稼働率7割で赤字圏、8割で健全──"人の稼働"が利益を食う
〈前回:最も効率的な案件は、既存クライアントの中から生まれる〉
ディレクターの3つの仕事、二つ目は「利益を作る」だ。ディレクターが背負うのは、売上ではなく利益だ。そして利益を圧迫する最大の要因が、人の稼働コストになる。
利益率の管理──「人の稼働」がコストである
コンサルは労働集約産業だ。工場も在庫もない。売っているのは人の時間と頭脳であり、コストの大半も人件費だ。だから利益は、突き詰めれば「人の稼働率」と「単価」で決まる。ここで、経営者視点の数字の感覚を掴んでおこう。あくまで領域やファームによって幅があるが、イメージとして。
稼働率。コンサルタント一人が、稼働時間のうちどれだけを、金を生む案件に使えているか。ここが損益分岐の生命線になる。一般に、稼働率が7割を切ると赤字圏、8割前後で健全、と語られることが多い。アサインされず遊んでいるメンバー、業務委託の空き時間──これらは全てコストとして利益を削る。稼働率が1割違うだけで、部門の利益は大きく動く。
単価。人月単価は、メンバーのランクによって階段状に上がる。ジュニアからマネージャー、ディレクターへと、単価は数倍のレンジで開いていく。同じ稼働率でも、誰をアサインするかで、生む利益が変わる。
プロジェクト粗利率。個別案件で、売上から人件費等の直接コストを引いた粗利が、どれだけ残るか。ここに一定の率(たとえば3〜5割といったレンジ)を確保できているかを、案件ごとに見る。
数字で体感する──稼働率1割の重み
なぜ稼働率にそこまで神経質になるのか、簡単な計算で体感してほしい。
メンバー10人の部門を考える。一人あたりの人件費等コストが月100万円、案件にアサインされていれば月150万円の売上を生むとしよう。全員がフル稼働なら、売上1,500万円、コスト1,000万円で、粗利500万円。
ここで稼働率が9割に落ちると──つまり一人が遊ぶと──売上は1,350万円に減るが、コストは1,000万円のまま動かない。粗利は350万円。稼働率が1割落ちただけで、利益は3割減った。
これが労働集約ビジネスの構造だ。コストは固定で、売上だけが稼働率に連動する。だから稼働率の低下は、そのまま利益を直撃する。7割まで落ちれば、売上1,050万円でコスト1,000万円──ほぼ利益が消える。「7割で赤字圏」は、脅しではなく算数だ。
ディレクターは、案件と人のマッチングを最適化し、稼働率を上げ、単価と粗利のバランスを取り、利益率を作る。これは、個々のPMには見えていない「面」の管理だ。
ここで、コンサルタント編の「アサインされないと始まらない」が、利益の観点から裏返って見える。メンバーがアサインされないことは、本人にとっては成長の機会損失であり、会社にとっては稼働率の低下=コストだ。ディレクターは、両方の理由で、メンバーを遊ばせない設計をする。人材育成と利益管理が、ここで一つに繋がる。
ただし、稼働率100%は目指さない
では稼働率は高ければ高いほどいいのか。違う。100%は、むしろ危険水域だ。
全員がフル稼働の組織には、余白がない。急な追加依頼に応えられず、クロスセルの好機を逃す。提案書を書く人間がおらず、次の案件を仕込めない。研修も振り返りもできず、人が育たない。そして誰か一人が倒れた瞬間に、複数案件が連鎖的に燃える。
目指すのは、8〜9割の健全な稼働に、意図的な余白を残した状態だ。余白は怠けではなく、次の売上と組織の回復力への投資である。ディレクターの仕事は、稼働率を「最大化」することではなく、「最適化」することだ。
ポートフォリオ管理と、撤退・損切り
複数案件を「面」で見るディレクターは、案件ポートフォリオを管理する。伸ばすべき案件にリソースを寄せ、儲からない案件・消耗する案件は、撤退・損切りを判断する。
「受けた案件は最後までやり切る」のは、PMの美徳だ。だがディレクターは、時に「この案件は切る」を決めなければならない。粗利率が低く、しかもメンバーを消耗させる案件を、情で続けることは、ポートフォリオ全体の利益と、メンバーの健全さ、両方を蝕む。
判断基準はシンプルだ。その案件は、利益を生んでいるか。人を育てているか。次の案件につながっているか。この3つのどれにも当てはまらない案件は、切る候補になる。
切ると決めたら、切り方にも技術が要る。契約更新のタイミングで、体制縮小から段階的に降りる。後任や代替手段を提案して、クライアントの信頼を損なわずに出口へ向かう。損切りは、逃げ方が汚いと市場での評判を落とす。静かに、筋を通して、降りる。冷徹な損切りの判断は、PMには求められない、ディレクター固有の仕事だ。
値上げという、もう一つの利益レバー
損切りの前に、検討すべき選択肢がもう一つある。値上げだ。
粗利率の低い案件は、「切る」か「続ける」の二択に見えるが、実際には「条件を変えて続ける」という第三の道がある。契約更新のタイミングで、単価の改定を打診する。根拠は、稼働の中で積んだ実績と、代替コストだ。こちらを切って新しいファームを入れれば、クライアントは関係構築とキャッチアップのコストをゼロから払い直すことになる。その切り替えコストが、値上げ幅より大きければ、交渉は成立する。
言い方はこうだ。「来期も現体制で最大の成果を出したいと考えています。一方で、現行の条件では、優秀なメンバーをこの案件に留め続けることが難しくなってきました。単価を見直させていただく代わりに、来期はこの成果までコミットします」──値上げを、成果へのコミットとセットで出す。
値上げが通れば、損切り候補だった案件が、優良案件に化けることがある。切るのは、この交渉が不調に終わってからでも遅くない。
PM時代の「良い人」が、ここで試される
利益の管理は、突き詰めると、断る・切る・値上げする──嫌われる可能性のある判断の連続だ。
PM時代に「良い人」で通ってきた人ほど、ここでつまずく。メンバーを遊ばせないためのアサイン変更は、本人の希望と衝突することがある。損切りは、現場で頑張ってきたPMの努力を打ち切ることでもある。全員に好かれたまま、利益は作れない。
だが、思い出してほしい。ここで下す冷徹に見える判断は、部門が赤字になれば全員が苦しむという未来から、組織を守るための判断だ。目の前の一人に優しくするために、組織全体を危険に晒すのは、優しさではない。視座の高い優しさとは何か──それが利益管理の本質的な問いだ。
今回のまとめ
・利益は「稼働率×単価」で決まる。稼働率は7割で赤字圏・8割で健全が目安。コストが固定な分、稼働率1割の低下が利益を3割削る──これは算数だ。
・単価はランクで階段状に上がる。誰をアサインするかで生む利益が変わる。プロジェクト粗利率も案件ごとに監視する。
・ただし100%稼働は危険水域。8〜9割+意図的な余白が最適。余白は次の売上と回復力への投資。
・メンバーを遊ばせないことは、本人の成長と会社の稼働率、両方に効く。育成と利益管理は繋がっている。
・損切りの基準:「利益を生む/人を育てる/次につながる」のどれにも当てはまらない案件は切る候補。切り方は静かに、筋を通して。
・切る前に「値上げして続ける」第三の道を検討する。値上げは成果へのコミットとセットで出す。
・利益管理は嫌われうる判断の連続。目の前の一人への優しさと、組織全体を守る優しさを、取り違えない。
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