【愛縁奇縁/神代編】第零話:久遠に結ばれる魂
湯から上がった俺・白哉・如月・志輝は、
用意されていた白い婚礼衣装に身を包んだ。
白布の衣は淡く光り、俗世の色をすべて剥ぎ取るようだった。
俺と白哉、如月と志輝は並び立ち、これからの儀式に緊張を隠せない。
最初に口を開いたのは日夊だ。
「……よいですか。これより行われるのは、幽世に住まう為の契りの儀です。
あなた方が、この地に留まるには……
幽世に受け入れられる証を得ねばなりません」
その声音は厳《おごそ》かで、どこか優しい。
「幽世に来て七日を越せば、儀を受けぬ魂は解け……
そして、この地に溶けてしまいます。
されど契りを交わすならば、その魂は縁に守られる。
ここ幽世で生きることを許されるのです」
黒曜が続ける。
「人ならざる者がこの地で在り続けるにはね。
儀式を受け、幽世の者の許しを得なければならないの。
そして人が幽世で生きるには、
人ならざる者と夫婦の契りを交わすことが定め。
互いの魂を結び、ひとつの道を歩むために」
如月と志輝は息を呑む。彼女たちに戻る道はもうない。
それでも隣に立つ者を見つめると、不安は途端に薄れていく。
俺が意を決して、口を開いた。
「……如月。俺の気持ちば変わらね。
ずっと、一緒さ居てぇ。だども、嫌っつんだば無理強いはせん。
嫌じゃったら……どったなことしてでも、現世さ戻しちゃる」
その真っ直ぐな言葉に、如月は震える唇を噛みしめ首を振った。
「……見くびらないで。私は前世の記憶が戻ったからじゃない。
あなたが……黑だから、愛してるの。
だからお願い、これからもあなたの隣に居させて?」
胸が熱く震え、俺は彼女の手を強く握る。
そして、堪えきれず抱き締めた。
その横で、白哉は志輝を見つめている。
「志輝、覚えとるか? 前世のこと?
……覚えてなくても構へん。
僕、君と交わした約束を守れんかった事ずっと謝りたかったんや。
君の事、僕は忘れてた。――でも、忘れられんかった。
前世では伝えらんかったけど、好きやったんよ。
今も、想いは変わっとらん」
志輝はしばし瞼を閉じ、やがてゆっくり話し始めた。
「……幼い頃から、誕生日の度に夢を見てた。
たぶん、前世の夢。
夢に出てくる男の子。
姿も名前も、はっきりと分からないのに、ずっと惹かれてた。
今年、あなたに再会する前にも同じ夢を見たの。
……そして、初めて夢の中であなたの顔が見えて全部思い出した」
白哉の喉が詰まり、笑みとも嗚咽ともつかぬ声が漏れる。
「……そんなん、ずるいわぁ」
その声には、涙混じりの安堵が滲んでいた。
「……「僕ら、前にどっかで会っとらん?」って、
あなたに聞かれた時、知らないふりをしたの。
怖かったから。
あなたが私と同じ気持ちかわからなかったから……
拒絶されるかもしれないって……ごめんなさい。
ずっと、あなたを待ってた。
だから、今度こそ……約束守ってね?
これからは、ずっと一緒に居て……二度と離さないで」
志輝はそっと白哉の拳を掴み、握りしめる。
それぞれの思いが結ばれるのを日夊は静かに見守っていた。
「よろしい。では、始めましょうか」
玄と華が結界を張り、その内側へと白装束の四人が導かれる。
中央に立つ白が細い指を合わせ祝詞を紡ぎ始めた。
「境を越えし魂よ
現世《うつしよ》を彷徨い 幽世《かくりよ》へ辿り着いた 想い
その縁《えにし》 断たれることなく
その契 朽ちることなく
ただひたすらに 久遠へと続かむ
天地《あまつち》の調べよ この誓いを響かせよ
流るる川も 瞬く星も
いまここに生まれし絆を見届けよ
かくありて かく続けよ
永遠《とこしえ》に」
白が祝詞を詠み終えると静寂が結界を包む。
その中心で、白銀と黒曜が並び立つ。まず、白銀が目を閉じて掌を掲げる。
「この契り、清き流れに映し見た。
いかなる時も、迷わぬように。いかなる闇も、縁を絶たぬように」
次いで黒曜が掌を重ねるように掲げ穏やかに告げた。
「我ら蛇神の名において、ここに許す。
この魂らが、幽世に息づき、絆と共に歩むことを」
白銀と黒曜。二柱の声が重なった瞬間、結界の内に淡い光が満ちていた。
それは祝福の光であり、魂を確かに受け入れた証。日夊が静かに宣言する。
「これにて、契りは果たされました。
人ならざる者と人とが、互いを選び共に生きる道を定めた……」
結界が揺らぎ、光に包まれた。
俺は如月の手を握り、白哉は志輝と視線を交わす。
その眼差しに、迷いはもうなかった。
彼らはもう現世に帰ることは叶わない。
だが……――――確かに共に歩む絆を得たのだ。
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