下町音楽夜話 Reloaded 640「トゥイーディ」
■■■本稿は下町音楽夜話640「トゥイーディ」(2014年9月27日)に加筆修正したものです■■■
ウィルコの頭脳とも言われる中心人物であるジェフ・トゥイーディが、18歳の息子スペンサーとのプロジェクト、トゥイーディでアルバムをリリースした。「スーキーレイ」という2枚組20曲に及ぶボリュームである。そもそもこの曲数の多さからして、ハンパなものではないなという予測はついていたが、聴いてみて実感した。全くもって、サイド・プロジェクトのレベルではない。至って本気なのである。
特にメロディに関しては、今更オルタナティヴという言葉を冠する必要もない、現代アメリカを代表するポップ・ロック・バンドの頭脳が全力を出しているわけだ。悪かろうはずもない。もう少し息子を立てて親父はバックアップに回っているかと思いきや、ジェフ・トゥイーディのソロと考えても問題ない内容である。全編にジェフ・トゥイーディらしいメロディが溢れている。これ、ありか?
とにかく、息子のスペンサーは、この親にしてこの子ありと言うべき、マルチな才能の持ち主だという。既にウィルコの前作「ホール・ラヴ」のミュージック・ビデオをプロデュースした実績も評価されており、ドラムスの腕前も相当のものということだ。親父さんがプロ・レベルと判断したのであろう、確かに複雑なリズムをたたき出している曲もある。
しかし、そこはウィルコと一線を画しているつもりか、随分シンプルな構成の曲が多い。1曲目はいきなりハードなロック・ナンバーが飛び出してくるので身構えてしまうが、その後はほとんどがミドル・テンポのバラード的な曲ばかりだ。何回か聴き終えた段階での印象は、一筋縄ではいかない、ノイズ系の解釈も経た上でのバロック・パールのような美しさを醸し出すメロディが横溢しているというものだ。自宅内で親子が音を合わせて遊んでいるような内容を想像していたら大間違いだ。あまりのクオリティの高さに呆然としてしまう。
ウィルコ関連の音源はアナログでも揃えているし、クルマの中でも聴きたいのでCDも買う。今回、まずCDが届き、3日遅れでアナログ盤が届いた。アナログ盤は3千円もしない価格だったので、ダウンロード・コードも付いていないだろうと思っていたが、届いてみたら何とフル・アルバムのCDがついてきた。ダブってしまったが仕方ない。とにかく大満足の内容なので、文句を言う気すら起きない。アナログ盤は当然のように180gの重量盤である。最近リリースされるアナログ盤はほとんどが重量盤である。高音質を謳っているものには、200g盤もある。贅沢な仕様のおかげで、輸入盤でも昔と違って反りも無ければスレもない。えらくキレイな盤面なのである。
自分にとって、ウィルコというバンドは、現代版ビートルズと言っても過言ではないメロディ・センスと、同時代的な目新しさが同居した、類稀なる存在なのである。21世紀のジャズ界をすっかり別物にしてしまったノラ・ジョーンズがリスペクトすることからも知れるように、新しい感性の中に素晴らしいメロディが内包されている。内省的なヴォーカル・スタイルは、ボブ・ディラン的とも言える。ビートルズ+ディラン+現代的センスとくれば、もう怖いものなし、最強ではないか。
しかも枯渇しない。コンスタンスにアルバムをリリースしてくるし、ライヴ活動もマメに行っている。もっとジェフ・トゥイーディの独壇場なのかと思っていたが、ステージを観るかぎり、しっかりバンドとしてのサウンドを構築しており、決してワンマンではない性格が垣間見れる。ライヴではギターが3本もあり、かなり音数が多い嫌いもあるが、まとまりはよい。バランス感覚のよい人間なのだろう。
自分がそこに求めているのは、現代のアメリカを代弁する詩であり、メロディである。アメリカーナ的な要素は強調されないが、非欧州的な匂いが強く、やはり現代アメリカのシーンを代表するバンドと捉えられるのだ。今回のトゥイーディのアルバムを繰り返し聴く行為は、ジョー・ヘンリーやカウンティング・クロウズといった連中と同じ線上で語られる、現代アメリカを読み解くスリルと楽しさに満ち溢れた行為なのである。これ以上は望むべきではないクオリティだ。ウィルコから離れて息子と作り上げた、プライヴェートな要素が入り込んでもおかしくないものがこの素晴らしさときた。望むとすれば、早くウィルコの次のアルバムが聴きたいということだけである。制作に取り掛かるという情報はあるが、果たしていつまで待たされるのやら。アナログ盤リリースに関しては、最初から熱心な連中だけに心配はないが、CDが売れなくなったと言われて久しい昨今、次の十年も何が起こるか分からない。たのむ、早く新盤を聴かせてくれ。
■2026年の独り言■
ウィルコが少々尻すぼみなので、トゥイーディに期待したいところでしょうが、どうもこのアルバムまでが好みの範疇にあり、この後ドンドン逸れて行ってしまいます。残念です。
