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EU AI法・生成コンテンツ透明性行動規範第2草案を読む 雑感



Ⅰ 本草案の位置づけ

 2026年3月5日、欧州委員会は、AI法(Regulation (EU) 2024/1689)50条の透明性義務の実施を支援する任意の行動規範(Code of Practice on Transparency of AI-Generated Content)の第2草案を公表した〔注1〕。同草案は独立した専門家グループが起草したものであり、産業界・学術界・市民社会等数百名の参加者から寄せられた意見を反映している。
AI法50条は、AI生成コンテンツの透明性に関する義務を定めた規定である。具体的には、生成AIシステムのプロバイダーに対し、出力コンテンツを機械可読形式でマーキングすること(50条2項)を求めるとともに、ディープフェイクおよび公的関心事項に関するテキストを扱うデプロイヤーに対し、当該コンテンツが人工的に生成・操作されたものであることを開示すること(50条4項)を義務づけている。これらの義務は2026年8月2日から適用される〔注2〕。
 行動規範の法的性格として注目されるのは、草案が明示するとおり、規範への署名は当該義務との適合性を決定的に証明するものではないという点である〔注3〕。これはソフトロー的手段として規範が位置づけられていることを示しており、規範への署名と法的義務の履行は必ずしも同一ではない。この点は、規範が「コンプライアンスの推定」を与えるものではなく、あくまで適合性を「示す」ための一手段にとどまることを意味する。筆者はこの設計が、技術の急速な進歩を前提とした場合の柔軟な規制手法として合理的であると考えるが、同時に規制の実効性をいかに担保するかという問いを残す。

1 二つのワーキンググループと草案の構造

 第2草案は二つのセクションから構成される。セクション1はプロバイダーを名宛人とし、生成AIシステムの出力コンテンツのマーキングおよび検出に関する義務(AI法50条2項・5項)を扱う。セクション2はデプロイヤーを名宛人とし、ディープフェイクおよびAI生成・操作テキストのラベリングに関する義務(50条4項・5項)を扱う。それぞれワーキンググループ1(WG1)とワーキンググループ2(WG2)が起草を担当している〔注4〕。

2 第1草案からの主要変更点

 第2草案の起草者たちは、第1草案と比較して規範をより柔軟かつ実務的なものに改訂したと説明している。変更点のうち、法的観点から特に注目されるのは以下の二点である。
 第一に、セクション1において、マーキング手法について「多層的アプローチ」(multi-layered approach)が明確化された。AI法50条2項は、出力コンテンツが機械可読形式でマーキングされ、かつ有効性・相互運用性・堅牢性・信頼性の四要件を充たすことを求めるが、草案はこれを充たすためには現時点の技術水準では単一の手法では不十分であるとして、デジタル署名付きメタデータ(サブ措置1.1.1)と非知覚的透かし(サブ措置1.1.2)の組み合わせを基本として義務づけている〔注5〕。フィンガープリンティングやログ記録は任意の補完的措置として位置づけられており、第1草案と比べて義務の範囲が絞り込まれた。
 第二に、セクション2において、第1草案が設けていた「AI生成コンテンツ」と「AI支援コンテンツ」を区別する類型論が完全に削除された〔注6〕。この整理は実務上の運用負担を軽減するとともに、境界が曖昧な両概念をめぐる解釈上の紛争を回避しようとする判断と読める。

Ⅱ 多層的マーキング義務の検討

1 義務の内容と「技術的実現可能性」の留保

 草案のセクション1において、多層的マーキング義務の内容は相当に精緻化されている。デジタル署名付きメタデータについては、改ざん防止の方法による時刻印付き署名が求められ(サブ措置1.1.1)、透かしについては、コンテンツから分離困難な形で直接埋め込まれることが要求される(サブ措置1.1.2)。
 他方、これらの義務はいずれも「技術的に実現可能な範囲で」(as far as this is technically feasible)という留保を伴っている〔注7〕。AI法50条2項が同様の留保を置いているため、草案はこれを忠実に受け継ぐかたちとなっているが、問題はこの留保の解釈基準が明確でない点にある。「技術的実現可能性」という概念は事業者にとって一定の解釈空間を与えるものであり、市場監視当局による実効的な執行を困難にしうる。
 草案は、多層的アプローチによらずとも単一の手法で四要件を充たすことができると独立した検証に基づいて証明できる場合には、将来的に代替的なアプローチを採用することができると規定している〔注8〕。これは技術の進歩を念頭に置いた前向きな設計ではあるが、検証の主体・方法・基準についての具体的な定めが現時点では不明確であり、最終版に向けてさらなる精緻化が求められる。

2 「任意」措置の位置づけ

 草案には義務的措置と任意措置が混在しており、この区別の意義について整理が必要である。たとえばフィンガープリンティング・ログ記録(サブ措置1.1.3)、法医学的検出機能(措置2.2)、プロバンス連鎖の透明性(措置1.3)は、いずれも任意とされている。任意措置は法的義務を生じさせないが、規範全体の目的を達成する上で不可欠な機能を担う場合もある。任意措置の採用状況が規範全体の実効性に与える影響については、最終版の評価において引き続き注視すべきであろう。

Ⅲ セクション2のラベリング要件

1 設計・配置要件の統一化

 セクション2においては、ラベルの設計要件として、英語の大文字略語「AI」を主要な視覚要素とするアイコンまたはラベルの使用が求められる(措置1.1)。また配置要件として、最初の露出時点で明瞭かつ識別可能な方法での開示が義務づけられる(措置1.2)。
 草案はEU統一アイコンの試案を附属書に示しているが、これはあくまでステークホルダーとの協議のための例示にすぎない。統一アイコンが最終的に確定・公開された暁には、欧州連合公共ライセンス(EUPL)の下で無償提供される予定とされている〔注9〕。アイコンの統一は、エンドユーザーの認知可能性を高めるという点で意義深いが、文化・言語の多様性を抱えるEU全域での実効的な普及には、加盟国レベルでのAIリテラシー向上施策との連携が不可欠と思われる。

2 芸術的・創作的作品における開示の特則

 AI法50条4項は、ディープフェイクが明らかに芸術的・創作的・風刺的・フィクション的作品の一部を構成する場合について、「作品の表示または享受を妨げない適切な方法」での開示に限定するという特則を置いている。草案のコミットメント3はこの特則を具体化しており、非侵入的かつ効果的な開示位置の例として、映像冒頭クレジット等が例示されている〔注10〕。芸術表現の自由と透明性確保の調和という難しい課題に対して、草案は一定の具体化を図ったといえるが、「明らかに」(evidently)という要件の解釈をめぐって事業者・規制当局間で齟齬が生じるリスクは残存する。

Ⅳ むすびにかえて

 本草案に対するフィードバックの受付は2026年3月30日22時(中央ヨーロッパ時間)までとされており、委員会は2026年6月初旬までの規範最終化を目指している〔注11〕。EU AI法の透明性義務が2026年8月2日から適用される日程を考えると、事業者が実務体制を整備するための準備期間はきわめて限られている。
 筆者が本草案を通読して受けた印象は、第1草案と比べて規範の実務的な使いやすさが向上した一方で、技術的実現可能性の留保に依拠した義務の柔軟化が、長期的には規制の実効性を損なう方向に働きうるという懸念である。多層的マーキング義務がどの程度の水準で実施されるかは、最終版における検証・コンプライアンス枠組みの設計如何に大きく依存する。この点について、最終版の動向を引き続き注視していきたい。

(参考)
欧州委員会による公表ページ:https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/commission-put-code-practice-marking-and-labelling-ai-generated-content
〔注1〕 European Commission, “Commission publishes second draft of Code of Practice on Marking and Labelling of AI-generated content”, Digital Strategy (5 March 2026), https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/commission-put-code-practice-marking-and-labelling-ai-generated-content, last visited 6 March 2026.
〔注2〕 Regulation (EU) 2024/1689 of the European Parliament and of the Council of 13 June 2024 laying down harmonised rules on artificial intelligence (Artificial Intelligence Act) (Text with EEA relevance), OJ L, 2024/1689, 12.7.2024, Art. 113(2)(b).
〔注3〕 Kalina Bontcheva et al., “Second Draft Code of Practice on Transparency of AI-Generated Content” (5 March 2026), Section 1, Objectives (a); Section 2, Objectives (a).
〔注4〕 前注〔注3〕Introductory statement by the Chairs and Vice-Chairs, pp. 3-5.
〔注5〕 前注〔注3〕Section 1, Measure 1.1, Sub-measures 1.1.1 and 1.1.2.
〔注6〕 前注〔注1〕(本文中の”taxonomy distinguishing the AI-generated content from AI-assisted content has been completely removed”との説明による)。
〔注7〕 前注〔注3〕Section 1, Commitment 1; AI Act Art. 50(2).
〔注8〕 前注〔注3〕Section 1, Measure 1.1(“multi-layered marking approach … does not prevent Signatories from being able to demonstrate compliance in the future with an alternative (possibly single) marking technique”).
〔注9〕 前注〔注3〕Section 2, Measure 1.3.
〔注10〕 前注〔注3〕Section 2, Commitment 3; AI Act Art. 50(4) subpara. 1.
〔注11〕 前注〔注3〕Introductory statement, p. 5; 前注〔注1〕(“The code is expected to be finalised by beginning of June this year.”).

(マガジン)「AIと法-雑感」

 ※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。

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