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部長が人知れずぶつかっている「5つの壁」と、人事が押さえたい育成ポイント

こんにちは。グロービス法人部門 note編集部の荒井です。

前回の記事では、「エース級の課長だった人ほど、部長になった途端に伸び悩んでしまう……」という人事の皆さまが直面しがちなお悩みと、その背景にある「部分最適の罠」についてお伝えしました。

お読みいただいた皆さまの中には、
「部分最適から全社視点へのシフトが大事なのはわかった。じゃあ、人事としては具体的にどうすればいいの?」
「多忙な部長陣が心から価値を感じて、自発的に参加したくなるような『育成の場』って、一体どうやって設計すればいいんだろう」
と、次なる一歩に頭を悩ませている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、部長クラス(上級管理職)を育成する際の5つのポイントについて、グロービスの企業研修で講師を務める上山紗緒里監修のもと解説します。
まずは、部長の方々が現場で何に苦しみ、どんな壁にぶつかっているのか――それを紐解くことから始めましょう。


部長たちが人知れずぶつかっている「5つの壁」

課長時代は現場のトップランナーとして、誰よりも成果を出してきた自負があるからこそ、部長に昇格すると、多くの方がこれまでのやり方をさらに強化しようとします。

しかし、思うように成果が出ない。

「課長時代は上手くいったのに、なぜ空回りするんだろう」
「自分が動けば動くほど、組織の足並みが乱れていく気がする……」

そんな違和感を抱えながらも、「部長なのだから、できて当たり前」という周囲の視線に、出口の見えない霧の中で立ち尽くしてしまうことも少なくありません。

部長の方々が胸の奥に抱えている5つの葛藤を、人事の視点から少し覗いてみましょう。

1.管理範囲の拡大に「視座」が追いつかない

課長時代は、「自分のチーム」という目に見える範囲をきっちりコントロールすれば成果を出せました。
しかし、部長になると管理の対象が50人、100人と広がるため、組織の細部まで直接コントロールすることは物理的に不可能になります。
この「“見えない範囲”の拡大」を前にしたとき、視座が十分に高まっていないと、つい慣れ親しんだ「現場の細かい問題解決」に意識を向けてしまいます。

高い現場対応力があるばかりに、かえって上級管理職としてのステップアップを阻んでしまう。これは実にもったいない構造です。

2.“見えない範囲”が広がる一方、労務責任は重くなる

評価・処遇・ハラスメントなど、労務に関わる課題は本当に複雑で、一筋縄ではいきません。
先ほどもお伝えしたように、部長クラスになると“見えない範囲”が大きくなります。
そのため「まさかそんな問題が起きていたなんて」と、事態が深刻化するまで気づけないリスクと常に隣り合わせです。
しかし万が一初動対応が遅れれば、部門内の問題に留まらず、組織全体の信頼を揺るがす事態になりかねません。

「見えない、けれど全責任は自分にある」という、極めて重い責任を背負っているのです。

3.「正解のない問い」に挑むプレッシャーを抱える

情報が揃っていない、誰も正解を知らない。
そんな状態でも、部長は意思決定を先送りすることはできません。
「私たちはこっちに進むぞ」と、先頭に立って方向性を示す必要があります。

経営層からの抽象的なオーダーを読み解き、現場が実行できる具体的な施策に落とし込んでいく。
この「翻訳」のプロセスは想像以上にタフで、判断の重さと責任の大きさが、ズシリと心に蓄積していきます。

4.課長を信じきれず、業務を巻き取ってしまう

  • 「自分が直接見ないと、現場の情報が抜け落ちて判断を誤るのではないか」という不安

  • 「課長から上がってくる情報は正確だろうか。自分で確認したほうが早い」という焦り

これらが原因で、ついつい判断や業務を巻き取ってしまうケースが後を絶ちません。
しかし、この介入が癖になると、部長本来の役割である「間接マネジメント」への移行がストップしてしまいます。

さらに、部長自ら現場の問題解決を行うことによって、その役割を担うべき課長クラスの育成も後回しになるリスクが高まります。

5.誰にも弱音を吐けない「孤独」と、良き規範であることへの重圧に直面する

部長のちょっとした発言や行動は、本人が思っている以上に組織の「当たり前(文化)」として広がります。
「常に良きお手本であらねばならない」というプレッシャーは、想像以上に重いものです。
しかもその職位ゆえに、社内で「実は悩んでいて…」と本音をこぼせる相手がいない、特有の孤独とも戦っています。
部下のケアと自身のコンディション管理を同時に求められる点も、難しさの一つといえます。

部長クラス(上級管理職)を育成するための5つのポイント

ここまでご紹介したさまざまな「壁」は、経験を積めば自然に乗り越えられる、というものではありません。
課長時代に活躍した人ほどこれまでの成功体験が足かせになってしまうため、個人の努力だけでは限界を迎えてしまうのです。
大切なのは、「これまでの勝ちパターンを一度手放し、経営視点へシフトする機会」を人事の皆さまが意図的につくることです。

ここからは、育成機会を設計する際に意識したい、5つのポイントを見ていきましょう。

1.スキルを考える前に、まずは「期待役割」の言語化から始める

「うちの部長陣には、どんなスキルを学んでもらうべきだろう?」
「とりあえず他社で評判のいい研修を導入してみようか」
——そんなふうに、ついつい“学習コンテンツ”やスキルの棚卸しから考え始めてしまうことはありませんか?

「早くなんとか手を打たなければ」と焦る気持ち、とてもよくわかります。

ですが、まずは一歩踏みとどまり、「自社の未来のために、部長クラスにどんな役割を担い、どんな行動をしてほしいか」という“あるべき姿”を言葉にすることから、始めてみませんか。
なぜなら、スキルやマインドは単体で存在するものではなく、あくまで「求める役割や行動」を支えるために必要なものだからです。

また、役割を定義する際は「どこまでが課長の判断領域で、どこからが部長の判断領域か」という境界線を組織内で共有することも大切です。
この線引きを明確にすることで、部長の過度な現場介入を防ぎ、組織としての自律性を高めることができます。

2.「経営の視点」を体系的に育てる

どんなに優秀な方でも、全組織を網羅的に経験して部長になったという例は滅多にありません。
特定の領域への専門性は強みですが、それが「経営全体を俯瞰して戦略を立てる」という、本来の部長の役割を果たすうえでの足かせになってしまうことがあります。
だからこそ、ヒト・モノ・カネを横断的に捉える「経営の基本」を体系的に学ぶ機会が不可欠です

さらに、経営の知識を学ぶだけでなく、不確実な状況で判断に迷ったときの拠り所となる、自分自身の「志(判断軸)」を育てることも欠かせません
知識と志、二つをセットで育めるようなプログラムを設計しましょう。

3.最新の経営知識を「自分の言葉」にする力を養う

変化の激しい時代において、生成AI活用や人的資本経営など、経営テーマに関する知識をアップデートし続ける姿勢は不可欠です。
しかし本当に大切なのは、「知識を蓄積すること」ではありません。
その知識を使って経営層の意図を読み解き、「会社は今、こういう方向を目指している。だから、うちの部門ではこの施策をやっていこう」と自分の言葉で力強く伝えることです。

これまでのやり方や判断の前提そのものを自ら見直していく、そんなしなやかな姿勢を育んでいきましょう。

4.実践と振り返りで「決断力」を鍛える

正解のない不確実な状況で決断を下す力は、座学だけで身に付くものではありません。
実際の経営課題をテーマに、「自分とは異なるバックグラウンドやロジックを持つ他者」と徹底的に議論する場を設けることが効果的です

「なるほど、そっちの視点から見ると私の判断はリスクだらけだったか…」

と自らの偏りに気づく経験こそが、多角的な視野を養います。
研修で学んだことを現場で試し、その手応えや失敗を再び持ち寄って振り返る。
このサイクルを繰り返すことで、再現性の高い「決断力」を段階的に高めていきましょう。

5.一度の研修で終わらせず、学び続ける仕組みをつくる

部長クラスの育成は、単発の研修だけで完結するほど甘くはありません。
先ほどお伝えした通り、経営テーマは時代とともに変化するため、一度の学びや過去の経験則だけで走り続けることは不可能なのです。
そのため、常に最新の知をキャッチアップし、自部門の戦略をブラッシュアップし続ける「終わりのない学び」の環境が必要です。

そして何より、部長が学びを止めた組織には、「現状維持でいいや」という停滞感が一気に広がってしまいます。
「あのポジションの人が、まだ新しいことを学ぼうとしているんだ」と部下の挑戦意欲を引き出すロールモデルであり続けるためにも、「学び、実践し、振り返る」サイクルを回し続ける仕組みをつくることが重要です

おわりに

今回は部長クラスが直面する「5つの壁」と、それを乗り越えるための「5つの育成ポイント」をお届けしてきました。

「うちの会社は、部長になったあとも、こんなに自分の成長を応援してくれるんだ」

部長の方々にそう感じてもらえるような仕組みを、人事の皆さまがつくること。
それこそが、孤軍奮闘する部長たちを救い、自社の未来を力強く切り拓いていく確かな一歩になるはずです。

当事者のプライドを大切にしながらマインドを切り替える仕掛けや、「これなら受講したい!」と思ってもらえる研修設計など、私たちはこれまで多くの人事の皆さまに伴走してきました。
「うちの会社の部長陣、今こんな感じでさ……」という、まとまっていないお悩みをそのまま吐き出す“壁打ち”からでも大歓迎です。
いつでもお気軽にご連絡くださいね。


次回は、誰もがリスクや不安を感じることなく、健全に意見を交わせる組織の土壌をつくる「心理的安全性」について詳しくご紹介します。
ぜひご期待ください!

※本記事は以下のコラムの一部を再構成しています

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