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下町音楽夜話 Reloaded 532「カフェ・デル・マーでチルアウト」

■■■本稿は下町音楽夜話532「カフェ・デル・マーでチルアウト」(2012年9月1日)に加筆修正したものです■■■

ようやく夏の終わりが見えてきたかと言った季節だが、まだ暑い日が多く、とてもチルアウトといった状態ではない。チルアウトと言うと懐かしいとおっしゃる方も多いだろうか。言うなれば、夕方に聴くと少し体温が下がるようなリラックス・ミュージックである。特定のジャンルのようにも言われるが、結局チルアウトのコンピレーション盤を聴いてみると、いろいろなジャンルの寄せ集めといった内容で、どうも主観的に捉えたほうがよさそうだ。

チルアウトのコンピレーション盤と言えば、世界的にも有名な定番があり、当然自分もそれを指している。1990年代に大ヒットしたシリーズ、「カフェ・デル・マー」がそれだ。自分の場合、当時は胡散臭くて手を出す気にならなかったのだが、Vol.3でパット・メセニーが取り上げられたりしたことで、少しそそられていたのだ。今ではそんなに距離を置かなくてもよかったかな、と思っている。実は最近になって、アニヴァーサリー・シリーズも出て、冷静かつ客観的に見ることができるようになり、お安い再発盤などがドライヴのBGMに活躍しているのである。

カフェ・デル・マーは、ヨーロッパの若者にとっての夏のお出かけの定番、地中海にあるイビサ島にある夕陽が美しいカフェである。世界一有名なカフェといっても過言ではなかろう。何せチルアウトのコンピレーション盤「カフェ・デル・マー」は延べで500万枚は売れたと言われている大ヒット・シリーズなのだ。これを監修しているのが、ホセ・パディーヤというスペイン人のオジサンで、言ってみれば、世界中のDJの頂点に立った男といったところだ。彼がセレクトする曲は、あまりダンサブルなものは多くないので、クラブでプレーしているDJさんたちには、ちょっと納得がいかないものでもあるようだが、売れた者が勝ち、というわけだ。

イビサ島は地中海にある島全体が世界遺産になっている風光明媚な観光地である。一万人も収容できる世界最大のクラブ、プリヴィリッジなどもあり、ナイトライフは相当充実しているようだ。過去にはちょいと騒ぎ過ぎて、未だに厳しい営業時間制限があるということだが、ドラッグ禍が比較的に少ない日本ではどうもうまく想像することすら難しい。そんな中で、カフェ・デル・マーは夕陽がきれいなビーチにあり、チルアウトが売り物になるのも納得の、少し大人の雰囲気のお店のようである。

ひとつのカフェの名を冠して大ヒットしたといわれれば、日本ではカフェ・アプレミディのシリーズを思い出す。こちらは橋本徹監修で、いったいどれくらい売れたのやら、そもそも全容がつかめないので、想像もできない。何枚か持っているが、フレンチ・ボッサあたりの印象が強く、リラックス・タイムのBGMには最適の優れものである。レア・グルーヴなどと言われてもオジサンにはよく分からないが、とてもジャンルでは括れない雑多なものではある。

そういう意味では、カフェ・デル・マーはまだチルアウトという強い傾向を持っており、一貫性があったという印象だ。カフェのBGMと考えたら、何でもありのはずで、本来は一貫性もへったくれもないのだが、ホセ・パディーヤのセレクションは、美しい夕陽でも見えてきそうなリゾート気分満載で、不思議と個性を感じてしまう。意外なほどエレクトロニカ寄りの音を好み、まとめて聴くと安っぽいシンセ音が耳に残っていたりするあたりは、ご愛嬌ということにするか。何せユーロビートの時代にチルアウトしていたのだから、当然と言えば当然なのだろう。

さて、この夏、ホセ・パディーヤは「イビサ・サンダウナー」というシリーズの第2弾をリリースしてくれた。これが非常に楽しめる内容のもので、実はこの夏はチルアウトしっ放しだったのだ。春先に、ブルーノートの音源ばかりを集めた「ブルー・ノート・ビーチ・アンド・リゾート・プレゼンテッド・バイ・ホセ・パディーヤ」というコンピレーションCD2枚組もリリースしており、これがミシェル・ペトルチアーニやハービー・ハンコックやチェット・ベイカーやデクスター・ゴードンの演奏が、不思議とリゾート・ジャズになっており、さすがと言わざるを得ない代物だった。それが始まりで、懐かしいついでにいろいろ聴きあさり、極めつけが「イビサ・サンダウナー」だったというわけだ。いやはや、さすがにビーチで聴いて惹かれる音楽は、ビーチにいる人間でないと分からないと納得してしまった。都会で茹だっている我々にとって、あまりにも羨ましい涼しさを持った音とでも言うしかない。

ただ面白いことに、このコンピ盤、随分日本人の名前が見られるのだ。「シキ-ツネノリ・リミックス」という曲も日本人絡みなのだろうが、詳しくは分からない。他には、猪野秀史、中島ノブユキといったミュージシャンの曲も取り上げられている。そして、いずれもチルアウトの現在形を示している。ホセ・パディーヤは、あまりアコースティックな音には拘りがないようで、ここでもエレクトロニカのコンピだと言える内容である。ものによってはトランス的な反復リズムが非常に心地よい。帰宅直後、冷たいドリンクを飲みながらこのCDを聴くと、リアルに体温が下がるのである。この盤、この夏一番の省エネ・アイテムとあいなった。


■2026年の独り言■
懐かしいですねぇ。ホセ・パディーヤもイビサ・サンダウナーも、この2〜3年、夏の定番でした。久しく聴いておりませんでしたが、今年の夏も暑そうですから、聴いてみますかねぇ…。


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