オーストラリア「年齢制限物質コード」本格開始 / 生成AIと未成年者保護 雑感
Ⅰ 物理世界の保護水準をデジタル空間へ拡張する試み
オーストラリアの電子安全委員会(eSafety Commissioner)は2026年3月、子どもを有害なコンテンツから保護するための年齢制限物質コード(Age-Restricted Material Codes)の本格施行を発表した〔注1〕。現実の物理的な世界において、未成年者が酒類を提供する飲食店や成人向け施設への立入りを制限されているのと同様の保護措置を、デジタル空間にも適用する制度である。検索エンジン、アプリストア、ソーシャルメディア、ポルノサイト、オンラインゲーム、そして生成AIシステム(AIコンパニオンチャットボットを含む)が規制対象として明示され、高インパクトな暴力、ポルノグラフィ、自傷行為に関するコンテンツから子どもを遮断する措置が義務付けられた。
今回の施行は、既存の3つのコード(検索エンジン、インターネットサービスプロバイダー、ホスティングサービスを対象とするもの)に新たに6つのコードが加わる形で実施されている。
1 プラットフォーム事業者に対する安全配慮の義務付け
今回のコードの法的な特徴は、未成年者を保護する責任を保護者や学校から、デジタルプラットフォームを設計しユーザーから利益を得ている企業へと明確に転換させた点にある〔注1〕。検索エンジンにおいては、未ログイン状態や18歳未満のアカウントに対し、ポルノや暴力を含む検索結果をデフォルトでぼかす処理が要求される。自殺や摂食障害に関連する検索が行われた場合、最初の結果としてメンタルヘルス支援サービスへの案内を表示することも義務化された。事業者のシステム設計の段階から安全性の確保を求める構造であり、違反した企業には違反1件ごとに最大4,950万オーストラリアドルの罰金が科される可能性がある。
また、ポルノサイトにおいて「I am 18 years or older」と書かれたボタンをクリックするだけの自己申告による確認は、もはや規制上の年齢確認として認められない〔注1〕。形式的な手続きを超えた実効的な年齢保証手段の導入を、事業者に対して明示的に求めるものである。
2 生成AIと対話型チャットボットへの適用
本規制において注目されるのは、対象がAI搭載のコンパニオンチャットボットにまで明示的に及んでいる点である。性的に露骨な表現や高インパクトな暴力・自傷行為に関する資料を生成しうるAIコンパニオンサービスは、当該コンテンツへのアクセスを許可する前に、利用者が18歳以上であることを確認しなければならない〔注1〕。この確認はユーザーのログイン時、またはコンテンツへのアクセス・生成の時点において求められる場合があるとされている。
AIチャットボットは対話形式で動作し、コンテンツの生成が動的かつリアルタイムで行われる。静的なウェブページへのアクセス制限とは性質が根本的に異なるため、技術的な年齢確認の実装は容易ではない。それでもオーストラリアのコードは、生成AIシステムを既存のウェブサービスと同列の規制対象として位置づけることを選択した。未成年者が対話型AIを通じて自傷行為や自殺を助長される事態を先制的に防止するための設計であると理解されるが、規制の実効性については施行後の運用実績を見なければ評価できない点も残る。
Ⅱ 年齢確認とプライバシー保護の衡量
厳格な年齢制限の導入は、必然的に年齢確認の技術的精度と利用者のプライバシー保護の対立という問題を引き起こす。コードは正確かつ信頼性の高い年齢保証を事業者に求めているが、利用者の身元確認を深めることは過剰な個人情報収集への懸念を伴う。
この点について、コードは年齢保証に関するデータ保護についてオーストラリアのプライバシー法への遵守を要求しつつ、収集されたデータはオーストラリア政府ではなく各サービス提供者のみが管理しなければならないと定めている〔注1〕。規制の実効性を担保しつつ国家による情報の一元管理を避ける設計を採用しているものの、多数の民間企業が個別に厳格な年齢確認を実装することは、利用者の個人情報を分散させセキュリティ上の新たな懸念を生む。完全な危害の排除とプライバシー保護の両立は容易ではなく、筆者は制度的な摩擦が実務運用において顕在化することは避けられないと考える。
Ⅲ むすびにかえて
いかなる法規制もすべての危害を一度に排除できるわけではない、とeSafety委員長のジュリー・インマン・グラント氏自身も述べている〔注1〕。それでも今回のコードは、テクノロジーエコシステム全体にわたって未成年者への保護を構造的に組み込もうとする、規模と射程の両面で注目に値する取り組みである。
生成AIを既存のプラットフォーム規制の射程に明示的に取り込んだ先行事例として、他国の政策立案において参照される可能性がある。日本においても、プラットフォーム規制やAI開発のあり方を検討する際の具体的な素材となりうるであろう。何かの考えるきっかけになれば幸いである。詳細は原典をご確認いただきたい。
〔注1〕 eSafety Commissioner "Online safety codes provide real-world protection for children online" (2026年3月) https://www.esafety.gov.au/newsroom/media-releases/online-r-children-online, 最終閲覧日:2026年3月18日。
(マガジン)「AIと法雑感」
※目次は以下を参照
note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。
P.S. This is shared for academic discussion only.
