【愛縁奇縁/幽世編】【外伝】蛇神夫婦:白蛇の独白
白銀は、愛おしそうな眼差しで私を見つめていた。
その視線に耐え兼ね、思わず顔を逸らしてしまう。
私は元々どこかの一族に祀られていた白蛇だったの。
でもいつからか、求めてもいない生贄を捧げられるようになり、
それが嫌で嫌で堪らなかった。
白い大蛇だった私は、人間たちに怖がられるのが嫌でね。
とある屋敷の軒下に隠れて生活をしていたのよ。
けれど、あくる日。その屋敷に住む人間に見つかってしまった。
また、怖がられて酷いことをされるかもしれない。
そう思ったのだけど、人間は私に優しくしてくれた。
嬉しかったわ。
亡くなった時も、悲しんでわざわざ供養塔を建ててくれた。
……それから、そのお屋敷は豊かになったの。
『きっと白蛇の恩返しだ。白蛇は、蛇神になったに違いない』
喜んだ人間たちは、そんな風に言っていたわ。
最初の頃は、私もそんな人間たちを微笑ましく見守っていた。
お供え物も欠かさず置いてくれて、
命日には演舞まで披露してくれるようになり……その頃には、
供養塔の横に立派な祠まで建てられていたの。
でも、ある時。その屋敷で不幸な出来事が立て続けに起こったのよ。
流行り病や事故なんかでね。
……単なる偶然だったのに、人間たちは誰からともなく言ったわ。
『白蛇さまの祟りに違いない。怒りを鎮める為には、生贄を捧げる他ない』
私は、そんなことを望んでなかった。
だけど、
私の思いが人間たちに届く事はなくてね。
……最初の生贄が捧げられたわ。
それからというもの、
屋敷で不幸が続く度に人間たちは私へ生贄を捧げてきたの。
それも、年端も行かない幼子たちをね。
私は悲しくて辛くて……
でも、祀られているせいでその場を離れることもできなくて……
自分の所為で殺される幼子をただ、見ていることしかできなかったわ。
せめてもの償いとして、
幼子たちの魂を私の子として受け入れたけど、
それでも何度も繰り返される所業に、私の心は限界を迎える寸前だった。
いっそのこと、この人間たちを呪って邪神となり、
祓われた方が私や幼子たちの為なのではと考えたこともあったわ。
けれど、そう思っていたある時。祠の前に一人の少年が現れたの。
『白蛇よ。なぜ泣いている?』
彼はどこか神々しくもあり、
その眼は全てを見透かしているようだったわ。
……私は、全てを彼に話したの。
聞き終わった彼は、大きなため息を一つ吐き出して。
『邪な人間が、白蛇を穢すとはいい度胸だ。……対価は支払ってもらうぞ』
そう呟いた彼の眼は、とても冷たくて嫌悪と殺意に満ちていたわ。
その眼は、白蛇であるはずの私が……
蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなるほど、本当に恐ろしかった。
……その後、屋敷は謎の火災で全焼し、
住民は全員亡くなってしまったわ。
嫌な事も沢山あったけど、
それでも最後の時まで、屋敷の人間たちが目を覚ましてくれるのを、
私は心の片隅で期待していたの。
でもね。白銀と出会い結ばれて、私も今がとても幸せよ。
……そう言えば、一度冗談で白ちゃんこんなことを言っていたわ。
『白銀さまって親戚の叔父さんみたい』
それに対して白銀は、笑いながら返してたわ。
『白ちゃんの叔父さんか……ええよ?
そん代わり、辛いことあったらちゃんと叔父さんに話してな?』
そう返していたから私も便乗して言ったの。
『こんなに可愛らしい姪っ子なら、私も大歓迎よ。
私にも、悩みとか聞かせてくれたら嬉しいわ』
だからね。あの子を救おうとする者が現世からやって来て、
本当に感謝しているの。
……私たちは、かつてあの子に慕われていたのに、
今では会いに行くことすらできず、悲しい思いをさせている。
この世界の理に私たちは逆らえない。
でも、現世から来た子たちならきっと彼女を救えると信じてる。
……あの子の笑顔をもう一度見られるなら、なんでもするわ。
この想いを託すから、どうか成し遂げて頂戴。
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