今日、好きになった結果〈日本神話から見る日本の成り立ち⑤〉
⚠️当記事には過激な表現、不快に感じる表現があります。食事中の閲覧はおすすめしません。ご注意ください。
この記事は『漢!漢!漢が燃える!〈日本神話から見る日本の成り立ち④〉』の続きとなります。
まだご覧になっていない方は、先にこちらを閲覧していただけると幸いです。
1.ニニギノミコト
アマテラスの孫、邇邇芸命(ニニギノミコト)。彼は天孫降臨において非常に重要な立場にありました。

アマテラス「ニニギ、お前にこの三種の神器を授けます。天叢雲剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉ーーこれを私と思い、常に統治者として励むように。私もまたお前の行く末を見守っています。」
ニニギノミコト「ありがとうございます。アマテラス様。このニニギ、必ずや使命を果たして見せましょう。」
アマテラス「オモイカネ、タヂカラオ、アマノイワトワケ。ニニギのことを頼みましたよ。」
オモイカネ「はぁ。」
アマテラス「何?何か文句あるの?」
アマノイワトワケ「そりゃ文句の一つや二つ、あるでしょう。俺はそんな文句の一つから生み出されたわけですから。」
三種の神器と共に、八意思兼神(ヤゴコロオモイカネノカミ)、天手力雄神(アメノタヂカラオノカミ)、天石戸別神(アマノイワトワケノカミ)の三人が副えられたと言われています。
ニニギに同行することになった神々の大半が天岩戸事件に関わった神々でしたが、このうち、アマノイワトワケに関してはこの時初めて名前が出てきた神でした。門を守護する神であるとされていますが、その名前から天岩戸を神格化とした存在だと主張する人もいます。
アマノイワトワケ「自分がいなくてもアマテラス様が上手くやれるか、そこが心配なんじゃないですか?」
オモイカネ「……聞くな。」
ニニギノミコト「ははっ、きっとそれ以上ですよ。アマノイワトワケさん。オモイカネさんはいつも俺達の何千、何万倍以上も先を見通しているのですから。」
アマテラス「べ、別にちゃんとやれるし!」
オモイカネ「……あなただけではないですよ。アマテラス様。」
タヂカラオ「あ、これ多分アマノイワトワケさんとニニギ様も対象っすよ。」
ニニギノミコト「え?俺?」
アマノイワトワケ「ああ……ったく、薄々そんなんじゃねえかと思ったよ。さすがタヂカラオは父親(オモイカネ)のことをよく分かってんな。」
タヂカラオ「いや、多分自分も対象っす。予想が当たる前に動いても、あの手この手でやり口を変えて予想通りに沼に落ちるから頭おかしくなりそうっていつも愚痴ってるんで。」
アマテラス・ニニギ・アマノイワトワケ「すんません……(小声)」
ニニギノミコトの降臨には他にも、五人の神が随伴することが決まっておりーー
・天児屋命(アメノコヤネノミコト)
天岩戸事件の際に、岩戸の前で祝詞を読んだ神。岩戸から顔を出したアマテラスの前に鏡を出したと言われている。
・布刀玉命(フトダマノミコト)
アメノコヤネと共に鏡を出したと言われている神。なお、当記事においては二人揃って出番が丸々カットされ、鏡を出す見せ場もアメノウズメに奪われた模様。
・天鈿女命(アメノウズメノミコト)
芸能の女神、天岩戸において世界最古のストリップと称された踊りを見せた女神。
・伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)
天岩戸事件に際して八咫鏡、及びその前身である日像鏡、日鉾鏡を鋳造したと言われている女神。
・玉祖命(タマノオヤノミコト)
天岩戸事件の際に八尺瓊勾玉を作り出したと言われている神。
以上の五柱の神々が随伴することも決まりました。
タケハヅチ「タヂカラオ殿、ウズメ姐さん、ニニギ様と一緒に地上に降りるって話、本当ですか?」
アメノウズメ「あらハヅチちゃん。ええ、本当よ♡」
タヂカラオ「ハヅチさんもこの間のアマツミカボシの件、お疲れっす。」
タケハヅチ「もう、褒めても何も出ませんよ。タヂカラオ殿。」
アメノウズメ「それにしても、まさか私が地上に行くなんて……ドキドキしてきたわ。」
タケハヅチ「ウズメ姐さんでも緊張するんですか?」
アメノウズメ「こう見えて意外と繊細なのよ、オトメだから♡」
ニニギノミコト「ウズメ殿!」
アメノウズメ「あら、そろそろ行かないと♡」
タヂカラオ「ゆっくり休むっすよ!ハヅチさん!」
タケハヅチ「お気をつけて~!!」
こうして、高天原から地上に向けて、ニニギノミコト達一行は動き出すことになりましたがーー
2.サルタヒコ
ニニギノミコト「な……なんだ?あれは……」
天の八衢(あめのはちまた)という、地上に続く道が八又に分かれた場所に差し掛かった時、一行は不思議な神に遭遇することになります。
長く伸びる鼻、八咫鏡のように輝く目、七尺にも及ぶ巨躯。そして鬼灯のように輝いて高天原から地上までを照らす有様は、神々の目から見ても異様なものでした。
ニニギノミコト「これは一体……」
オモイカネ「ふむ……一度戻り、アマテラス様に次第を報告する必要がありますな。」
と、一度この話を持ち帰ることにした一行。報告を聞いたアマテラスはーー
アマテラス「それなら、ウズメに任せてみたらいいんじゃない?」
アメノウズメ「あら♡私でいいの?人気者は辛いわね♡でも任せておいて♡」
そうしてアメノウズメを先頭に、一行は再び天の八衢へと向かいました。
アメノウズメ「もしも〜し♡そちらの神さ〜ん♡」
「おや、我輩に話しかけるものがいようとは。」
アメノウズメ「あなたは一体、どちらの神さんなのかしら〜?」
「我輩はサルタヒコ。国津神の一人である。天孫殿がお通りになるという話を聞いてな。」
アメノウズメ「らしいわよ♡ニニギ様♡」
ニニギノミコト「そうだったのか……ともすれば、感謝しなければ。」
サルタヒコ「ーー!!もしや、そちらにおわすのが……」
ニニギノミコト「はい、俺はニニギノミコトと言います。アマテラス様より地上を統治せよという命を受けて、ここに。」
サルタヒコ「この天の八衢の先は、雲が幾重にも重なり先が全く見えぬ道となっておりまする。天孫殿が道に迷い、誰の目にも付かぬところで霧散したとあらば我らにとって永遠の恥。このサルタヒコが先導役を勤めて進ぜよう。」
こうして、サルタヒコが一行に加わることになりました。

サルタヒコ「天孫殿、地上には我輩含め多くの国津神がおりまする。卿が行く道に詰まることあらば、総身を以て卿らを支えましょうぞ。」
ニニギノミコト「そうか……ありがとうございます、サルタヒコ殿。」
サルタヒコ「敬称はいりませぬぞ、卿は統治者として君臨されるのだ。腰を低くし過ぎてはいらぬ反発を招く虞がありましょう。」
ニニギノミコト「はは……これは手厳しい。」
アメノウズメ「愛の鞭というヤツね♡」
サルタヒコ「さりとて、必要なことにございますれば。」
ニニギノミコト「肝に銘じておくよ。」
そうしてサルタヒコの先導もあって、一行は無事に地上へ降り立つことが出来ました。
ニニギノミコト「ここは……山の上?」
タヂカラオ「おお!随分と見晴らしがいい所っすね!」
アマノイワトワケ「想像していたよりも自然が多い、高天原とはまた違ういい空気だな。」
サルタヒコ「ここは高千穂峰(たかちほみね)という所でございます。神々に平定され尽くした地上において数少ない、自然の気が強く息吹いている地にて。」
オモイカネ「そういうことか……タケミカヅチらが平定し、オオクニヌシが健在とはいえ、地上には未だ他の神々が存在している。迂闊に何某かの地に降り立てば、無駄な軋轢を生む可能性がある。」
サルタヒコ「左様。我輩が降臨せし地でも良かったが……」
アメノウズメ「そこはあくまで自分の場所、だからね♡」
サルタヒコ「ふふ、左様。我輩は平穏な暮らしを望む故、天孫殿が降臨したとあらば無用な耳目を受けよう。」
ニニギノミコト「ははっ!それは言えてるな!」
サルタヒコ「さあ、天孫殿。天逆鉾(あめのさかほこ)を。」
ニニギノミコト「ああ、分かった。」
ニニギノミコトは、高千穂峰の頂上に天逆鉾(あめのさかほこ)と呼ばれるものを突き立てました。これは天から地上に降臨した神としての証でした。

アメノウズメ「天逆鉾も知ってるなんて、随分詳しいのね。」
サルタヒコ「我輩も、故合って元は天にいたのでな。」
アメノウズメ「まあ。」
オモイカネ「………。」
ニニギノミコト「?」
サルタヒコの言葉に対して、アメノウズメとオモイカネの二人は表情を険しくしましたが、ニニギノミコトはその理由が分かりませんでした。
「ホォ、懐かしき神性を感じて来てみれば。」
そこに、一人の老人が姿を現しました。
サルタヒコ「おお、これは好々爺殿。」
「その呼び方はやめよと言っておろう。」
ニニギノミコト「こちらの方は?」
サルタヒコ「シオツチノオジという、見ての通り、ただのご老体にございまする。」
シオツチノオジ「誰がただの老体じゃ、万物を導く老体と言わんかい。」
塩土老翁(シオツチノオジ)と名乗る老人は、ニニギノミコトの顔をまじまじと眺めてきました。
ニニギノミコト「あの……俺の顔に、何か?」
シオツチノオジ「フム、さすがに曾孫ともなれば、面影も薄くなるというものか。」
サルタヒコ「この方はイザナギ様のご子息に在らせられる、天孫殿の顔に、御父君の面影を見出しているのでしょう。年甲斐も無くあどけないものだ。」
ニニギノミコト「え!?ということは、俺の……なんだろう。大大叔父?」
シオツチノオジ「ここで立ち話もアレだ、まずはここを下りて笠狭崎まで行き、そこで話しましょうぞ。」
サルタヒコ「ともすれば、我輩の役目はここまでですな。」
シオツチノオジ「そういうことじゃ。」
オモイカネ「ふむ、ということは、帰られるのか。」
サルタヒコ「ええ、伊勢国の五十鈴川に我が家がございまする。」
ニニギノミコト「そうか……いや、ありがとう。サルタヒコ。ウズメ殿、お礼に彼を送り届けてあげてほしい。」
アメノウズメ「あら?いいの?♡」
サルタヒコ「ほう、これはこれは、ウズメ殿のような美人を連れて歩かば、我輩はたちまち妬み嫉みを浴びてしまう。困った困った。」
アメノウズメ「もう♡冗談が上手なんだから♡」
サルタヒコ「天孫殿、どうかお忘れなきよう。」
ーー腰を低くし過ぎては、いらぬ反発を招く虞があるということを。
ニニギノミコト「……うん、分かった。」
サルタヒコ「では、参りましょうか。」
アメノウズメ「は~い♡」
そうして、サルタヒコはアメノウズメと共に伊勢国へと向かうことになりました。
アメノウズメ「サルタヒコさん、あなた、もしかしてだけど……あの時、いたの?」
サルタヒコ「……あの時も、オモイカネ殿とアメノウズメ殿、それとアメノコヤネ殿もおりましたな。違うのは、ツクヨミ殿とスクナヒコナ殿が先導役をしていたことぐらいだろうか。」
アメノウズメ「やっぱり……そんなことだろうと思ったわ。」
サルタヒコ「天孫殿は事の次第を何も知らぬ様子。よもや何も教えておらなんだか。」
アメノウズメ「オモイカネ殿にね、口止めされたのよ。」
サルタヒコ「……左様か。」
アメノウズメ「あんなに念を押していたんだもの、もしかして……」
サルタヒコ「天孫殿のーーあるいは天孫殿より後の子らの行く末が心配なのだ。」
天神殿と、いずれ衝突するやもしれぬーーとな。
サルタヒコ「だが、荒事ばかりで心休まらぬ世に我輩は疲れた。これ以上巻き込まれるのは勘弁でな、せめて天孫殿には荒事を避けて通っていただきたかったのだ。」
アメノウズメ「そうだったのね……。」
サルタヒコ「とはいえ、オモイカネ殿も好々爺殿もおる。かの御仁が揃っておれば、小さき面倒ごとは起ころうとも、世を揺るがすような大事が起きることはあるまい。」
猿田彦命(サルタヒコノミコト)は、高天原から地上を照らしたという部分から、アマテラスが顕現する以前に存在した太陽神と言われている他、天孫降臨の際に道案内をしたということから、道の神、旅人の神とも言われています。
天孫降臨の後、伊勢国(現在の三重県)の五十鈴川の上流にある自宅に戻り、そこでアメノウズメと夫婦となったと言われています。
現在でも伊勢国ーーもとい三重県では、夫婦岩で知られる二見興玉神社にて、サルタヒコの魂であり、神々が最初によりつく場所として知られる興玉神石が御神体として祀られており、暗礁となった今でも神事として石の藻を取るということが行われています。

天孫降臨からしばらくしてーーサルタヒコは、アメノウズメと共に静かに暮らしていました。
アメノウズメ「ーーとはいうけど、一回貝に手を挟まれて死にかけたじゃな~い♡」
サルタヒコ「あれは本当に参った。手を挟まれたもので海の底から浮かび上がれぬのだからな。」
アメノウズメ「でも、今でもこうして平和に暮らせているのだから、本当に安心ね。」
サルタヒコ「しかし、ウズメ殿とおるお陰で毎日が楽しいな。海で死にかけたことも、もう話の種に早変わりよ。」
アメノウズメ「もう♡サルちゃんったら♡」
そこに、シオツチノオジが姿を現しました。
シオツチノオジ「元気か、サルタヒコよ。」
サルタヒコ「おや、好々爺殿、随分久しいな。あれから元気にやっておられるか?」
シオツチノオジ「元気にやっとるよう見えるならば、ヌシの目は節穴よ。」
サルタヒコ「左様か、相すまぬな、節穴故陽気にしか見えなかった。」
シオツチノオジ「……天孫殿が、神性を失われた。」
サルタヒコ「……なんだと。」
それまでの陽気な空気から一転、サルタヒコは青ざめた表情でシオツチノオジを見ました。
サルタヒコ「何故、斯様なことになったのだ。」
シオツチノオジ「………。」
アメノウズメ「神性を失うって……まさか、呪いを受けたってこと?」
サルタヒコ「天孫殿が神ではなく人間となった。斯様なことを邪心抱えし者が聞けばどうなるか、分からぬわけではあるまい。」
シオツチノオジ「………。」
サルタヒコ「シオツチノオジ!」
シオツチノオジ「……始めは、ほんの些細なことじゃった。」
3.コノハナサクヤヒメ
話はニニギノミコトがシオツチノオジに導かれて笠狭崎まで行った時に戻る。
シオツチノオジ「おい、オオヤマツミや。」
シオツチノオジはそこで、ニニギノミコトに大山祇命(オオヤマツミノミコト)という国津神を紹介しました。

オオヤマツミ「おお!これは事勝国勝長狭神(ことかつくにかつながさのかみ)殿ではございませぬか!!」
シオツチノオジ「サルタヒコといい、ヌシといい、最近の若いモンは老人をからかうばかりで労りもせぬ、まとめて和邇の餌になってしまえ。」
オオヤマツミ「ダッハッハ!!それは親しみやすいご老体が悪うございましょう!!」
シオツチノオジ「まあ良い、オオヤマツミよ、こちら、天孫殿じゃ。」
ニニギノミコト「ニニギノミコトと言います。オオヤマツミ殿、よろしくお願いいたします。」
オオヤマツミ「おお!!貴公が天孫殿か!!お待ち申し上げておりました!!」
ニニギノミコト「はは……声が、大きいようで。」
オオヤマツミ「山の如く大きな体と声が取り柄でしてなぁ!!ダーッハッハッハッハ!!!!」
こうしてオオヤマツミに連れられたニニギノミコトでしたが、彼はそこでとある人物に出会いました。
「お父様?そちらの方は?」
一輪の百合の花のような、思わず息を呑むような美しさを誇る女性が姿を現したのです。
ニニギノミコト「ーーー。」
オオヤマツミ「おお!!サクヤか!!良い所に来た!!こちら天孫殿じゃ!!天孫殿!!こちら、我が娘のコノハナサクヤヒメです!!」
コノハナサクヤ「コノハナサクヤヒメと申します。どうかお見知りおきを。」
ニニギノミコト「ーー綺麗だ。」
ニニギノミコトは思わず呟きました。コノハナサクヤの美貌にすっかり釘付けになった彼は、彼の頬には淡い赤が差し込まれ、速まる鼓動が周囲に筒抜けになっていました。

コノハナサクヤ「ニニギ様、ですのね。」
ニニギノミコト「……はい。」
コノハナサクヤ「ふふ、面白い人。」
オオヤマツミ「ワシの自慢の娘の一人にございまする!!」
ニニギノミコト「ええ、お父君に似て、とても優しくて包容力のある方かと。」
コノハナサクヤ「まあ、一目見てそのようなことを?」
ニニギノミコト「いえ、今のは少し……はは、すみません、スカしてしまいました。」
コノハナサクヤ「……くすくす。」
オオヤマツミ「………。」
シオツチノオジ「何じゃ、呆然として、気味が悪い。」
オオヤマツミ「サクヤが、あ、あんな風に煌びやかに笑うとは……お、おお!おおおおお!!」
シオツチノオジ「ああ、耳栓。耳栓じゃ。コヤツは泣き声も喧しいのじゃ。」
コノハナサクヤ「まあ、お父上ったら。」
ニニギノミコト「ーーははっ。」
オモイカネ「………。」
ニニギノミコトとコノハナサクヤは会ったその瞬間から、急激に距離を縮めていきました。その様子を見てオモイカネは険しい表情を浮かべるばかりでした。
ニニギノミコト「ーーということなんだ。」
コノハナサクヤ「ええ何それ。あーー」
ニニギノミコト「え?」
コノハナサクヤ「申し訳ありません……はしたない話し方をしてしまい……」
ニニギノミコト「いや、自然体な感じがして、俺はいいと思ったけどな。」
コノハナサクヤ「そう、かな。うん……そうかも。」
オモイカネ「…………。」
オオヤマツミ「……感動した!!」
オモイカネ「っくりしたぁ。」
オオヤマツミ「よし!!決まりだ!!天孫殿さえ良ければサクヤと婚姻させよう!!すぐに!!」
オモイカネ「ーー!!お待ちくだされ。」
オオヤマツミ「おお!オモイカネ様!いつからそこに!?」
オモイカネ「さっきからここにおりましたが?」
オオヤマツミ「それで用件は!!」
オモイカネ「このままコノハナサクヤ殿のみを妻に送るのは、オオヤマツミ殿自身の沽券にかかわりまする。統治者とは複数の妻を持つもの、このような状況下において娘一人を差し出すようでは、オオヤマツミ殿の器を見られることになりましょう。」
オオヤマツミ「おお!確かに!」
オモイカネ「コノハナサクヤ殿の姉君であるイワナガヒメ殿も、ニニギ様のお側に置かれてはいかがでしょうか?無論、イワナガヒメ殿のお心次第ですが。」
オオヤマツミ「相分かった!!早速聞いてまいろう!!」
かくして、オオヤマツミの娘であるコノハナサクヤヒメとイワナガヒメの二人とニニギノミコトの婚姻の儀式が執り行われることになったのですがーー
オモイカネ「ヤバい、すごく嫌な予感がする。」
アマノイワトワケ「珍しいこともあるもんだ、落ち着きを無くしているオモイカネさんを見れるなんてな。」
オモイカネ「私の胃腸に十万ボルトが走ってる。」
アマノイワトワケ「胃腸に十万ボルト!!?」
タヂカラオ「あー、これヤバいっすね。」
アマノイワトワケ「表現も大分ヤバいが!?」
タヂカラオ「オモイカネさんの胃腸に十万ボルト走っている時は、相当恐ろしいことが起こる可能性を考えている時っすよ。具体的に言うと五千年後には外患誘致罪って名前が付くほどのどデカいヤマが想定されるっす。」
アマノイワトワケ「そんなヤバいこと起こるかもしれんの!!?」
オモイカネ「……タヂカラオ、アマノイワトワケ。今日の深夜だ。今日の深夜、ニニギ様が抜け出さないように見張っていてくれ。ネズミの足音すら聞き漏らさぬ姿勢で行け。」
アマノイワトワケ「何か分からんが……分かった。」
タヂカラオ「何となく理解したっす、ちゃんとニニギ様が寝ているかどうか、きっちり確認させてもらうっす。」
婚姻の儀が始まる夜ーー
ニニギノミコト「お待たせ。(ツヤツヤ)」
コノハナサクヤ「………💦(ツヤツヤ)」
アマノイワトワケ「オモイカネさん……これ……(小声)」
オモイカネ「………。」
アマノイワトワケ「マジかよ、今日会ったばっかだろ。寝る時間まで待てなかった感じかよ。」
オモイカネ「いや、想定の内だ。」
アマノイワトワケ「これが!?」
オモイカネ「私が恐れているのは、ニニギ様がコノハナサクヤ殿一人にうつつを抜かすことで腑抜けることだ。そのためにオオヤマツミ殿をけしかけてイワナガヒメ殿も妻にするように勧めた。既成事実の一つの二つ、出来た所で何も問題はあるまい。」
アマノイワトワケ「既成事実が出来ても問題ないように、更に別の既成事実を幾重にも重ねるってことか……わけ分かんなくなりそうだな。」
コノハナサクヤ「その……姉上も、ニニギ様の奥方になるとは、思わなくて。」
ニニギノミコト「多分、オオヤマツミ殿なりの思いやりなのだろうと思う。それにしてもわざわざ奥方にするなんて……。」
コノハナサクヤ「でも、ふふ……ニニギ様の隣は、確かに最高の場所かも。」
オモイカネ(ニニギ様……統治者としての気概を忘れていただかないためにも、きっちりとーー)
「ーーお、お待たせいたしました。」
ニニギノミコト「ああ、イワナガヒメ殿、今夜はーー」
コノハナサクヤ「あーー姉上。なんでーー」
そこに現れたのは、厚化粧に厚化粧を重ねた、凄まじい顔をした女性でした。コノハナサクヤは声から、その女性が自身の姉であることを即座に理解しました。

ニニギノミコト「な……え……?」
コノハナサクヤ「なんで!よりにもよって!今日も下手な化粧をしてきたのよ!?こんな大事な時に!!」
イワナガヒメ「そ、それは……私は……サクヤと違って……美人じゃないから……」
ニニギノミコト「ぶっsssssssssss」
オモイカネ「おい!!!!!」
イワナガヒメ「…………!!!」
一切の配慮の無いニニギノミコトの言葉に、イワナガヒメは瞼をふるふると震わせながらその場から逃げ出してしまいました。
オモイカネ(コノハナサクヤ殿と会った時から思ったが……やはりニニギ様は面食い……!予想の内ではあったが……イワナガヒメ殿の気合が空回った上、それが最悪な形で噛み合ってしまったか……)
アマノイワトワケ「その……大丈夫か?オモイカネさん。」
オモイカネ「」
アマノイワトワケ「これ、聞いちゃダメだったか?」
タヂカラオ「逆に何か聞いた方がいい顔してるっす。」
アマノイワトワケ「レスポンスなかったが!?」
結果として、ニニギノミコトはコノハナサクヤとだけ婚姻、イワナガヒメはオオヤマツミの元に送り返される形になりましたがーー
オオヤマツミ「何だとォォォォオオオオオオオ!!!!!!」
当然、オオヤマツミは烈火の如く激怒。
オオヤマツミ「イワナガと結婚させるのは、天孫殿のお命を岩のように永遠のものにするため!!!!!サクヤと結婚させるのは、天孫殿の一族が木の花が咲き誇るが如く繁栄するため!!!!!」
イワナガヒメ「すみません……父上……。」
オオヤマツミ「だがそれ以上に許せぬのは!!!!!己の杓子定規で!!!!!我が娘達に決して癒えぬ傷を与えたことだ!!!!!いくら天孫殿と言えども!!!!!断じて許せん!!!!!」
イワナガヒメは長寿を、コノハナサクヤは繁栄を司ると言われており、それを把握していたオオヤマツミはその恩恵をニニギノミコトへ捧げようと考えていたのです。
オオヤマツミ「我が怒り!!生の涯(はて)なる形にて思い知れェェェエエエ!!!!!」
怒りを覚えたオオヤマツミはニニギノミコトに対して呪いを掛け、その結果として神の権能である永遠の生を失ってしまいました。
しかし、話はこれで終わりませんでした。
コノハナサクヤ「……デキた。」
ニニギノミコト「え?」
コノハナサクヤ「デキたの。」
ニニギノミコト「は?」
コノハナサクヤ「あなたの子供。」
ニニギノミコト「いやいや、無理あるって。だって一日しか経ってないよ?すぐにはデキないことぐらい俺でも知ってるよ?」
コノハナサクヤ「でも、あなた以外にはいないんだけど……。」
ニニギノミコト「え?おかしくない?それ。え、じゃあさ、それ俺の子じゃないってことだよね。え。それってさ。え。俺以外のヤツと……ってことだよね。それ。」
コノハナサクヤ「だから!あなたの子よ!なんで信じてくれないのよ!」
ニニギノミコト「いやいや無理だって。背負えないよ。他人の子なんて。」
コノハナサクヤ「心当たりあるくせに!姉さんを捨てた時から思ってたけど!本当に酷い人!」
コノハナサクヤが妊娠したのですが、ニニギノミコトはこれを不貞と断じてしまいます。彼女の必死の弁明に対してニニギノミコトは聞く耳を持たず、これに対して彼女はーー
コノハナサクヤ「この小屋であなたの子供を産むわ、だから火を放って!」
ニニギノミコト「……え?」
コノハナサクヤ「あなたの子供ならどんな状況であっても必ず産まれるはず!そうでなければ焼け死ぬはず!」
ニニギノミコト「そ、そこまで言うなら!!産んでみせろ!!」
火の放たれた出口のない小屋の中で出産することを宣言。神の子であるならば何があっても生き延びるはずだとコノハナサクヤは言ったのです。
ニニギノミコト(さ、さすがに……しかし……ううむ。)
燃え盛る小屋を、ニニギノミコトは固唾を呑んで見守っていました。
そうしてーー産声が、燃え上がる炎と共に響きました。
崩れていく小屋からは、三人の赤子を抱えるコノハナサクヤの姿がありました。彼女たちは神の加護によって守られていたためか、何事もありませんでした。
コノハナサクヤ「言ったでしょ……あなたの子だって。」
ニニギノミコト「ああ……何という……ありがとう……ありがとう。」
コノハナサクヤ「私たちを、愛してくれますか?」
ニニギノミコト「……ああ!」
ニニギノミコトとコノハナサクヤの間に生まれた子はそれぞれーー
火が盛んだった時に生まれたホデリ、火が弱くなった時に生まれたホスセリ、火が消えた時に生まれたホオリと名付けられました。
こうして、三人の子に恵まれたニニギノミコトは高千穂から国を統治したと言われています。
アマテラスから託された稲を地上にもたらしたことで、人々の間に稲作が広まることになり、これによって国は豊かになったと伝えられています。
シオツチノオジ「ーーこれが事の顛末じゃ。天孫殿は神としての力を失ったが、一国の長としての使命はしっかりと果したということじゃ。」
サルタヒコ「ふむ……そうであったか。」
シオツチノオジ「ほどなくして天孫殿は崩御なされてしまったが、彼の意志は今も受け継がれておる。それは尊く、いかなことがあろうとも守り抜かねばならぬ。」
サルタヒコ「………。」
シオツチノオジ「苦虫を噛み潰すでないわ。」
サルタヒコ「めでたきまま終わらせんとする醜き魂胆が透けて見えただけよ。お気になさらず。」
シオツチノオジ「包み隠せておらぬぞ。」
アメノウズメ「ところでオジ様?なんでこちらにいらっしゃったのかしらん?」
シオツチノオジ「うむ。儂には儂にしか成し得ぬことがあってな。ま、野暮用じゃ。」
そう言って彼は、杖をついて歩き出しました。
4.ウミサチヒコとヤマサチヒコ
ウミサチ「だーかーら!!釣り針返せっつってんの!!お前人から借りたモン失くすとか脳みそ腐ってんじゃねえの!!?」
火遠理命(ホオリノミコト)もとい山幸彦(ヤマサチヒコ)は悩んでいました。兄である火照命(ホデリノミコト)、もとい海幸彦(ウミサチヒコ)から借りた釣り針を失くしてしまったからでした。

ヤマサチ(あんなに怒る兄者の姿を見たのは初めてだ……マズい……早々に見つけなければ殺される……!)
シオツチノオジ「お困りのようじゃな、若人よ。」
困り果てていたヤマサチの前に現れたのは、シオツチノオジでした。
ヤマサチ「ああ、あなたはシオツチノオジ様。」
シオツチノオジ「海のことならばワタツミの元へ行くとよい。あやつならば些細なことでも把握しておる、お主の悩みなどたちまちのうちに解決して見せるだろう。」
ヤマサチ「ああ、ありがとうございます。」
それを聞いたヤマサチはさっそく小舟に乗り、海の神である大綿津見神(オオワタツミノカミ)の元へと向かうことにしました。
シオツチノオジ(はてさて、これがどう転ぶのか――天孫殿のご子息故、その運命は波乱のものとなろうが……)
海の上を歩きながらシオツチノオジはその道筋を案じましたが、自身にできることはもはや見届けることのみ。まずは鹽竈(しおがま)と呼ばれる自身の地へと戻っていくことを決めました。そこには地上の平定に関わった神々がいましたが……彼らが再び物語の舞台に上がってくるのは、もう少し先の話です。
ヤマサチ「頼もう!」
ワタツミの宮殿にたどり着いたヤマサチ、そこで彼は運命の出会いを果たします。
「まあ。こんな所に人が参られるなんて。」
見目麗しい女性が宮殿の奥から姿を現します、その姿にヤマサチは一瞬で虜になってしまいます。
ヤマサチ「おお、もしやあなたがワタツミ様で?」
「まさか。私はトヨタマヒメ。ワタツミは私の父のことですよ。」
豊玉姫(トヨタマヒメ)と名乗ったその女性は、ヤマサチの訪問を快く受け入れました。

トヨタマヒメ「父に用がおありなのでしょう。私の方から父へ――」
「お姉ちゃんさあ。」
宮殿の奥からもう一つの声、トヨタマヒメと顔立ちが似ているものの、若干年が下である印象を受ける見た目の女性が姿を現します。
「さすがに不用心が過ぎるんじゃない?見ず知らずの男に近付きすぎ。」
トヨタマヒメ「まあ。タマヨリったら。この方は困っているのですよ?これを見捨てては父の威厳に関わるでしょう?」
彼女は玉依姫(タマヨリヒメ)という名であり、その名の通りトヨタマヒメの妹でした。
タマヨリヒメ「っつか何、なんでここに来たわけ。人間でしょ?人間がここに来るとか、どう考えても異常事態じゃん。」
ヤマサチ「いや、まあ、それはそうですけど……こちらも異常事態に瀕していると言いますか……」
トヨタマヒメ「ほら、言ったでしょう?困っている様子だと。」
タマヨリヒメ「ふぅ~ん。どうだか。」
タマヨリヒメからは受け入れられてない様子のヤマサチ、そんな状態でもトヨタマヒメだけは常に真摯な姿勢で向き合い続けます。
トヨタマヒメ「それで、どういったご用件で?」
ヤマサチ「釣り針を探しに来たのです。私は元々山での狩りを得意としていたのですが……気分転換に釣りがしたいとわがままを言って、兄から釣り針と竿を借りたのです。ですが、釣り針を魚に取られてしまい……」
タマヨリヒメ「ゴミじゃん。人から借りたモン失くすとか死んだ方がいいよ。」
トヨタマヒメ「まあ。」
ヤマサチ「うう……仰る通りで……」
トヨタマヒメ「ですが、それならばすぐに見つかるかと。私の方から父に取り次いでおきますので、少々お待ちを。」
と、トヨタマヒメは事情を把握し、そのことを父であるワダツミへと報告するのでした。
トヨタマヒメ「――ということなのです。」
ワタツミ「ほう、それならば心当たりがある。」
トヨタマヒメ「まあ。」
ワタツミ「最近仕切りに喉が痛いとのたまうアカメがおった故、何事かと思いかの者の喉に引っかかっていた釣り針を抜いてやったのだ。」
そう言ってワタツミはトヨタマヒメに釣り針を見せます。
トヨタマヒメ「……これは。」
ワタツミ「ああ。この釣り針に感じる気、これはかの天孫と同じものだ。」
トヨタマヒメ「まあ。何ということでしょう、ということはあの方は……」
ワタツミ「まさか吾の領域へ参るなど想像ができようものか。なれどこれは好機とも言える。」
ワタツミは一つ、今回のことで確かめたいことがありました。
ワタツミ「トヨタマよ。かの者をこの宮殿に留め置きたい。世話役を頼めるか。」
トヨタマヒメ「ええ。お父様の頼みとあらば。」
ワタツミ(ヤツが『我らと共に歩む』天孫の血統か否か……確かめさせてもらうとするか。)
そうしてトヨタマヒメは次第を報告。これを聞いたヤマサチはしばらくの間宮殿で過ごすことになりますが……
ヤマサチ「……長くないですか?」
トヨタマヒメ「そうですか?」
ヤマサチ「いや、だってここに来てから三年ですよ?」
タマヨリヒメ「細かいこと気にしすぎ、キモ。」
トヨタマヒメ「まあ。」
三年もの間、ヤマサチはワタツミの宮殿で過ごすことになってしまいました。さすがにヤマサチも故郷が恋しくなってきたのか、憂いを帯びた表情をするようになりました。
ヤマサチ「確かに私は兄を恐れてはいます。兄も私を殺そうと躍起になっている話も伺っています。ですが……私の居場所は、やはり故郷にあるのです。」
トヨタマヒメ「………。」
トヨタマヒメはその言葉を聞いて、少しだけ切なげな顔を浮かべます。三年間の歳月の中で、彼に対して少なからず親近感を抱いていたのです。
トヨタマヒメ「……父に、釣り針の件を取り次いできます。」
タマヨリヒメ「お姉ちゃん。」
ヤマサチ「トヨタマヒメ……ありがとうございます。」
そう言ってその場を後にするトヨタマヒメ。そんな彼女の背を見送るヤマサチの様子にタマヨリヒメは苛立ちを覚えます。
タマヨリヒメ「アンタさぁ、三年間ここにいたんだから少しはお姉ちゃんの気持ちに応えてあげるとかしてあげたらどうなの?」
ヤマサチ「………。」
タマヨリヒメ「そういうの本当にキモイ。気付いていながらあえて無視するとか、生殺しもいい所だよ。」
ヤマサチ「……私は、あくまで地上の人間だ。それに、人の借り物を容易く失せるような、頼りない人間だ。」
タマヨリヒメ「それは――なんつぅか、言葉の綾っていうか。」
ヤマサチ「分かっている。トヨタマヒメが私を好いていることも。正直、私も彼女ともっと一緒にいたい。でも、私は地上の存在で、彼女は海の存在。本来交わることはあり得ないことだ。」
タマヨリヒメ「………。」
ヤマサチ「だから誤解しないでほしい。彼女と一緒にいた日々は……とても幸せだった。」
タマヨリヒメ「……バカみたい。」
二人の会話の後、トヨタマヒメが父・ワタツミを引き連れて戻ってきました。
ワタツミ「ーーほう。」
ヤマサチ「あなたが、ワタツミ様。」
ワタツミ「いい目をしている。かの天孫は人間へ身を堕としたと聞いたが、その気風は未だ健在か。」
トヨタマヒメ「………。」
ワタツミ「話はトヨタマヒメから伺っている。釣り針の話であったな。」
ワタツミはそういうなり、ヤマサチに釣り針を渡します。
ヤマサチ「あ、ありがとうございます。」
ワタツミ「さてヤマサチヒコよ。貴様に一つ問おう。貴様は本当に地上に戻りたいのか?」
ヤマサチ「はい?」
ワタツミ「聞き及んでいないわけではあるまい。兄のウミサチヒコが貴様の命を狙っていることを。ヤツにとって釣り針は海の権能を司る神器に等しい存在。三度断って渋々貸し与えたかと思えば失せたと言われたのだ。これを謀反の気非ずと捉えるのは難しかろうなぁ。」
ヤマサチ「……存じております。」
ワタツミ「実の所、ウミサチヒコは何度もここに訪れておる。それでも貴様が無事でいられるのはひとえに吾の権能がヤツに勝るが故だ。なぜわざわざ己の身を危険に晒すような真似をする。」
ヤマサチ「それでも、ウミサチヒコは兄だからです。そして、兄のいる所こそが私の故郷だからです。」
その言葉を聞いたワタツミはニヤリと笑いました。まるで『その言葉を待っていた』とでも言うかのように――
ワタツミ「そうのたまうと思ったぞ。」
ワタツミは顎でヤマサチを指すと、トヨタマヒメはそれに応じるように前に出る。彼女は両手で二つの宝玉を持っており、その宝玉はどちらも吸い込まれるような強い力を放っていました。
トヨタマヒメ「潮盈珠(しほみつだま)と潮乾珠(しほふるだま)にございます。かたや力を込めればたちまちの内に地上に潮が満ち、かたや力を込めれば満ちた潮を引かせることが出来ます。」
ワタツミ「地上に戻ればウミサチヒコと戦うことになろう。これを持っておればヤツとは負けることはあるまい。」
ヤマサチ「……ありがとうございます。」
ワタツミ「安心いたせ。いつの時代も我ら海の者はお主らと共に在る。吾が全て保証しよう。」
そう言ってヤマサチは二つの宝玉と釣り針を持って宮殿を立ち去っていきました。
トヨタマヒメ「………。」
ワタツミ「……辛い思いをさせてしまったな。」
トヨタマヒメ「……分かっては、いました。分かってはいましたが……」
ワタツミ「吾は父として、お主に最も酷い仕打ちをしてしまった。だがヤヒロノオオワニ(大蛇)であるお主と、人間であるヤツ。互いに希う間柄であれ、乗り越えられぬ壁はあるのだ。」
トヨタマヒメは普段は人間の姿をしていますが、その正体はヤヒロノオオワニと呼ばれる大蛇でした。これはワダツミの住む宮殿が竜宮、あるいは竜宮城と呼ばれる起因でもあり、海の神は総じて龍や蛇の姿をしていることの証左でした。
トヨタマヒメ「ヤマサチ様……。」
ほどなくして、ヤマサチヒコは兄のウミサチヒコと争うことになります。その際にワタツミから授けられた二つの宝玉を用いて戦い、勝利。釣り針も返還し、ほどなくして兄弟は和解しました。
そして、ヤマサチヒコとの日々を送ったトヨタマヒメも、彼との間に出来た息子を産みました。名を鸕鶿草葺不合尊(ウガヤフキアエズノミコト)。しかしトヨタマヒメは、彼を育てることはせず、砂浜に置き去りにしてそのままどこかへ姿を消してしまいました。
そんなウガヤフキアエズを育てたのがタマヨリヒメでした。二人は後に夫婦となり、その間に数人の子供をもうけることになるのですがーー
その内の一人に、日本国を建国することになる、後の神武天皇がいました。
〈続く〉
