下町音楽夜話 Reloaded 507「7インチ・シングルの効能」
■■■本稿は下町音楽夜話507「7インチ・シングルの効能」(2012年3月10日)に加筆修正したものです■■■
CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル)のシングル・ボックスを、以前勢いで買ってしまったことがある。本心では無駄遣いだなと思いつつも、妙に魅力的に感じられた商品で、実は今更ながらに愛着も沸いてきた。下町音楽夜話、第370曲でもご紹介しているが、東陽町のダウンタウン・レコードで7インチ・シングルを3枚ほど入手して、懐かしくなってしまい、しばらくCCR漬けになっていたのだ。同じ頃に、全オリジナル・アルバムを箱に詰めたリマスタリングCD7枚組が猛烈な安価で発売され、そちらも購入してiTunes に取り込みしばし楽しんだのだが、聴きながら眺めるのはシングル・ボックスのほうだったのだ。何せ自分を洋楽の世界に引きずり込んでくれた共犯者連中である。
彼らの活動期間は3年と短かったが、タイミングよくその最後のほうで洋楽世界のドアを押し開いてしまったのだ。もちろん小学校高学年の子どもだったので、ヒット・チャートものの番組をAMラジオで聴くといったスタイルだ。隔世の感というか、今の子どもたちには理解できるわけもない環境だった。
それでも、ジョン・フォガティの声はよく通り、少々ノイズが混じっていても、十分に曲を楽しむことができた。これも既に書いたことだが、世間一般では「プラウド・メアリー」か「雨を見たかい(ハヴ・ユー・エヴァー・シーン・ア・レイン)」が代表曲となろう。しかし、自分の洋楽好きを決定的にしてくれたのは、最後のヒット曲「サムデイ・ネヴァー・カムズ」だった。この曲で、どれだけ想像力を掻き立てられ、まだ見ぬ世界、海の向こうにある大きな世界に憧れを抱いたものか。すっかりボーダーレスな世界になってしまった現在、あの頃の情報の少なさが理解できるはずもないのだが、その情報の少なさ故に音楽というものが与えてくれる情報と、そこから喚起される想像力というものが、桁違いに大きかったように思うのは身贔屓だろうか。
最近ではゲームの世界が若者や子どもたちの想像力を掻き立ててくれる代表的アイテムだろう。ヴァーチャルな世界で遊ぶこともきっと楽しいだろうし、十分に想像力を鍛えてくれそうだ。しかし、ヴィジュアル的にこれでもかというほど情報が与えられることに比べると、我々が子どもの頃は想像力を鍛えないと遊ぶことすらままならなかった。もっと言えば、超ローカルなまま大人になってしまう危険すらあった。もっと昔の人は、それで一生を終えてしまうことも可能だったのだろうが、我々の世代は情報がある程度与えられ、しかも国内の経済は右肩上がりで明るい未来ばかり想像させられる環境におかれていたのだ。それこそ、情報に飢えていたように思う。月刊誌などがカルチャー、サブカルチャーの中心的な情報源だったが、一冊買えばそれこそ隅から隅まで読みつくし、情報を吸収しまくった。ぴあなどのリアルな情報誌も本当に大活躍してくれたのだ。
結局今の時代に7インチ盤を買うという行為は、懐古趣味以外の何者でもないのだが、そういう行為に浸れる自分という人間を客観的に見て、「バカだなあ」と憐憫の情を抱きつつ、それでも自分が店でも持てたらワーリッツァーのジュークボックスでも置いて、中にはお気に入りのドーナツ盤をセットして…、などといったことを夢想して楽しんだりもする。結局そんな夢を見ることすら理解できそうもない世の中になってしまったのだ。
PCにアクティヴ・スピーカーを接続して、iTunes なりのソフトウェアでランダムにプレーすればすむことかもしれないが、わざわざ不自由な思いをして、ローテクなロボットアームが盤を取りに行く様子を眺めていたりすることのほうが楽しいと思ってしまうのだから、もう完全に時代からは置いていかれているのだろう。しかしそのプリミティヴな仕掛けが十分に機能することがまた微笑ましくもあり、楽しく思えてしまうのだ。さて、どれだけの読者の方にご理解、共感をいただけるものだろうか。
時計のように、正確無比ながらつまらないデジタルものに対して、高度な技術に裏打ちされた高級アナログ製品の魅力というものも存在することは説明するまでもあるまい。手軽でしかも全くノイズのないデジタル・オーディオの世界に対して、アナログ・オーディオは手間ひまかけないと決して良い音では鳴ってくれないし、レコードはちょっとしたことでもキズがついてしまう。キズは当然ながらノイズに繋がり、修復はほぼ不可能である。そんな面倒くさいもののどこがいいのかと言われそうだが、自分の場合、やはり未だにアナログの方が良い音で鳴ると思っているし、味わい深さが桁違いだとすら思っている。
デジタルしか知らないということと、手軽に聴きたいときはデジタルで、腰を落ち着けてじっくり聴きたいときはアナログで、などといった選択肢を持っていることとを比較したら、どちらが豊かな世界か、どちらが楽しいか、といったことに対する答えは自ずと見えてくるではないか。そんなときにあえてアナログで聴きたいと思うのは、やはり極限までシンプルさを突き詰めたCCRのシングル・ヒットだったりする。それにしても、スカスカな演奏なのに何という完成度なのだろう。プリミティヴな演奏も、ここまで潔いと、かえって魅力的に響くようだ。
■2026年の独り言■
そもそもチープなAMラジオにかじりついて聴いた音楽は、いつどんな環境でも楽しめるんですよね…。
