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【愛縁奇縁/現世編】第二話:静謐の庭に刻まれし声

 白の守護者は語り出した。
 静かな緊張が室内を包んでいる。
 
「白は……今、確かに生きています。

 ですが、彼女の現在について、
 あなた方に伝えなければならないことがあるのです。

 長くなりますが、お聞き願えますか?」

 誰も逆らわず彼の言葉の続きを待つ。
 俺も如月も天羅も黙って玄を見つめている。

 玄は静かに頷き、
 袴の内側から小さな布に包まれたものを取り出した。
 布を解くと、中から古びた紙片が数枚現れる。

 裏面には何かの印が記されていた。

「まず、話を始める前にこちらをご覧ください」

 彼が紙を一枚、俺たちの前に差し出す。
 そこには、
 白い髪に赤紫色の瞳の少女が、目を伏せて座る姿が写っていた。

 写真のような精密な絵。
 まるで目の前にいるような存在感に、俺は目を奪われる。

「これは……?」
「現在の白です。
 霊的な手段を用いて、彼女の存在を写し取ったものです。

 ……直接見せることが叶わない場所に、彼女はいますから」

 隣の如月の呼吸が浅くなったのが分かった。俺もその絵に目を凝らす。

 確かに面影があった。過去に見た、幼き鈴の面影が。
 俺が言葉を失っていると、玄が続けた。

「彼女は“奥宮”と呼ばれる場所で守られています。
 ……外界から隔てられ、厳重に護られているのです。

 ですがそれは、本人の意志ではありません。……強制に近い形で」

 如月が小さく身を震わせた。

「酷い、そんな……監禁みたいなこと……」

 声は掠れていた。玄は一瞬だけ言葉を選び、静かに肯定した。

「……ええ。あなたのおっしゃる通りです。
 少なくとも、今の彼女に自由はありません。

 私の使命は、彼女を【護ること】でした。
 けれど、今は疑問を抱いています」

 天羅がそっと視線を落とし、口を開いた。

「彼女は……なぜ、そんな場所に?」
「……魂の力が強すぎるのです。
 彼女は知らぬ間に、周囲の運命や結びを引き寄せ、変えてしまう。

 【鍵】としての力を持つ者なのです」

 これまでの出来事が一気に去来する。

 前世からの因縁。天羅との出会い、白哉の話。
 すべてが一つの流れに収束していくのを感じた。

 そこで、如月がすっと立ち上がる。

「……白哉さんを呼んできます」

 彼女は顔を伏せ、呟いた。

「きっと、あの人もこの話は聞くべきです」
「……ああ。頼む」

 俺が頷くと、如月は一礼して部屋を出て行く。

***

 縁側のそば、玄関の引き戸の前。白哉と志輝が並んでいた。
 白哉は笑みを浮かべながら、どこか探るような視線で志輝に尋ねている。

「変な事、聞くんやけどさ。僕ら、前にどっかで会っとらん?」

 その問いに、志輝は少し驚いたように瞬きをする。
 けれどすぐに、柔らかな笑みを浮かべた。

「ごめんなさい。……分からないです」

 その笑顔は誠実なものだった。だが確かに、空気が揺れている。
 志輝が軽く一礼し、辞するようにその場を離れていく。

 一連の流れを見てしまった私は、気まずそうに小さく声をかける。

「……白哉さん」

 その時、不意に彼の口元が僅かに歪み、白哉がぽつりと呟いた。

「はは。……僕を騙そうなんて、百年早いわ」

 誰に向けた言葉かは、言わなかった。
 けれど、その声音はあまりに低く苦味を含んでいる。

「えっと……」
「……ああ、如月ちゃん。呼びに来てくれたんか?」

 私の声に気づき、振り返った白哉は、
 いつもの調子に戻っており気楽な笑みを浮かべて言った。

「おおきにね。ほな、行こか」

***

 部屋に入って来るなり、白哉は少しだけ肩を竦める。

「な~んか、重い空気やわぁ……」

 そして座卓の中央に目をやり、笑って手を叩いた。

「とりあえず話の前に朝ごはん食べようや?
 腹が減っては戦は出来へんって言うし、な?」

 その唐突な軽口が、張り詰めた空気を一瞬和らげる。
 俺は深く息をついた。

「……飯の支度は、とっくに終わっとる」
「ほんま? やったら、折角やしお客さんの分も僕が用意したるわ」
「え、でも」
「気にせん気にせん。それとも何か?
 君、僕らがご飯食べとる間、黙って待っとるつもりなん?

 そんなんこっちが落ち着かんわ。
 ええから、待っとって。美味いもんこさえたるから」

 言うや否や、白哉は笑いながら台所へと行ってしまう。
 気まずさと緊張が一気に解けたように感じる。
 昨日会ったばかりだが、不思議な男だ。
 見た目は自分とよく似ているが、中身は真逆。
 口下手な俺と違い、あいつは口も良く回る。

(ほんに食えん男じゃ。……敵には、回したくないのぅ)


 そんなことを考えながら、先ほどの絵に再び視線をやった。
 悲しげに伏せられた瞳に胸が締め付けられる。

▶次の話


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