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月をうむ 3

第三話 キノコ料理店

 ヒカリはこびとたちといっしょにこびとの村にやってきました。

 こびとたちの背の高さはヒカリの半分ぐらいなので、二階建ての大きな家もヒカリの世界では一階建てと同じぐらいしかありません。ヒカリの目の高さからは、トタン屋根に反射する月の光がよく見えます。

 赤、青、みどりにオレンジといった色鮮やかなトタンの屋根にワニスでつやを出すように、月の光がとろとろと空から流れ落ちてきます。

 屋根の反射と玄関を照らすスズランランプのほのかな光で、こびとの村全体が、闇にぼんやりと青白く、浮かび上がるようでした。

 ヒカリは、こびと夫妻に案内されてきのこ料理店の中に入りました。
 たくさんのこびとたちが食事をとる店なので、ほかの家よりも広々としています。
 それでもヒカリには入り口はせまく、天井に頭がつきそうです。気をつけないと、料理店の大テーブルをとりかこむ小さなこびとのいすさえも、けりちらかしてしまいそうでした。
 ヒカリは木の板の床をきしませながら、そーっと気をつけて歩きました。

「さあさあ、ごはんにしようかね」

 太ったこびとの奥さんは、にこにこ笑って言いました。

 まっくら森はいつも夜なので、今は何時かわかりませんが、こびと夫妻は今日で二回目の食事をとろうとしています。ヒカリの世界ではお昼ごはんです。

 月の出ている明るい時間が、こびとたちの起きている時間です。
 ヒカリの世界の太陽とちがい、月はいつも同じ形で同じように昇るというわけではありません。こびとたちは月の満ち欠けで日を数え、砂時計で時刻を知りました。

 きのこ料理店で一番大きな窓の窓台にも大小様々の砂時計がずらりと並んでいます。

「早くしないとお客さんがきちまうよ」

 一番小さな砂時計の砂が残り少なくなるのを気にしながら、奥さんがせかせかと動きます。

 厨房からはおいしそうなシチューのにおいがしてきました。

 だんなさんに呼ばれて厨房に行った奥さんを手伝って、ヒカリはシチューを盛りつけた皿とパンとチーズを盛ったかごをテーブルに運びました。

 こびとの皿はヒカリには少し小さいので、だんなさんはシチューの鍋ごとヒカリの前に置き、スプーンがわりのお玉を渡して、ヒカリに食事をすすめました。

「さあ、お食べ、おいしいきのこのシチューだよ」

 ヒカリは、ふうふうと息を吹きかけながら、熱いシチューを口にします。 
 きのこのシチューというよりもこってりとしたビーフシチューの味がしました。

「これ、きのこって感じがしないわ。本当にきのこが入っているの?」

 ヒカリが言うと、だんなさんは自信を持ってうなずきます。

「入っているとも。牛キノコがたっぷりとね」

「牛キノコ? なあに、それ?」

「牛の体からはえてくるキノコさ。放っておくと牛の体のあちこちにびっしりと生えてしまうんだ。食べるとおいしいキノコだから、ときどき採らせてもらうんだ。牛にはじゃまなだけのキノコだし、おたがい助かるというわけさ」

 だんなさんはヒカリの質問に喜んで答えました。
 色々なキノコのことを知っているだんなさんは、キノコについて聞かれると、うれしくてたまらないようです。

「牛からはえるキノコなんて、なんだかきもち悪いわ」

 ヒカリは思わずお玉を置いて顔をしかめます。ヒカリの世界のキノコは牛から生えたりはしません。

 そんなヒカリを見て、だんなさんは不思議そうな顔をします。

「おまえの世界に牛キノコはないのかい? 牛乳は? チーズやヨーグルトもないっていうのかい?」

 だんなさんは、興味津々に尋ねます。

 ヒカリは戸惑いながら答えます。

「牛乳は飲むわ。ヨーグルトも好きだし、チーズも食べる」

 そう言いながら、ヒカリはチーズをパンにはさんでかじりつきました。

 だんなさんは少し考え込んだ表情でさらに言葉をつづけます。

「そのチーズだって牛や羊の乳から作られているんだよ。牛キノコやブタキノコと何がちがうっていうんだい?」

「ブタキノコなんていうのもあるのね」

 ヒカリは、ブタキノコも想像しながら言いましたが、やはり少し気持ちが悪い気がします。

「牛キノコやブタキノコはステーキやソテーにするとおいしいんだ。うちの人気メニューだよ」

「このキノコは私の世界のお肉と似たようなものなのね」

 ヒカリは大好きなハンバーグやソーセージのことを思い出しました。それが何でできているかなど考えたことはありません。

 ヒカリは再びお玉を手にとって、シチューを口に運びました。やはりキノコというよりはビーフシチューです。

「ほらほら、これもお食べよ」

 厨房から、こびとの奥さんがさらに一品の料理を運んできました。

「にわとりキノコのから揚げだよ」

 それはにわとりから生えたキノコをカリッと揚げたもので、ヒカリが予想したとおり、フライドチキンの味がしました。

 ヒカリはビーフシチューやフライドチキンが大好きでした。キノコでも何でも、自分の好物であれば、うれしい気持ちになります。

「ああ、おいしかった」

 ヒカリはこびと夫妻に出された料理をすっかりたいらげました。

 こびとの奥さんはてきぱきと皿を片づけると、店を開ける準備にとりかかります。キノコ料理店の一日はまさにいまからはじまるのです。

 ヒカリが住む世界でいうと、昼食、夕食、夜食となる食事をするために、お客さんたちがやってきました。

 ヒカリは注文をとり、できあがった料理を運びました。

 こびとの奥さんはヒカリの倍の働きで、忙しく店内を動きまわりますが、ヒカリは手を伸ばせばすぐにテーブルに届き、空いた皿も一度にたくさん片づけることができました。

 キノコ料理店はとても繁盛していて、店を閉める頃には、ヒカリはすっかりつかれていました。

「おつかれさま。よく働いてくれたね。お茶でも飲んでひと息つこう」

 ヒカリはだんなさんが入れてくれた「夜花のお茶」を飲みました。どこか涼やかな不思議な花の香りがします。
 夜に咲く花は、神経を落ち着かせる作用があるそうです。
 ヒカリは体の中に静けさが広がるのを感じながら、ほっとひといきつきました。

 その日の三食目の食事はキノコとチーズのグラタンでした。
 こびと夫妻の作る料理はどれもとてもおいしくて、ヒカリは大満足でした。

 まるで夢の中のごちそうです。

 グラタンの湯気の向こうのこびと夫妻の笑顔さえ、ヒカリにとってはまぼろしのようにはかなく見えました。

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