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欧州議会「著作権と生成AI」決議を読む 雑感


Ⅰ 決議の概要と問題意識

 2026年3月10日、欧州議会は「著作権と生成人工知能――機会と課題(2025/2058(INI))」と題する決議(P10_TA(2026)0066)を賛成460票、反対71票、棄権88票で採択した〔注1〕。

 この決議は拘束力を持つ立法ではなく、欧州委員会に対する勧告的性格を帯びる。しかし、生成AIの訓練データとしての著作物利用、透明性義務の具体的内容、ライセンス市場の設計、AI生成コンテンツの著作権適格性、ニュースメディアの保護に至るまで、著作権×AI問題のほぼすべての論点を網羅しており、今後のEU立法提案の輪郭を示す文書として実務・研究の双方において無視しえない意義を持つ。

 筆者は、既存の法体系が新技術の前でいかに動揺し、またいかなる制度設計によって再均衡を図ろうとしているかという観点から本決議を検討している。とりわけ、立証責任の転換ともいえる反証可能推定の導入と、著作権法の属地主義を組み替える域外適用のアプローチは、日本の議論においても検討に値する論点である。

Ⅱ 透明性義務と推定規定

1 透明性義務の射程

 決議第12項は、汎用AIモデルおよびシステムのプロバイダーと展開者に対し、著作権保護コンテンツの利用に関する詳細な透明性と出所文書化を求めている〔注1〕。訓練データに留まらず、推論(inference)や検索拡張生成(RAG)のように継続的かつリアルタイムでクロールが行われる用途についても義務が及ぶ。後者の場合、クローラーがウェブ運営者に対して自己を識別できること、AIプロバイダーがクロール活動の詳細な記録を維持することが求められる。

 訓練に限らず、モデルが展開された後の動作プロセスまで透明性義務の対象とした点は注目される。従来の著作権論議は訓練データに焦点が当たりがちであったが、本決議はAI Act第53条が現在規律しているAIモデルのプロバイダーを超えて、AIシステムのプロバイダーや展開者にも同等の義務を及ぼすべきだという立場をとっている。

2 反証可能推定による立証負担の転換

 決議第24項は、透明性義務を十分に遵守していないEU市場における生成AIモデルについて、著作権保護著作物が訓練・推論・RAGの目的で利用されたとの反証可能推定を導入するよう欧州委員会に提案している〔注1〕。この推定または提出証拠に基づいて権利者が勝訴した場合、合理的かつ相当な訴訟費用はAIプロバイダーが負担するとされる。

 著作権侵害訴訟において、権利者が自身の著作物の無断利用を立証することは実務上きわめて困難である。情報の非対称性に対処するため、透明性の欠如を根拠として立証責任をAIプロバイダー側へ転換するこの手法は、当事者間の武器の平等を回復する試みと解される。透明性義務の不履行が単なる行政制裁に留まらず、民事訴訟における推定という法的効果を発生させる設計は、AIプロバイダーの事業リスクを大きく変容させる要素を内包している。

Ⅲ 域外適用の原則確立

1 訓練の場所を問わない適用

 本決議が最も踏み込んだ点の一つは、EU著作権法の域外適用に関する立場の明確化である。決議第16項は、生成AIモデルおよびシステムがEU市場に置かれ、または提供される場合、その訓練に係る著作権関連行為がいかなる法域で行われたかを問わず、EU著作権法が適用されると確認した〔注1〕。この要件を遵守しないモデルおよびシステムはEU市場への参入を禁じられる。

 著作権法は属地主義を原則とするが、データの収集とモデルの訓練を著作権制限の緩い第三国で行い、完成したAIモデルを欧州市場に投入するという潜脱の手法に対して、市場へのアクセスを条件として自国の規範を及ぼそうとするアプローチである。各国法制が異なる解答を示した場合に生じうる規制裁定(regulatory arbitrage)への対抗手段として、決議本文もこの問題を認識しており(前文AG項)、国際的収斂の必要性が明示されている〔注1〕。

2 フラットレート・ライセンスへの明示的反対

 決議第21項は、汎用AIモデルのプロバイダーによる過去の著作物利用に対する遡及的報酬の可能性を検討するよう欧州委員会に求めつつ、定額報酬と引き換えに生成AIの訓練に対するグローバルライセンスを付与する枠組みには明示的に反対している〔注1〕。著作権保護コンテンツの価値は関連する諸要素に基づき比例的に決定されるべきであり、権利者とAIプロバイダーとの誠実な交渉によって定められるべきだという立場である。

 EUの国内総生産の6.9パーセントを占めるクリエイティブセクター〔注1〕を保護する観点から、「包括的ライセンス料を払えば問題ない」という発想を正面から否定するものとして読める。

Ⅳ ライセンス市場の整備とメディア保護

1 オプトアウト管理の中央集権化

 権利者が自身の著作物を訓練データから除外する権利を実効的に行使できるよう、欧州連合知的財産庁(EUIPO)を仲介機関として位置づけ、オプトアウトのリストを集約的に管理する構想が決議第10項に示されている〔注1〕。散在する拒絶の意思表示を公的機関の関与によって一覧化し、法的予見可能性を高める設計である。AI開発者にとっても著作権コンプライアンスを確認するための包括的なツールとして機能しうるとされる。

2 報道機関の保護

 AIシステムによる情報集約がニュースメディアのトラフィックと収益を逸失させている現状を踏まえ、決議第7項は、そのような損失を被った報道機関に対して公平・比例的かつ非差別的な方法で補償を確保するメカニズムの構築を欧州委員会に要請している〔注1〕。また、ニュースコンテンツの集約がメディアの多様性を損ない、特定のゲートキーパーによる選択的処理や自己優先的行為を招くことへの懸念も明示されている。

Ⅴ AI生成コンテンツの著作権不適格

 決議第25項は、著作権保護の確立された基準を充たさないAIが完全に生成したコンテンツは著作権保護の対象として不適格であり続けるべきであり、かかるアウトプットのパブリック・ドメイン状態を明確に決定すべきであると確認した〔注1〕。

 これはEU司法裁判所の確立した判例法理、すなわち著作物とはその著者自身の知的創造物を表現したものでなければならないという原則(前文AE項)と整合する〔注1〕。AIが生成したコンテンツへの著作権付与に慎重な姿勢は、欧州の立場として明確に示された形である。

Ⅵ むすびにかえて

 本決議の全体を通じて見えてくるのは、現行EU著作権法制が生成AI普及局面においてはなお不十分であるという欧州議会の認識と、それを補完するための法制度的手当への強い要請である。ライセンス市場の整備、透明性義務の強化、推定規定の導入、域外適用の原則確立という方向性が一体として示された。

 もっとも、決議はあくまで欧州議会の政治的表明であり、実際の立法化には欧州委員会による提案と理事会との三機関交渉を要する。CDSM指令の改正という形をとるのか、独立した生成AI著作権規則として立案されるのかという制度設計の問題も残されている。

 日本においても生成AIと著作権をめぐる法解釈の議論が続いている中、欧州議会が打ち出したこれらの制度設計は比較法の素材として有用であると考える。

〔注1〕 European Parliament, "Copyright and generative artificial intelligence – opportunities and challenges", P10_TA(2026)0066, European Parliament resolution of 10 March 2026 (2025/2058(INI)), available at https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-10-2026-0066_EN.html.

(マガジン)「AIと法雑感」

※目次は以下を参照


note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。

P.S. This is shared for academic discussion only.

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