【読書】『翼の翼』感想 翼の「翼」が欲しい母
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「翼の翼」を再読してみた
▼『翼の翼』朝比奈あすか 光文社文庫
中学受験を始めたばかりの家庭には、新鮮で少し怖い。
受験真っ最中の家庭は「うちと同じだ」と頷く。
たぶん、誰が読んでも、登場人物を自分と重ねてしまう。
それが『翼の翼』だ。
2021年刊行当時、この本の帯には「今一番夫に読ませたい本!」と書かれていた。
夫主導で中学受験が始まったばかりだった私は、「中学受験とは何なのか」を知りたくて情報を探していた。
そんな時、SNSでこの本が話題になっていた。
私は、中学受験を始めた当人である夫に、まずこの本を読んでもらうのもいいなと手に取った。
同じ時期、夫は夫で中学受験を知るべく、「2月の勝者」を読んでいた。
そして、私にも読むように勧めてきたが、私はテレビドラマから入った。
ドラマの黒木先生やストーリーそのものに、「すごい世界だな」と思った。
2月の勝者を読むことに忙しい夫に代わって、私が先に『翼の翼』を読むことにした。
読み終えた時、やはり「すごい世界だな…」と思わずにはいられなかった。
それが息子小3の頃だ。
今回感想を書くに当たり、再読した私は、また違う感想を抱いた。
当時、恐ろしく感じたこの文章の中には、いまや我が家の日常が詰まっているのだ。
翼はボリュームゾーンではない
翼は、いわゆる地頭がいい子で、スポーツも得意、友達も多くみんなから好かれている。
ぜひとも我が家の息子とお友達になって欲しいタイプの爽やか男子だ。
そんな翼が、CMで流れた楽しそうな全国テストを受けた。
翼は、何の対策もせずに突っ込んだテストで算数偏差値57を叩き出す。
翼の両親の反応は「こんなもんか」だったが、ノー勉で算数の偏差値57は普通にすごい。
とても、ボリュームゾーンとは言えない。
僭越ながら、我が家もCMで流れた全国テスト的なテストを受け、息子の結果に「こんなもんか」と思った。
しかし、翼がこの成績だったら、翼ママはきっとそんなもんじゃ済まなかったろう。
うちの息子と翼が同じ塾だったなら、きっと違うクラスになるはずだ。
息子が超頑張って上のクラスに行くか、翼が間違って何段階かクラス落ちしてこなければ、2人に接点は生まれないだろう…。
そんな想像をしながら読み進めた。
全国テストの結果、翼は親(主にママ)の誘導により、自分で選択したかのように中学受験のレールに乗せられる。
これも中学受験親あるある話だ。
翼は最初から有望な地頭の持ち主なのに、読み進めていくごとに、なぜかボリュゾの息子と重なった。
そして、翼ママの息子への入れ込みぶりに「私はここまでやれない…」と舌を巻いた。
もちろん、私は翼ママではないし、息子も翼ではない。
上位クラス落ちと、その時の親の気持ち
翼は最上位からクラス落ちするのか。
この物語はリアルなストーリーだ。
だからこそ、翼みたいな優秀な子供もクラスを上がったり下がったりする。
実際、最上位クラスではない我が家の息子も、クラス落ちした。
この先も、落ちるクラスがある内は、どこまで落ちるのかもわからない。
私が唯一理解できなかったのは、クラス落ちがわかった翼ママが、塾の先生に電話して「翼を見捨てないで下さい」と涙ながらにすがるシーンだ。
塾の先生は、もちろん、見捨てるなどと言ってはいない。
塾にお金を払って見捨てられるなんて耐えられない。そんな塾こっちからやめてやれ、とは思わない翼ママ。
もちろん、私自身がそう考えるというわけではないのだが……。
それにしても、クラス落ちだ。
我が家の場合、落ちる兆しはあった。
クラスが落ちる直前、息子は下がりすぎた成績を前に何をしていいか分からず、親のテコ入れ後に持ち直すと天狗になった。その結果、また下がった。
私も半ば「落ちたらいい」「それも息子のため」と思うようにしていた。
つまり、現実にクラス落ちした頃には、すでにこちらは心の準備完了という状態だった。
良くも悪くも、翼ママほどの衝撃は感じなかった。
これは想像の域だが、最上位クラスに近いほど、「落ちたくない」「落ちることができない」プレッシャーがすごいのではないだろうか。
クラス落ち歓迎とまでは言わないが、クラス落ちくらいで人生変わらないと思ってしまうのは我が家がボリュームゾーンだからなのかもしれない。
(ボリュゾはボリュゾなりの悩みはあるのだが…)
翼パパの発言は、うちの夫の発言と酷似
初めてこの物語を読んだ時、問題を解けない翼に苛立ち、次第に攻撃的になっていく翼パパに腹が立った。
たかが難問じゃないか。
難問と息子、どっちが大事なんだ!という怒りだ。
苛立つのも言いすぎるのも理解できるが、さすがにやりすぎだ。
他にも、私が怒りと悲しみを感じた翼パパの発言の一部を取り上げてみたい。
「あいつが帰ってきたら俺がもう一円も払わないことを伝えてくれ」
「あいつはもう駄目だ」
「俺はあいつを見捨てるから」
追い詰められた翼が、両親を悲しませるようなことをしてしまったのも悪かったと思う。
だからと言って、パパにここまで言われては翼がかわいそうだ。
私が、このセリフを初めて読んで怒りに震えてから2年。
我が家にも似たようなセリフを言ったことがある夫がいる。
直接息子には言わずに、私に言うのだが、それはそれで本当は私に言いたいのだろうかと思わずにいられない。
それはそうと、翼パパの言葉で特に気になるのが「見捨てる」。
見捨てるというのは、どういう行動を取るつもりなのだろうか。
うちの夫の場合、その言葉は言いっぱなしで実行されたことはない。
夫が息子を見捨てると言ったところで、客席から野次を飛ばされるのと一緒なのだ。
結局、その言葉は本気ではなく、感情のまま口をついて出たものなのだろう。その翌日には、息子と2人でキャッキャッ笑ってたりする。
結局は翼だって、こんなこと言ってくるパパの背中を追うことになるかもしれない。
パパには少し堪えてもらいたいものだ。
そんなことをつらつら考えながら、ふと思ったのだが、パパは翼に過去の自分の姿を重ねてしまったのではないだろうか。
こんなケアレスミスをしてしまう昔の自分、それが鈍臭く見えてしまって、過去の自分の姿に苛立つ。
そして、今目の前にいる息子に、その苛立ちをぶつけてしまったのかもしれない。
その時の翼は、翼パパにとって昔の自分の姿なのかもしれない。
ドラマにならない現実の受験を生きる人へ
翼の翼は、ドキュメンタリーっぽいフィクションだ。
この本を初めて読んだ後、ラストに近づくにつれ、私の涙腺が崩壊していった。
読み終わると、「この話がリアルなら、中学受験とは、こんなにも大変なのか」と感じた。
まるで、監獄に自ら入っていくような気持ちになり、心が重くなった。
少なくとも、中学受験という選択肢を知らなければ、こんな思いをしに行きたいとは思わないだろう。
当時、思いがけず、息子が小3で入塾してしまった。
自分の気持ちの重さが加わり、小3時代は、息子を必要以上に厳しい目で見てしまったと思う。
それでも、中学受験をするからには、この本を読んで良かったと思う。
翼ママの姿は、いつか自分もそうなり得たかもしれない一つの「もしも」を、先に見せてくれた気がするからだ。
中学受験が、どんなストーリーになるのかは、自分自身で決めていくものだと今は思っている私なのだった。
▼『翼の翼』朝比奈あすか 光文社文庫
中学受験のスタートラインに立つ親にも、受験の真ん中で悩む親にも、一度は読んでみてほしい。
▽コミック版
私は未読だが、小説版とは受ける印象も違いそうなので、読み比べてみたいと思った。
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