見出し画像

風のモノローグ Vol.6

バイク女子

AKITA250CC

 終業のチャイムが鳴る。
 「はーい、じゃあ、これで終わるけど、お前ら、夏休みだからって、ハメはずすなよ」
 担任の教師の声が響く。
 「ハーイッ」
 「うィーッス」
 返事なんかしてられへん。
 あたしは急いでカバンをつかむと、椅子から立ち上がる。
 「美菜ぁーッ マクドかケンチキ行かへんーッ?」
 友達の声があたしを捕まえようとする。
 「ゴメーン、 今日ちょっとムリッ また、埋め合わせするしぃーッ」
 声を掛けてくれた友達にそう言って、あたしは教室を飛び出す。
 「急げ、急げ」
 下駄箱に上履きを突っ込んで、校舎を出る。
 自転車の前かごにカバンを放り込むと、自転車に跨り、力いっぱいペダルを踏みこむ。
 「急げ、急げ」
 立ちこぎで勢いをつけて校門を出る。
 通いなれた通学路に出るとギアを変えてさらに加速する。
 制服のスカートが風でめくれて、パンツが見えそうになるけど、そんなの構ってられへん。
 通り過ぎる通行人が驚いたように振り返る。
 それすら、今のあたしには楽しい。わくわくする。
 「急げ、いそげ」

 見慣れたあたしンちの看板が見えた時、あたしはきっと笑っていたと思う。
 「ジャッ!!」
 お店の前で後輪をスライドさせて止まる。
 「父さんッ」
 「おう、帰ったか」
 「ただいまッ 父さんッ」
 「ガレージだ」
 父さんは、あたしの言いたいことが分かってるかように答える。
 あたしはカバンも自転車もその場に放り出して、ガレージに走った。
 ガレージの重いシャッターをうんこらしょと開ける。
 「ああ・・・」
 あたしはうっとりとしてしまう。
 GSX-1100S KATANA、おばあちゃんのバイク。
 カワサキZ750RS(ZⅡ)、おじいちゃんと父さんのバイク
 FBモンディアル hps300、母さんのバイク。
 小さい頃から、ずっと見てきた。
 あたしの、大好きなバイクたち。
 今日、その隣に、あたしのバイクがある。
 AKITA250。
 イギリスのMUTT MOTORCYCLESのバイクだ。
 中免を取った時、あたしはネットでいろんなバイクを捜した。
 そして、このAKITAを見つけた。
 イギリスのバイクなのにAKITAって名前が気になって調べたら、世界でも人気の日本犬の中でも、特にヨーロッパに人気の高い秋田犬がイメージに合っていたので、AKITAってつけたってことを知った。
 それに、イギリスは母さんが留学していた国だ。
 運命を感じた。
 AKITA250。
 シルバーメタリックのおっきいタンクにメーカーのロゴマーク。
 皮革のシート。
 太めのスポークタイヤ。
 リアのコイルスプリングサス。
 空冷単気筒249CC。
 最近では、ネオクラシックとかいって、一昔前のデザインを模倣したバイクが出ているけど、おばあちゃん、おじいちゃん、おとうさん、そしてお母さんが乗っていたバイクを知っているあたしには違和感しかなかった。
 でもAKITAはそうじゃない気がしていた。
 頑なに守り続けてきた伝統のようなものを感じた。
 エンジンキーはついている。
 あたしはキーを回して、スタータースイッチを押す。
 エンジンが立ちあがる。
 単気筒特有の、ドッドッっていう音が響く。
 ああ、いいなあ。
 あたしは少しだけその音に身を任せる。
 「心臓の音みたいだ・・・」
 あたしはしばらくその音に身をゆだねた後、AKITAにまたがった。
 「こらッ」
 いつの間にか父さんがガレージの前に立っていた。
 「お前、制服のままで出ていくんか。その前に母さんたちに報告してからにしとけ」
 そう言った父さんは、私より嬉しそうに笑っていた。

あとがき

かわいいバイク女子を登場させたいなと思いました。

いいなと思ったら応援しよう!