもの 雑感


Ⅰ 人間の創造性を問う司法の判断

 知的財産法が歴史的に保護の対象としてきた人間の精神的活動と、計算機による出力とをいかに区別するか。筆者は、この問いに強い関心を持っている。2026年3月3日、米国連邦最高裁判所は、AIが単独で生成した画像の著作権適格性を争う訴訟について上告を受理しない決定を下した〔注1〕。これにより、人間の著作者性を必須とする下級審の判断は事実上確定し、立法的解決がなされない限りAIが単独で生成した成果物が著作権保護を受けることは当面ない状況が定着した。本件を出発点として、各管轄において形成されつつある実務の現状を検討する。

1 Thaler事件の経緯

 事件の起点は2019年に遡る。ミズーリ州のコンピュータ科学者スティーブン・セイラーは、自身が開発したアルゴリズムを著作者として「A Recent Entrance to Paradise」と題する画像の著作権登録を申請したが、米国著作権局はこれを拒絶した。2022年の再審査においても、当該画像には人間の著作者性が含まれていないとして拒絶が維持された〔注1〕。

 その後セイラーが提訴すると、2023年にコロンビア特別区連邦地方裁判所のBeryl A. Howell判事が「人間の著作者性は著作権の不可欠な要件である」と判示し、2025年には連邦控訴裁判所がこれを維持した。セイラーは2025年10月、現行解釈がAIを創造的に利用しようとする者に萎縮効果をもたらしているとして上告したが、最高裁は審理を受理しなかった〔注1〕。著作権局はテキストプロンプトに基づくAI生成画像は著作権で保護されないとの指針を示しており、司法と行政の解釈は一貫していると読める。

2 特許領域における同向の整理

 著作権と同様の方向性は特許においても確認できる。米国連邦巡回区控訴裁判所はAIシステムは人間ではないため発明の特許を取得できないと判断し、米国特許商標庁も2024年の指針において、AIシステムを発明者として記載することはできないと再確認する一方で、人間がAIツールを利用して発明を開発すること自体は許容するという立場を示した〔注1〕。英国最高裁判所も同一の申立人による特許事件において同種の訴えを退けており、人間の著作者性・発明者性を要件とする解釈は特定の法域に固有のものではない〔注1〕。

Ⅱ 「人間の著作」原則の国際的な広がり

 純粋なAI生成物を保護対象から除外するという法理は、比較法的にも広く共有されつつある。台湾および欧州における判断基準を確認しておきたい。

 台湾の文化省は「文化芸術応用における生成AI指針」を公表し、知的財産を管轄する官庁も書簡等を通じて、AI生成作品が著作権保護の対象となるには人間の精神による創作の成果物に準拠しなければならないとの見解を示している。反復的なプロンプトの修正など人間による実質的な貢献が認められない純粋なAI生成物は、人間の作品とみなされず保護の対象外と解されている。欧州連合においても、欧州連合知的財産庁や関連裁判例を通じ、著作権は人間の創造性と結びついていなければならないという原則が繰り返し強調されている。各管轄の法制度の細部に差異はあるものの、権利発生の要件として人間の実質的な関与を求める点において共通の認識が存在するといえる。

Ⅲ 創作プロセスと人間の意志の立証

 米国、台湾、欧州の動向から読み取れるのは、保護される著作物か否かを判断する軸として、構想から制作に至る全過程において人間の意志がどのように介在し対象を駆動したかが一貫して評価されているという点である。純粋なAI生成物と、人間が作成を支援する目的でAIを用いた作品との境界線は、創作プロセスにおける人間の寄与の事実認定に帰着する。

 AIの出力そのものと人間の道具としての利用を区別する現在の法解釈は、著作権制度の本来の趣旨に照らして妥当であると筆者は考える。しかし、生成された結果に対する事後的な選別やプロンプトの微調整がどの程度であれば著作権法上の創作的寄与として評価されるかは、依然として実務上の曖昧さを残している。この評価手法と立証構造をどう設計するかは、まさにこれから問われる論点である。

Ⅳ 日本法への含意

 日本著作権法は2条1項1号において著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義し、著作者とは「著作物を創作する者」と規定する。この文言から、AI単独生成物に現行法の枠組みをそのまま適用することの難しさは、米国と本質的に変わらない。

 文化庁は2024年以降、生成AIと著作権に関する考え方の整理を継続している。この文脈で注意が必要なのは、AI生成物に対する著作権保護の問題と、訓練データの利用と著作権の問題とは論点が異なるという点である。前者は創作物の権利帰属と保護の問題であり、後者は既存著作物の利用に関する問題である。

 権利帰属の議論と並行して、生成AI事業者に対する透明性確保の枠組みを整備しようとする動きも進んでいる。内閣府知的財産戦略推進事務局は2025年12月26日、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」を公表し、同日から2026年1月26日まで意見を募集した〔注2〕〔注3〕。この文書は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和七年法律第五十三号)の趣旨を踏まえ、EUのAI Actや企業統治分野のスチュワードシップ・コードを参照しながら、生成AI開発者および提供者に対してコンプライ・オア・エクスプレイン方式による対応を求めるものである〔注2〕。

 同文書が示す原則は三つに整理されている。第一に、学習データの内容・種類やモデルの設計・トレーニング過程、アカウンタビリティ確保のための措置を含む透明性事項と、知的財産権保護のための措置をコーポレートサイト等で公開する義務(原則1)。第二に、訴訟提起や調停・ADRの準備をしている権利者またはその代理人から特定URLが学習データに含まれているかを照会された場合の回答義務(原則2)。第三に、生成AIサービスを利用して成果物を生成した者から、類似コンテンツのURLが学習データに含まれるかを照会された場合の回答義務(原則3)である〔注2〕。

 注目されるのは、この枠組みが著作権保護の主体(誰に権利が帰属するか)ではなく、学習データの利用における透明性と権利者の事後的な救済可能性の確保に焦点を当てているという点である。権利帰属の問題を正面から解決しようとするのではなく、情報開示を通じて紛争解決のための証拠収集を容易にするという設計思想は、立法的に難しい問いを迂回しながら実務的な対応を積み重ねようとする現実的なアプローチとして評価できる。

 他方、コンプライ・オア・エクスプレイン方式は、原則の遵守を義務として強制するものではなく、不遵守の場合に理由説明を求める構造である。この枠組みで権利者の実効的な救済が確保されるかは、各事業者の届出内容の蓄積と市場による評価に委ねられている部分が大きく、制度の実効性は今後の運用を注視する必要がある。技術開発そのものを巡る初期の議論から、純粋なAI生成と人間の介入を伴う生成をいかに区別し、保護と利用の立法バランスをどう設計するかという課題へと議論の舞台は移行しており、日本においても立法論を含めた本格的な検討が求められる段階にある。

Ⅴ むすびにかえて

 今次の最高裁の上告不受理は、AIが単独で生成した成果物に直接的な権利を付与しないという現在の国際的な同調傾向を司法の場で追認したものである。著作権制度が人間の創作活動を誘引するという前提の上に成り立っている以上、AIを独立した著作者として認めることはその前提を問い直すことを意味し、その問い直しを引き受けるのは立法府であるという姿勢を、司法は今次の決定を通じて示したといえる。

 人間とAIの協働による生成物についての保護範囲は依然不明確なままであり、日本では透明性確保の枠組み整備と権利帰属の立法論という二つの課題が同時進行している。この問いにあたり何かを考えるきっかけになれば幸いである。

〔注1〕 Emma Roth, "AI-generated art can't be copyrighted after Supreme Court declines to review the rule," The Verge (Mar. 3, 2026), https://www.theverge.com/policy/887678/supreme-court-ai-art-copyright(最終閲覧日:2026年3月5日).

〔注2〕 内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」(令和7年12月26日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/pdf/shiryo1.pdf(最終閲覧日:2026年3月5日).

〔注3〕 内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)に関する意見の募集について」(令和7年12月26日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ikenboshu_20251226.html(最終閲覧日:2026年3月5日).

(マガジン)「AIと法-雑感」

 ※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。

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