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見えない録画と継続的捕捉 / スマートグラスが揺らす行為者と空間の区別 雑感


0 アブストラクト

 スマートグラスが投げかける法的な難しさは、新種の被害が生まれることにあるのではなく、プライバシー法が前提としてきた二つの区別を同時に曖昧にする点にあると思われる。一つは誰が撮るのかという区別で、組織や事業者による撮影と私人による撮影とを法は別の枠組みで扱ってきた。もう一つはどこで撮るのかという区別で、撮影の場所が私的領域かどうかが違法性判断の入口に置かれてきた。眼鏡と見分けのつかない装置を身につけた一私人が、公共の場で、これまで組織的な監視に結びつけられてきた継続的で人工知能(AI)を介した捕捉を行えるようになると、この二つの区別はいずれも足場を失う。本稿は、主要7か国(G7)のデータ保護機関の対応を概観する資料を、行為者と空間という二つの軸から読み直し、各機関が手を伸ばす透明性や同意の手立てが、別の行為者と空間の組合せのために設計されたものではないかを問う。警戒の引き金は継続的で接続された捕捉という能力に求めるべきではないかというのが、筆者の置く分析の軸である。

 比較法の素材として参照するのは、フランスのデータ保護機関であるCNILが2026年6月のG7データ保護機関会合に向けてまとめた、各国機関のスマートグラスへの向き合い方を整理する資料である。同資料は、撮影の手がかりが消えることによる透明性の難しさ、同意を与える立場に立てない傍観者の問題、生のセンサーデータからの推論、機微なデータの取扱いといった論点が、法的な拠り所こそ国ごとに異なりながらも各機関の関心として重なっていることを示している。撮影映像が国外の委託労働者によって人手で確認されていたとされるMeta社をめぐる訴訟や、製造者があえて普通の眼鏡と区別できない外観を選んでいる事実が、この問いを際立たせている。

Ⅰ G7横断の概観が映す装置の新しさ

 CNILの資料は、G7各国のデータ保護機関がスマートグラスをどう捉えているかを、機関ごとに横断的に整理したものである〔注1〕。技術の説明から個人と業務それぞれの利用場面、プライバシー上の懸念、機関別の推奨事項までを概観する構成をとっている。ここで筆者がまず立ち止まりたいのは、装置そのものの新しさがどこにあるかである。製造者は、高度なセンサーと人工知能を、普通の眼鏡と意図的に見分けのつかない日用品に埋め込む方向に向かっているとされる。撮られる側からみたとき、新しいのは取得されるデータの種類というよりも、撮るという行為そのものが知覚できなくなることのほうにあるように読める。

1 録画の手がかりが消えることが透明性の核にある

 従来、人は撮影されていることを、撮る側の所作から察してきた。相手がスマートフォンを掲げれば、いま撮られているとわかる。スマートグラスにはこの手がかりがない。資料は、欧州データ保護監督官(EDPS)が2019年のスマートグラスに関する技術報告〔注2〕で、また国際的な専門家会合であるベルリン・グループが2015年の作業文書で、撮影の合図が欠けることへの懸念を示してきたと整理している。製造者は録画中を示すLEDの表示灯を用いるが、その合図が周囲に十分な通知として届くかは、実地の検証が足りないとして一部の機関から疑問が呈されている。小型の装置については、視覚以外の手段、たとえば信号の発信によって透明性を確保すべきだという提案もベルリン・グループから示されているという。透明性の難しさの核心は、機微なデータが取得されること自体よりも、取得という出来事が知覚の外で起きることにあると考える。

2 傍観者は同意を与える立場に立てない

 同意という仕組みは、撮られる本人が諾否を表明できる瞬間が存在することを前提とする。スマートグラスは、背景に写り込む非利用者からその瞬間を奪う。資料は、第29条作業部会(WP29)が情報の非対称という論点を挙げ、写り込んだ傍観者の同意を実際に得ることは難しい場面が少なくないと指摘してきたことを紹介している。欧州連合や英国の枠組みには、純粋に私的・家庭的な利用を適用除外とする考え方があるが、撮影を公に共有した時点でその除外は外れ、利用者は他人の個人データを扱う管理者として扱われうるとされる。ここでも問題の根は、同意の前提となる認知が成り立たないことにあるように見える。撮られていることに気づかない者は、開示や消去を求める権利を行使しようともしないからである。CNILも2026年5月の声明で、ほとんど目に見えず遍在する監視を常態化させかねないという懸念を示している〔注3〕。

Ⅱ 撮る者と撮られる場所という二つの軸

 ここで筆者の見立てを述べておきたい。プライバシーをめぐる法は、大きく二つの軸の上に組まれてきたと整理できる。一つは行為者の軸であり、組織や事業者と私人とを分けて規律を組む発想である。家庭的利用の適用除外も、データ管理者という地位の認定も、後述する個人情報保護法の事業者という入口も、いずれもこの軸の上に位置づけられよう。もう一つは空間の軸であり、撮影や取得が私的領域で起きたかどうかを違法性判断の手がかりとする発想である。スマートグラスは、一私人が公共の場で継続的かつ人工知能を介した捕捉を行えるようにすることで、この二つの軸を同時に横断してしまう。

 Meta社をめぐる訴訟は、これとは位相の異なる問題を映している。同社のスマートグラスで撮影された映像が、人工知能の学習のために国外の委託先へ送られ、人手で確認されていたとされる点が争われており、合衆国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に集団訴訟が提起されている〔注4〕。ここで問われているのは、装着者自身が撮った映像の流れとその開示の有無であって、背景に写り込む第三者の問題とは別の論点である。同じ装置から、装着者のデータをめぐる管理者側の論点と、傍観者をめぐる論点という、異なる法的拠り所が立ち上がる。提起された訴訟が虚偽広告と非開示を軸とする消費者保護の構成をとっていること自体、傍観者のプライバシーを正面から捉える受け皿が手薄であることをうかがわせるようにも読める。

Ⅲ 日本の枠組みは事業者性と公私の区別で組まれている

 日本でも、スマートグラスは個人情報保護委員会の文脈で論じられてきた。もっとも、日本の枠組みもまた、装置が横断する二つの軸の上に組まれており、その継ぎ目に難しい問題が落ちるように思われる。

1 個人情報保護法は事業者を捕まえる法であって私人の装着者を捕まえにくい

 個人情報保護法〔注5〕は、個人情報取扱事業者、すなわち個人情報データベース等を事業の用に供している者を名宛人とする(同法16条2項)。委員会がスマートグラスに最も近い場面で示してきた指針は、顔識別機能付きカメラシステムに関するものである〔注6〕。そこでは、顔の特徴を変換した符号が個人識別符号にあたることを前提に、利用目的をできる限り特定し(同法17条1項)、これを本人に通知し又は公表すること(同法21条1項)、当初の目的を超えて利用するには本人の同意を要すること(同法18条1項)、保有個人データに関する事項を公表すること(同法32条1項)が求められている。ただしこの規律は、駅や空港のような大規模施設に事業者が設置する固定カメラを念頭に組まれている。私的な目的で眼鏡型の装置を身につける一私人は、通常は事業者にあたらず、これらの義務の外に置かれる。個人にも原則として適用したうえで家庭的利用を除外する欧州の枠組みとは異なり、事業者性を入口とする日本の構造のもとでは、私人の純粋な私的利用がそもそも法の射程の外から始まるという、別の形の隙間が生じる。

2 傍観者を守るのは肖像権であり、その判断は個別の撮影に向いている

 個人情報保護法が届かない場面で、私人による撮影から傍観者を守る役割は、肖像権が担ってきた。最高裁は、京都府学連事件において、憲法13条を根拠に、何人もその承諾なしにみだりにその容ぼう等を撮影されない自由を有するとした〔注7〕。民事の局面では、いわゆる法廷写真撮影事件が、ある者の容ぼう等を承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかを、被撮影者の社会的地位、活動内容、撮影の場所や目的、態様、必要性等を総合考慮し、人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかで判断するとした〔注8〕。この枠組みは、個々の撮影行為を受忍限度に照らして測ることに向いている。スマートグラスがもたらす、継続的で接続され、人工知能を介した捕捉のような事象を正面から捉えるには、なお間合いがあるように思われる。受忍限度の問いは、一枚の撮影については鋭く働くが、絶え間ない流れを測る尺度としては必ずしも噛み合わないからである。

3 GPS捜査判決の継続的・網羅的把握という発想が参照点になりうる

 手がかりになりうるのは、GPS捜査をめぐる最高裁判決である〔注9〕。同判決は、車両に使用者の承諾なくGPS端末を取り付けて位置情報を継続的に把握する捜査について、個人の行動を継続的・網羅的に把握することを伴い、公道上の所在を把握する手法とは異なって私的領域への侵入を伴うとして、令状を要する強制処分にあたると判断した。公共空間での監視であっても、継続的な把握はプライバシーを侵害しうるという見方は、私的領域か否かを入口とする従来の二分論を踏み越えるものと理解されている。スマートグラスに顔認識と位置情報が組み合わされた場合の捕捉は、この継続的・網羅的把握と像を重ねうる。筆者は、装置を前にして問うべきは事業者かどうかや私的空間かどうかよりも、継続的で接続された捕捉という能力のほうではないかと考える。ただしGPS捜査判決は捜査機関の活動と憲法35条をめぐる判断であって、私人の撮影にそのまま及ぶものではない。あくまで発想を借りる参照点にとどまるのであり、その点は慎重に扱う必要がある。CNILの資料自身も、固定カメラへの請求が斥けられがちな従来の傾向に触れたうえで、人工知能や位置情報と結びついた移動の追跡はこれと性質を異にすると述べ、同判決を引いている。

Ⅳ むすびにかえて

 CNILの資料の値打ちは、各国のデータ保護機関が、透明性や同意、データの最小化といった手立てに収斂しつつあることを横断的に見せた点にあると考える。もっとも、その手立ての多くは、別の行為者と空間の組合せのために設計されたものであった。最も手強い問題、すなわち同意の瞬間を奪う見えない録画と、個々の撮影を測る枠組みでは捉えにくい継続的な捕捉は、二つの軸のあいだの隙間に落ちている。日本に引きつければ、事業者性を入口とする個人情報保護法と、個別の撮影に向いた肖像権の枠組みは、それぞれ問題の一部を捉えるにとどまる。より適した枠組みがどこから来うるかについては、GPS捜査判決の継続的・網羅的把握という発想が一つの方向を指しているように思われるが、筆者はこれを確たる結論としてではなく、今後の検討の手がかりとして置いておきたい。技術が普通の眼鏡の姿をまとって日常に溶け込むほど、撮られていることに気づくという、ありふれていたはずの前提を法がどう取り戻すかが問われていくのであろう。

出典

〔注1〕 Commission nationale de l'informatique et des libertés (CNIL), Smart Glasses: Compendium of G7 Data Protection and Privacy Authorities Approaches (2026). 第6回G7データ保護機関会合(2026年6月25日・26日、パリ)に向けて作成されたものである。会合の概要につき、CNIL "Emerging technologies and the protection of children: G7 data protection authorities agree on key principles"(https://www.cnil.fr/en/node/168666, 2026年6月29日最終閲覧)。

〔注2〕 European Data Protection Supervisor (EDPS), "Smart glasses and data protection"(2019)(https://www.edps.europa.eu/data-protection/our-work/publications/reports/smart-glasses-and-data-protection_en, 2026年6月29日最終閲覧)。

〔注3〕 CNIL "Lunettes connectées : appel à la vigilance"(https://www.cnil.fr/fr/lunettes-connectees-appel-a-la-vigilance, 2026年6月29日最終閲覧)。

〔注4〕 Bartone v. Meta Platforms, Inc., No. 3:26-cv-01897 (N.D. Cal. filed Mar. 2026).

〔注5〕 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)。

〔注6〕 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」(カメラに関するQ&A)(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/camera_QA.pdf, 2026年6月29日最終閲覧)。あわせて、個人情報保護委員会「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」(令和5年3月30日)参照。

〔注7〕 最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁(京都府学連事件)。

〔注8〕 最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁(法廷写真撮影事件)。

〔注9〕 最大判平成29年3月15日刑集71巻3号13頁(GPS捜査事件)。判決文につき、裁判所ウェブサイト(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86600, 2026年6月29日最終閲覧)。

(マガジン)「AIと法雑感」

※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。
P.S. This is shared for academic discussion only.

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