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【愛縁奇縁/逢魔編】第零話:黙示の砦に揺るがぬ光

【元老院】


 幽世の深奥。幾重もの結界に包まれた、白玉楼にも似た白亜の大広間。

 中央の玉座群には長命の神々と古き霊たちが列を成し、
 金と漆の高壇から二つの影を静かに見下ろす。
 淡い光を帯びた鎖が、蛇神【白銀】と【黒曜】の四肢を絡め取っていく。
 鎖に縛られた二柱は膝をつき瞳を伏せている。
 だが白銀の背に宿る気配は凍りつくほど冷えていた。
 罪状は一つ。
 元老院の許可なく、現世の者――如月と志輝に神力を授けたこと。

 それは秩序を乱す行為として断罪され、重い裁きが下されようとしている。

「……白銀・黒曜。
 汝らの行いは幽世の秩序を乱し、災厄を招く火種となる。弁明はあるか」

 最上段の中央、金冠を戴く老神の声が響く。
 白銀は短く首を振り、黒曜も同じく沈黙を守る。

 その様子を堂の入口から見つめる二つの影があった。

「……元老院よ、白銀と黒曜の拘束を解け」

 椥が一歩踏み出す。その隣には、白が立っていた。

 白の足元で結界の光が揺れる。
 老神たちの視線が向くと、その輝きは一段と強くなった。

「この結界、私に何の意味があると? おとなしく座って見ていろって?」

 白の声は澄んでいたが、その奥に潜む冷ややかさは鋭かった。
 大広間に漂う空気を張り詰めさせた。

「元老院よ。お前たちは秩序を口実に、ただ支配を維持しているに過ぎない。
 彼らが何をしたか、解っていて処罰しようとしているのか?」

 椥の声は低く、威圧を孕んだ静けさで響く。議員の一柱が声を荒げた。

「彼らは掟を破った!
 力の授与は均衡を乱す。処罰は当然だ!!」
「均衡を乱したのは彼らではありません。
 あれは、彼女たちを守ろうとした結果です」

 老神たちの視線が一斉に白へ向く。
 多くは感情を表に出さず、数柱だけがわずかに眉を顰めた。

「そもそも、白銀様と黒曜様は彼女たちが持っていた素質を見抜き、
 力を授けたに過ぎません。

 ……幽世に迷い込んだ哀れな人間に対し、
 神として当然のことをしただけです」

 椥が続ける。声音は怒りよりも冷静で、
 言葉一つひとつが場の空気を削り取るように響いた。

「無許可で力を授けることは、確かに規律に反している。
 だがそれは秩序を守るためではない。人を守るためだった。

 その区別がつかないのなら、お前たちはただの石像だ」

 白は一歩前へ。
 結界が一瞬強く発光する。触れれば焼けるほどの力を帯びていた。

 だが白は恐れず、真っ直ぐに壇上を見据える。

「白銀様も黒曜様も、何も間違っていない。

 それでも、御二方を罰するというのなら……私が代わりに罰を受けます」

 一瞬だけ広間が凍りつく。
 老神の一人が口を開きかけるも、別の神が手で制した。

「……白よ。汝は、贄として元老院の庇護下にある。
 よもや、その立場を忘れたわけではあるまいな?」
「忘れてなんかいない。だからこそ言うの。
 秩序の名を借りて、自分たちの惰性と恐怖を隠すのはやめなさい」

 瞬間、白の背後で椥が静かに片膝をつき、掌を床に押し当てた。
 青白い紋様が広がり、結界の光が一部だけ霧散する。
 
 壇上の神々が騒めく。それでも【白】は視線を逸らさない。

「彼らの行いを裁くなら、まず自分たちの怠慢を裁いてからにしろ。
 ……それができないのなら、お前たちの秩序はただの腐敗だ」

 その言葉で重い沈黙が大広間を覆う。
 椥は白の眼を見て静かに頷く。そして、再び議員たちを見据える。

「選べ。この地の神を失うか、理に沿った赦しを与えるか」

 長老が深く息をつき、やがて口を開いた。

「……今回だけは、見逃そう」

 鎖が外れる音が響き、牢の空気がわずかに和らぐ。
 白銀と黒曜が歩み出る。その姿を見届け、白と椥も視線を交わす。


 その瞳に映るのは、
 ただ一つ……――――互いを決して独りにしないという誓い。

▶次の話


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