株式がブロックチェーンに乗る日——SECのイノベーション免除が意味する「金融の次のOS」
BREAKING: The SEC is set to release its so-called "innovation exemption" for tokenized stocks which will pave the path for trading digital versions of securities, per Bloomberg.
— The Kobeissi Letter (@KobeissiLetter) May 18, 2026
Details include:
1. In a "surprise move," the SEC is leaning toward allowing the trading of…
1. 2026年5月18日、何が起きたのか
2026年5月18日、米国証券取引委員会(SEC)が「イノベーション免除(Innovation Exemption)」を発表した。
一言で言うと、株式のブロックチェーン版——トークン化株式——を、暗号資産プラットフォーム上で取引できるようにする規制の枠組みだ。
これはSECのポール・アトキンス委員長が主導する「Project Crypto」の一環だ。NasdaqとNYSEはすでに2026年3月・4月にトークン化取引の承認を受けており、今回の免除はさらに広い範囲——暗号資産ネイティブなプラットフォームやDeFi(分散型金融)——への解放を意味する。
実験期間は12〜36ヶ月。その間、フルの証券会社登録なしにトークン化株式を扱えるようにする。DTCCは7月から限定的な本番取引を開始し、10月に本格展開する予定だ。
「アップルやテスラの株をDeFiプロトコル上で24時間取引できる。ブローカーも不要、決済もほぼ瞬時」——これがアトキンス委員長が語った未来の姿だ。
2. トークン化株式とは何か
従来の株式取引はこういう仕組みだ。証券会社に口座を開く→証券取引所を通じて売買→DTC(預託機関)が実際の株の保管・決済を担う。この仕組みは月曜〜金曜、市場が開いている時間しか動かない。決済にはT+1(翌営業日)かかる。
トークン化株式は、この株式の「所有権」や「価格への連動権」をブロックチェーン上のトークンとして表現する。利点は大きい。24時間365日取引できる、決済がほぼ瞬時になる、端数(0.001株など)で買える、世界中から参加できる。
見た目は「便利になった株式投資」だ。
しかし、ここで立ち止まる必要がある。
3. なぜ今なのか——Project Cryptoの正体
トランプ政権は2025年初頭から一貫して、ブロックチェーン技術を既存の証券市場に統合する政策を推進してきた。
2026年3月にはSECとCFTCが共同で「トークン分類基準」を発表し、デジタル資産を5つのカテゴリに分類した。ビットコイン・イーサリアム・ソラナはデジタルコモディティ(証券規制の対象外)、ステーブルコインはGENIUS法の対象、そしてトークン化株式は「デジタル証券」として唯一SECの完全監督下に置かれる。
なぜこのタイミングか。
理由は複数ある。まず、トークン化資産市場はすでに急拡大しており、2026年5月17日時点でオンチェーン上の資産は340億ドルに達している。ブラックロックのBUILDファンド、アムンディのSAFOファンド(3週間で4億ドルを調達)、Legal & Generalが5兆円相当をオンチェーン化するなど、機関投資家がすでに動いている。
政府としては、この流れを無秩序に放置するより、枠組みを作って管理下に置く方が都合がいい。
そしてもう一つの理由——後述する「The Great Taking」の文脈で考えると、より深い意図が見えてくる。
4. 「便利さ」の裏に潜むThe Great Taking
『The Great Taking(大いなる没収)』の著者デビッド・ウェッブは、現代の証券システムに根本的な問題があると指摘する。
米国のUCC(統一商法典)第8条の下では、証券会社や銀行に預けた株式・債券は、法的には「自分のものではない」。投資家は「エンタイトルメント(受取権)」を持つに過ぎず、銀行が破綻した際には、担保として巨大銀行の債権者に優先的に取られる仕組みが整備されている。
これはアメリカだけでなく、ヨーロッパ・日本・インドネシア・中国にも同様の法的枠組みが整備されつつある。
トークン化株式はこの問題をさらに複雑にする可能性がある。
「トークンを持っている」と「株式の所有権を持っている」は、法的に同じではない可能性がある。実際、今回のSECの発表でも「トークン化株式は株価を反映するが、配当や議決権などの株主権利を必ずしも含まない」という指摘がある。
つまり「株を持っているような体験」はできるが、本当の意味での株主権利がない可能性がある——これがトークン化株式の最大のリスクだ。
デジタル化は「管理のしやすさ」を権力側にもたらす。全取引がブロックチェーン上に記録され、誰が何を持っているかが完全に把握される。CBDCとの組み合わせで「特定の資産の凍結」が技術的に瞬時に可能になる。
5. 株主権利はどこへ行くのか
今回の発表で見落とされがちな重要な点がある。
SECはプラットフォームが「配当や議決権を省略した場合の規制」を検討中とされているが、現時点では義務化されていない。つまり、プラットフォームによっては「株価だけ追えるが、株主として何も言えない」トークンが流通する可能性がある。
従来の株式投資では、株主は会社の意思決定に参加できる。配当を受け取れる。会社が清算された場合に残余財産の分配を受けられる。
トークン化株式では、これらが保証されない可能性がある。
「株式のコスプレをしたデリバティブ」と呼ぶ批判者もいる。価格の動きを追えるだけで、実質的な所有権を持たない金融商品が大量に出回るリスクがある。
6. WLFIとオンド・ファイナンスとの繋がり
トランプ一家が関わる暗号資産プロジェクト「WLFI(World Liberty Financial)」は、トークン化された現実資産(RWA)の発行プラットフォームであるオンド・ファイナンス(ONDO)と戦略的提携を結んでいる。
今回のSECのイノベーション免除は、こうしたプラットフォームに「合法的に株式のトークン化を扱う」道を開くものだ。
「ネオコン・グローバリスト型のCBDC監視システム」と、「トランプ・クシュナー型の実物資産ベースの新デジタル通貨」という二つの路線の対立——その一端が、今回のSECの動きとして現れていると読むこともできる。
どちらが勝つにせよ、金融システムのデジタル化は不可逆的に進む。問題は「誰がそのシステムを設計するか」だ。
7. 日本への影響——ゆうちょとProgmatの動き
日本も無関係ではない。
三菱UFJ信託銀行から独立したProgmat(プログマ)は、300社以上が参加するコンソーシアムのもとで、円建てステーブルコインとトークン化金融商品の実装を進めている。運用残高はすでに1,580億円を超えた。
ゆうちょ銀行は2026年10月にトークン化預金の導入を予定している。ゆうちょの顧客数は約1億2,000万人——実質的に日本国民の大部分がこのシステムに組み込まれることになる。
SECのイノベーション免除が米国で定着すれば、日本の金融当局も同様の動きを加速させる可能性が高い。グローバルな金融システムのデジタル化は、日本だけが例外ではいられない。
8. 現物資産を持つ意味が、ここでも問われる
金融のデジタル化が進むほど、「デジタル上の権利」と「現物の資産」の差が重要になる。
トークン化株式は、株式の「デジタル上の権利」を表現する。しかしそのシステムが止まれば、権利ごと消える可能性がある。プラットフォームが破綻すれば、法的な所有権が曖昧になる可能性がある。
一方で手元にある金の延べ棒、銀の地金コイン、テトラドラクマのアンティークコインは、システムが止まっても消えない。2,400年前のアテナのフクロウも、今日も手の中にある。
J.P.モルガンの言葉を借りれば「金はマネーであり、それ以外はすべてクレジット(信用)だ」。
トークン化株式は、その「信用」をさらに複雑な形で積み重ねたものだ。
便利さと引き換えに、何を手放しているのか——SECの発表を眺めながら、そう問い続けることが必要だ。
参考:Bloomberg Law「SEC to Ready Plan for Trading Crypto Versions of Stocks」(2026年5月18日)、KuCoin News「SEC to Release Tokenized Stock Innovation Exemption by May 18, 2026」、CoinDesk「SEC to Propose Tokenized Stock Framework」(2026年5月18日)、Spaziocrypto「SEC Innovation Exemption: Tokenized Securities」(2026年4月)、David Webb「The Great Taking」(2023年)、Progmat公式発表資料(2026年)

