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スポーツは99%、理論である―― バイオメカニクスの観点から見た箱根駅伝5区・6区

2度目の3連覇を達成した青山学院大学。
全区間で強いのはそのとおりだが、その中でも特筆すべきは、

「山登り」往路最後の、5区
「山下り」復路最初の、6区

の強さ。

一般的に箱根駅伝の5区・6区は、
しばしば「ナラティブ」「根性」「精神力」「覚悟」で語られることが多い。

だが、この2区間ほど
精神論が通用しない区間もない。

ここで起きていることは、
ほぼすべてが 力学と身体構造の結果だ。

だから私はこう考えている。

スポーツは99%理論。
残り1%が精神力であり、物語となる。

箱根駅伝の5区・6区は、
その事実を最も残酷に、そして正直に可視化する区間だ。


5区・山登り

勝負を分けるのは「推進方向」

5区を見ていてまず感じるのは、
単純な「速い・遅い」では説明できない差だ。

早稲田の選手は確かに速い。
青学の選手も速い。
だが、身体の使い方がまったく違う


山登りで本当に重要なポイント

5区で最も重要なのは、これだ。

推進方向が、地面に対してどれだけ平行であるか

上りでは上下動が増える。
これはバイオメカニクス的に、ある程度仕方がない。

問題は、

  • 力がどこに逃げているか

  • 重心が前に運ばれているか

上に跳ねる割合が増えると、
エネルギー消費は一気に悪化する。

ここで決定的に効いてくるのが、

  • 股関節の柔軟性

  • 骨格構造

そしてこれは、
後天的に完全に作りきれるものではない


5区で見えた「オールラウンダー」と「クライマー」

5区で結果を出す選手は、
すぐに「クライマー」と呼ばれがちだ。

だが、今年の5区をよく見ると、
同じ速さでも中身はまったく違うことがわかる。


青学・黒田選手は「クライマー」ではなくオールラウンダー

黒田選手は、
典型的なクライマーというより、
完成度の高いオールラウンダーに見える。

上りでも、

  • 推進方向が常に「前」に残っている

  • 上体が過度に起きず、重心が浮かない

  • 接地がブレーキにならず、力が前に抜ける

山登りでよく見られる
「上に跳ねてしまう動き」が非常に少ない。

もちろん、上りでは上下動は増える。
だが黒田選手は、
その増え方が極めて小さい、
というかほとんど無い

だから走りが「軽く」見える。

ここで効いているのは、

  • 股関節主導の推進

  • 骨盤の安定

  • 勾配が変わっても破綻しないフォーム

これは、山専用の身体ではない。
フラットでも同じ理屈で走れる身体だ。

だから私は、黒田選手を
「山の神」ではなく、

山で証明されたオールラウンダー

と捉えている。


早稲田の選手は「典型的なクライマー型」

一方で、
後半に抜かれた早稲田の選手は
より クライマー型 の身体に見える。

  • 勾配への適応が高い

  • 出力を「上」に使う割合が大きい

  • 上りでは非常に強い

その代わり、

  • 推進方向がやや上に向きやすい

  • ストライドが詰まりやすい

  • フラットでは効率が落ちやすい

5区では非常に大きな武器になるが、
平地主体のフルマラソンでは苦労する可能性は高い。

これは欠点ではない。
適性の違いだ。


5区は「才能」を誤解させやすい区間

5区は、

  • クライマー型が「神格化」され

  • オールラウンダーの価値が見えにくい

そんな残酷さを持つ区間でもある。

だが黒田選手の走りは、
その誤解を見事にリセットしてみせた。


6区・山下り

箱根で最も過酷な「ブレーキ競技」

箱根駅伝で最も過酷な区間はどこか。
私は迷わず6区だと答える。

標高差 −800m
ここは「速く走る区間」ではない。

いかに減速を最小限に抑え、加速を破綻させずに制御し続ける区間だ。


下りは決して「楽」ではない

下りは楽だと思われがちだが、
バイオメカニクス的には真逆である。

6区では、

  • 接地のたびに強いブレーキ力が発生する

  • 大腿四頭筋はエキセントリック収縮を強いられる

  • 筋・腱・関節への負荷は上り以上に大きい

しかもスタートは朝。
筋温は低く、可動域も十分ではない。

この条件下で、
速い速度での減速動作を連続させる

6区は、
故障リスクの塊のような区間だ。


下りで効いているのは「体幹のひねり」

6区を見ていて印象的なのは、
下りが得意な選手ほど、真っ直ぐ前に突っ込んでいないことだ。

特に青学の6区の選手は、

  • ストライドで押し出すのではなく

  • 体幹のひねりで生んだ推進力を、重力にのせていく

ような走りに見える。

これは横ブレではない。

  • 骨盤と胸郭の回旋差

  • 体幹のねじれ戻り

  • それを脚の接地タイミングに同期させる

ことで、

落下エネルギーを、
前方向の推進力に変換している

状態だ。

この身体操作ができると、

  • ブレーキが強くなりすぎない

  • 接地が前に流れにくい

  • 下りで筋を壊しにくい

典型的なダウンヒラーの走りになる。


一度崩したら、立て直せない理由

一方、6区で最も危険なのは、
フォームの「一時的な崩れ」だ。

  • 接地が身体の前に流れる

  • 上体が後傾しすぎる

  • ブレーキが強くなりすぎる

この状態に入ると、

  • 減速がさらに強くなる

  • 筋へのダメージが加速する

  • フォーム修正に必要な余力が残らない

結果として、
立て直すことがほぼ不可能になる


ラスト3kmの平地が「激坂」に変わる

6区の恐ろしさは、
下りだけでは終わらない。

ラスト約3kmの平地。

ここは多くの選手にとって、
激坂のように感じられる

理由は単純だ。

  • 下りで筋が破壊されている

  • ブレーキ動作で出力を失っている

  • 推進に必要な反発が返ってこない

これは精神の問題ではない。
筋肉と腱が、もはや推進力を返せなくなっている


6区はマラソンではない

6区は、マラソンの延長ではない。

必要なのは、

下りで加速し続け、
平地で再び前に進める身体

つまり、

  • トレイル的な下り適性

  • ロードの絶対スピード

この両立だ。

単一能力では、
絶対に成立しない。


結論

箱根駅伝は「理論の実験場」だ

極端な登り、下りがある箱根駅伝の5区・6区
厳しい環境下では

  • 気合

  • 根性

  • メンタル

だけで走ることはできない。

ここで問われているのは、

身体をいかに状況に特化してどう使えるか
推進力をどう進行方向にマッチさせるか

という、極めて理論的な問題だ。

だから私はあえてこう言いたい。

スポーツは99%理論。
残り1%が精神力。

箱根駅伝は、
決して物語や精神力の大会だけでは語れない。

人間の身体が、
どこまで理論的に、合理的に動けるかを見極める大会
であるとも、
言えるのではないかと思う。

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