下町音楽夜話 Reloaded 013「シンク・トゥワイス」
■■■本稿は下町音楽夜話013「シンク・トゥワイス」(2002年9月9日)に加筆修正したものです■■■
清澄白河界隈を歩く機会があった。古くからの伝統的な産業に従事し、頑固に伝統を守り続けるオヤジさんたちに会ってきたのだ。みな揃って後継者難を口にしていたが、オヤジさんたちとはライフスタイルの違う若い世代には、同じことをやれと言っても無理だということがわかっているようで、なるほどと思いつつも、やるせない気持ちにさせられた。やみくもに伝統を守るべきとは言わないが、いいものは残したい。
最近、「ライフスタイルの提案」などと言いつつ、理由もなく変わらなければいけないという提案をしておいて、結果的に他人の行状を批判しているだけのような本がある。妙に新しいものを追求しなければならないという強迫観念でもあるのか、必要以上に古いものを否定的に評したりする。全く大きなお世話だとも思うが、ぐちゃぐちゃ考えずにともかく前進しろという乱暴なものや、お洒落だからというような、理由にもなっていないものが書店などで山積みになっているのを見るにつけ、なんとも危険な社会だなとも思う。ライフスタイルだから、これは宗教的なはなしや政治的なはなしではなく、あくまで個々の生活様式の問題であって、個々の価値観をどのように生活に反映するかという問題のはずだ。
何だかこう「ライフスタイルの提案」が溢れていると、まず自分で考えないのかなという疑問が持ち上がる。さらにこういった風潮が、ちょっと立ち止まって自分を見つめ直すというようなことにブレーキをかけているように思えてくる。
英語で「シンク・トゥワイス」という、好きな言葉がある。直訳すれば「2度考えろ」ということになるが、「よーく考えてごらん」という程度の意味で使う。どうしても忙しくて短絡的な思考になりがちなとき、ちょっと待てよと自分に言い聞かせるべきときなどに有効なのだ。「あせるな」とか「慌てるな」程度の意味としても使うが、自分では「急がば回れ」的に使って、それなりに重宝している。
一方で、古いものを大事にしたり愛でたりすることを必要以上に褒め称える風潮もある。リサイクルの推進は資源保護にもなって当然よいことだとは思う。地球環境にやさしいというのであれば何でもよいとも思う。しかしどうも短絡的でいけない。人それぞれのライフスタイルもあるわけだし、一方的に価値観を押し付けられる覚えはない。ここでも「シンク・トゥワイス」だ。特に環境問題はヒステリックになっている傾向も見受けられる。やりすぎというべきものや、納得のできないものもしばしばある。
フィル・コリンズの名曲、「アナザー・デイ・イン・パラダイス」はエリック・クラプトンのギターもいい味をだしている素敵な曲だ。この曲のリフレインの出だしで「オー、シンク・トゥワイス」と歌っている部分が耳から離れない。この曲の歌詞は、年老いたホームレスの女性が道行く男性に「どこかよい寝場所を教えてくれないか」と声をかけるのに、無視して行ってしまうという一瞬の光景がうたわれているのだが、この男性と女性が入れ替わっていたら、これほどの名曲と呼ばれなかったと言われている。
人間にできることには限界がある、なにか現状から抜け出すきっかけを彼女に与えたまえ、と主に願うという内容はともかくとして、光と影の明暗が強すぎて直視できない光景に眩暈がする思いだ。目をそらさず、何か自分にできないか、考えることがまず大事なのに。そう、考えなければ何も始まらないのに。
そう言いながら実のところ、自分はじっくり考えることが苦手だ。何手も先を読まなければいけない囲碁や将棋ですらも苦手というか嫌いだ。負けず嫌いだからという要因もあるが、ゲーム的なことは一切やらない。大体考え事をする余裕もないと言いたいところなのだが、ゆっくり考えられるのは車を運転しているときくらいのものだ。
そうすると、ドライバーズ・シンキングとよく言われるところの、ぶつ切りの思考しか身につかない。様々な外的要因に敏感に反応しながら安全に運転するには、思考は中断せざるを得ない。ぶつ切り思考の結果は、パラノイア的な傾向も示すが、同時平行的な考えがある時突然関連付けられて、目から鱗が落ちるような面白い感覚を楽しむこともたまにはできる。これは、曲の前半ではベースラインだったフレーズを、後半になってリード楽器が奏でた瞬間の、「おっ!」と感じるあの感覚に似ている。…ご理解いただくのは無理そうだ。
結局のところ、みなが自分なりに考えて暮らせば、経済問題や環境問題だって悪化の一途をたどることもないだろう。まあそこまで大上段に構えなくとも、昔ながらの快適な暮らしができるのではないかとは思う。それにしても最近では、ライフスタイルと言う文字を見ると、条件反射的に「シンク・トゥワイス」と言っているようで、どうもいけない。…この文章もライフスタイルの提案になるのかな?うーん、考えられない。
■2026年の独り言■
ライフスタイルの提案に関して、何か嫌なおもいでもしましたかねぇ…。ワークライフバランスとかクソみたいなことを言い始めた頃ですかね。日本の国力が衰退する原因ですね。
そうなんです、こんな頃から清澄白河辺りをうろついて、中小企業や伝統工芸関連の方々のIT化支援などということをやっておりまして、この町が気に入っていたわけなんです。コーヒーの町とか言われ始める何年も前からね…。
