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Google「What People Suggest」廃止 / 医療情報とプラットフォームの責任 雑感


Ⅰ 何が起きたか

 検索エンジンが提供する医療情報のあり方は、利用者の生命や身体に直結する問題をはらんでいる。The Guardianの報道によれば、Googleは一般ユーザーからクラウドソーシングした医療関連の経験談をAIで要約・提示する検索機能「What People Suggest」を静かに廃止した〔注1〕。

1 機能の設計とその前提

 この機能は2025年3月、ニューヨークで開催された「The Check Up」イベントにおいて発表された。当時のチーフヘルスオフィサーであったカレン・デサルヴォは、「人々が専門家から信頼できる医療情報を探すために来る一方で、同様の経験を持つ他者からの意見も重視している」と述べ、AIを活用してオンライン上のディスカッションから多様な視点を整理することで、たとえば関節炎を抱えるユーザーが同じ状態の人々の実体験を迅速に把握できるようにする、というのが設計の趣旨であった〔注1〕。

 同じ境遇にある人々の経験談へのアクセスを容易にするという目的自体は理解できる。しかし、専門的知見を持たない一般人の経験談をAIで抽出・要約し、検索画面の上位に直接提示する仕組みは、誤情報の拡散リスクを内包する。月間20億人に利用されるプラットフォームにおいて、個別の文脈でのみ有用であったにすぎない個人の対処法が、医学的根拠を伴わずに客観的な回答のように表示されれば、情報の受け手には不当に高い信頼性を帯びて届くおそれがある。

2 廃止と説明の不透明さ

 米国でのモバイル向け提供開始からしばらくして、同機能は削除された。Googleの広報担当者は、廃止が「検索結果ページのより広範な簡素化の一環」であり、「機能の品質や安全性とは無関係」であると述べた〔注1〕。廃止をどこで公表したかを問われた同社が示したのは、昨年11月にGoogleスイスの検索担当者が執筆したブログ記事であったが、そのブログ記事には「What People Suggest」への言及が一切含まれていない〔注1〕。

 筆者はこの説明をそのまま受け取ることは難しいと考える。2026年1月に行われたThe Guardianの調査では、GoogleのAI概要に含まれる虚偽かつ誤解を招く健康情報がユーザーを危険にさらしていることが判明し、同社への批判が高まっていた〔注1〕。Googleは当初その調査結果を過小評価しようとし、その後、医療に関する問い合わせの一部についてのみAI概要を削除するという対応をとった〔注1〕。「What People Suggest」廃止の時期はこうした経緯と重なっており、安全性の懸念を正面から認めずに「簡素化」と位置づける説明は、プラットフォームとしての説明責任を果たしているとは言い難い。

Ⅱ 媒介者から情報提供者への転換

1 責任の構造変化

 従来の検索エンジンは、ユーザーを外部のウェブサイトへ誘導する媒介者としての性格が強く、リンク先コンテンツの正確性についてプラットフォーム事業者が直接的な法的責任を負う場面は限定的であると解されてきた。

 しかし、膨大なオンライン投稿を自社のAIモデルで読み込み、検索結果の画面上で独自の要約として完結させて提示する場合、プラットフォームは実質的な情報の編集者あるいは発信者へと変質する。「What People Suggest」はまさにこの転換点に位置する機能であった。ユーザー生成コンテンツをそのままリンクで示すのではなく、AIがそれを咀嚼してテーマ別に整理し直して提示する以上、提供される情報の内容そのものに対する注意義務と責任をいかに分配するかという問いが生じる。

2 「情報提供のみ」という免責の限界

 What People Suggestの表示画面には「これは情報提供のみを目的としています。医療の助言や診断については、専門家にご相談ください」という文言が付されていた〔注1〕。この種の表示は現在のAI医療情報サービスに広く用いられているが、それが法的責任の遮断機能を果たすかどうかは別途検討を要する。

 ユーザーがAIの提示した不正確な対処法を信頼して健康被害を被った場合、プラットフォームの規模とその影響力の大きさを踏まえれば、免責事項の一行で事業者の責任が完全に免れるという解釈には無理がある。あえて厳しい見方をするならば、プラットフォームの規模が拡大するほど、不完全なアルゴリズムがもたらす公衆衛生への影響も比例して増大するといえそうである。日本法の観点から補足すると、医師法17条が医業を医師の独占とし罰則を設けているのは、無資格者による医療行為の危険性を立法的に認識しているからである。AIが提供する医療アドバイスがこの「医業」概念にどこまで接近しうるか、そして接近した場合の責任の帰属がどうなるかは、日本においても議論が緒に就いたばかりの問題である。

Ⅲ むすびにかえて

 玉石混交のユーザー生成コンテンツをAIで集約するアプローチは、情報の信頼性という壁に直面して頓挫したと読める。Googleの次回「The Check Up」イベントでは、新チーフヘルスオフィサーのマイケル・ハウエルらが「新しいAI研究、技術革新、パートナーシップを結集し、世界で最も差し迫った健康課題に取り組む方法を共有する」と予告されている〔注1〕。AI健康情報の活用を推進する方向性そのものは変わっていないようである。

 一つの機能の廃止で議論が終わるわけではない。情報の品質確保と撤退時の透明性に関するプラットフォーマーの責任のあり方について、さらなる議論の深化が求められる。本稿が何かの考えるきっかけになれば幸いである。詳細は、原典をご確認いただきたい。

〔注1〕 Andrew Gregory, "Google axes search feature that crowdsourced amateur medical advice", The Guardian (16 March 2026), https://www.theguardian.com/technology/2026/mar/16/google-search-feature-that-crowdsourced-amateur-medical-advice(最終閲覧:2026年3月23日).

(マガジン)「AIと法雑感」

※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。
P.S. This is shared for academic discussion only.

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