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レコード棚を総浚い #106:『Genesis / A Trick Of The Tail』

ジェネシス『A Trick Of The Tail』評:ピーター・ゲイブリエル脱退が生んだプログレの構造変革

概要と背景:フロントマン喪失の危機と4人体制への移行

1975年、ジェネシス(Genesis)は絶対的なフロントマンであり、バンドの「顔」であったピーター・ゲイブリエル(Peter Gabriel)の脱退という最大の危機に直面した。演劇的なステージパフォーマンスと不可解な世界観を牽引していた中心人物の離脱は、一般的にバンドの終焉を予感させるに十分な出来事であった。

しかし、残された4人のメンバー――フィル・コリンズ(Phil Collins)、トニー・バンクス(Tony Banks)、マイク・ラザフォード(Mike Rutherford)、スティーヴ・ハケット(Steve Hackett)――は解散を選ばず、新たなアプローチでの楽曲制作を開始する。

数十人に及ぶシンガーのオーディションを経た結果、最終的にドラマーであるフィル・コリンズがリードヴォーカルを兼任する形で完成させたアルバムが、1976年発表の『A Trick Of The Tail(邦題:トリック・オブ・ザ・テール)』である。本作は結果として商業的成功を収め、新生ジェネシスの起点となった。

音楽的特徴:アンサンブルの前面化とポップ・センスの融和

本作の音楽的特徴は、ゲイブリエル在籍時の「視覚的・物語的プログレッシブ・ロック」から、「純粋な音楽的アンサンブルと叙情性を重視したシンフォニック・ロック」へのシフトにある。

ビート感の強調とドラミングの進化

フィル・コリンズのヴォーカルは、ゲイブリエル特有の演劇的なダミ声や緊迫感とは異なり、よりマイルドで旋律に馴染みやすい質感を持っていた。さらに、彼の正確無比で推進力のあるドラミングが、複雑な変拍子の中にも明快なグルーヴ(ビート感)をもたらしている。

各メンバーの音楽的自立

フロントマンという強力な個性の呪縛から解放されたことで、バンド内の民主的なアンサンブルが活性化した。本作のレコーディングと並行して、スティーヴ・ハケットが初のソロ・アルバムを制作し、フィル・コリンズがジャズ・ロック・プロジェクト「ブランドX(Brand X)」へ関与するなど、メンバー個々の音楽的ポテンシャルが本作の複雑かつ緻密なアレンジに還元されている。

巧みなポップ・センスの導入

難解なトピックや構築美は維持しつつも、メロディのキャッチーさが向上している。これは後の80年代における世界的ポップ・バンド化への布石とも言える、構造的な変化であった。
<続く>

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